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Chapter9-4 白兎の里(3)

 ユリィカに村の位置を聞き取り、オレたちは【位相連結(ゲート)】を使って急行した。


 転移した先は、村というよりは集落と言い表した方が良さそうなほど、小さな村落だった。山林を切り開いたこじんまり(・・・・・)した空間に、木製の家々がポツポツと建っている。しかも、魔道具が普及している現代において、井戸や釜戸など、かなり原始的な道具も散見された。


 “時代に取り残された村”と表現するのが正しいのかもしれないな。


 日頃は静寂が包んでいそうな村だが、今は騒々しかった。老若男女問わない悲鳴が、引っ切りなしに聞こえてくる。


「みんなッ!」


 村人たちの安否を心配したユリィカが、我先にと走り出した。ニナとの修行の賜物か。元々足技が得意と言っていただけあって、ものすごい速度で駆けていく。


 不意を打たれたとはいえ、ニナを出し抜くとは驚いた。足に関わる能力に限定すれば、いずれニナを超える可能性がありそうだ。


「ユリィカ!?」


 無警戒に走り去ってしまった友を心配し、ニナも慌てて後を追っていく。


 そう心配しなくても、この村はオレの魔力の射程範囲内。いくら離れても余裕で対応できるんだけどな。


 まぁ、目の届く場所にいてほしいという気持ちは理解できるので、好きにさせておこう。ニナなら何も問題はない。


「どうするの?」


 ニナの背中を見送った直後、ミネルヴァが端的に問うてくる。


 オレは、ザっと村全体を探知してから答えた。


「オレとスキアは、ニナたちを追う。幽霊(ゴースト)への対処だ。オルカとマリナは、村内で倒れてるヒトを回収してくれ。重傷者はいないが、あとで治療は行った方が良い。二人の探知能力であれば、そう時間もかからないはず」


「わ、分かりました」


「外に転がせておくのは良くないもんね」


「頑張ります~。ねっ、マイムちゃん」


「あい!」


 名前を呼ばれた面々は、気合を入れた返事をする。


 ちなみに、マリナの契約精霊であるマイムは、今まで彼女の【位相隠し(カバーテクスチャ)】の中にいた。


 無属性以外の【位相隠し(カバーテクスチャ)】は、中のモノに己の属性――マリナの場合は水――の影響を強く与えてしまう欠点がある。


 だが、自属性と合致する精霊は問題ない。自属性の魔力は精霊のエネルギーになるから、むしろ力を漲らせるくらいだった。


 カロンが疑問を呈する。


「お兄さま。オルカとマリナに、(わたくし)は付いていかなくて宜しいのでしょうか? ケガ人等がいらっしゃるなら、(わたくし)が同行して、その場で治療した方が良いのでは?」


「それはそうなんだけど」


 オレは彼女の理屈は正しいと認めながらも、チラリと山頂側へ視線を向けた。


「山頂方面から、ゾロゾロと何かが来てるんだ。どれも魔力がほとんど見えない割に、呪いが強い」


幽霊(ゴースト)の群れですか?」


 状況を理解したカロンは、まとう空気を鋭くさせた。


 オレは首を横に振る。


「いや、実体があるっぽい。これはたぶん……」


「たぶん?」


「ゾンビだな」


「ゾンッ」


 絶句するカロン。


 気持ちは分かる。これまでもホラーだったけど、ゾンビはシャレにならないよね。幽霊(ゴースト)首無し騎士(デュラハン)と違って腐った死体。かなりグロテスクな見た目をしていると予想がつく。


 おっと。タイミング良く、ゾンビの監視を任せた部下より連絡が来た。ふむふむ……うわぁ。


「追加報告だ。ゾンビおよびスケルトンの群れは強い腐敗臭を放っており、加えて、触れたモノを腐らせる能力を有してるらしい。通った道は、草一本生えてないってさ」


 オレの報告を聞き、顔をしかめる一同。


 すると、ミネルヴァが焦った風に口を開いた。


「待ちなさい。そのゾンビたちの相手をするのって、カロン以外だと私とシオンってこと?」


 心底嫌そうな表情を浮かべる彼女。これまでの情報を聞けば、誰だって嫌に決まっていた。


 オレは苦笑を溢しつつも頷く。


「嗚呼。カロン、ミネルヴァ、シオンの三人に当たってほしい」


「そこは、あなたが対応すべきじゃないの?」


「ミネルヴァさまの仰る通りです。私はともかく、他のお二方に対処いただく案件ではないかと」


 対し、ミネルヴァとシオンが反論を口にした。


 当然の判断だな。生理的嫌悪は置いておいても、突発的に発生した事態の対応へ、貴族令嬢たる二人を任命するのは宜しくない。


 とはいえ、現状の手札を考えると、これがベストの配役なんだよなぁ。


「そちらの言い分はもっともだと思う。でも、オレは村人たちの方へ向かわなくちゃいけないんだよ。ここみたいな閉鎖的な村なら特に」


 ユリィカの発言から、村人たちの性格は大体察しがついている。そして、今後の展開は容易に想像がついた。


 きっと、ニナとスキアが幽霊(ゴースト)退治に尽力しても、こちらにイチャモンをつけてくる可能性が高い。その際、責任者であるオレが即座に対処できた方が穏便に済む。


 無論、カロンたちの方もしっかり考慮している。


「ゾンビたち個々の能力は高くない。一般人以下だ。まかり間違っても、キミらが被害を受ける心配はないよ」


 探知術越しに【鑑定】は済ませてある。どんなにラッキーパンチが起ころうと、カロンたちが負傷する未来はあり得なかった。


 それに、


「そっちには対群戦闘に打ってつけのメンバーがいるじゃないか」


「対群? ……嗚呼」


 ここにきて、ようやくミネルヴァが得心した表情を見せた。シオンも同様。


「お兄さまの仰る通りです。広範囲攻撃は(わたくし)にお任せください!」


 タイミングを見計らっていたのか。カロンが豊満な胸を張って、自信満々に声を上げた。


 そう。カロンは広範囲や高火力技のプロフェッショナルである。百程度の敵なんて、一瞬で殲滅可能だろう。対応力の高いミネルヴァやシオンが加われば、鬼に金棒だった。


「ちゃんと考えてたわけね。当然といえば当然だけど」


「そりゃそうさ。というか、安全な後方でぬくぬく過ごすのは、キミたちの望むところじゃないだろう?」


「……そうね。少し常識に縛られすぎてたわ。ホラー続きで混乱してたみたい」


「私も動揺していたようです」


 オレの指摘を受け、ミネルヴァとシオンは自嘲した。


 今回の作戦は、みんなの意を汲んだものだ。オレの意見を全面的に採用した場合、彼女たちは一切関わらせないもの。


 あと、カロンたちには言わないが、向こうもオレのフォローが届く。探知範囲ということは、【銃撃(ショット)】の範囲でもあるのだから。


 ゆえに、彼女たちが危機に(おちい)る可能性は、億が一にもないんだよ。


「納得してくれたのなら、そろそろ行動を開始しよう」


 ちょうど、ユリィカが村人たちを襲う幽霊(ゴースト)の元へ辿り着いたよう。


「みんな、自分の身を第一に考えてくれ。頑張れよ」


「「「「「「「はい!」」」」」」」


 異口同音の返事の後、それぞれが任された仕事をこなすために移動を開始する。


 ――って、


「スキア、待て。オレたちは【位相連結(ゲート)】で移動だよ!」


「あっ、は、はいぃ」


 駆け出す彼女を慌てて止め、オレは【位相連結(ゲート)】を展開した。


 羞恥で悶えているスキアは可愛らしくあるんだけど、この後の荒事に堪えられるか心配だ。キミが、対幽霊(ゴースト)の要なんだからな?

 

次回の投稿は明日の12:00頃の予定です。

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― 新着の感想 ―
動揺していたとはいえ普段から頼ってほしいと言っていたミネルヴァがゾンビは主人公が対応すべきと言ったのはやっぱり違和感あるな。
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