表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第一部 Main stage

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

360/1166

Chapter9-3 納涼(4)

 (わたくし)たちが連れて来られた場所は、一種の結界のようでした。ただ、“隔絶された”というよりは、ズラした空間のような感じがします。術式の詳細を(あば)けるほどの知識はありませんが、結界系に関しては結構自信がありますので、この見解はおそらく間違いないでしょう。


 問題は、どうやって(わたくし)とスキアを閉じ込めたか、ですね。いくら個別に行動していたとはいえ、お兄さまが警戒の手を抜くはずございません。


 であれば、誘拐犯は、その穴を突いたことになります。その点だけでも、並大抵の相手ではないと判断できました。


 加えて――


「な、何か、み、みみ、妙な気配を感じます」


 目を細めて周囲を見渡すスキアが、そのような発言をしました。


 その意見に、(わたくし)も全面的に同意します。一見すると、先程までと変わりない森林と山道なのですが、肌を撫でる空気がまるで違いました。冷たいというか、儚いというか……おぼろげで寂寞感を覚える雰囲気が、周囲一帯に蔓延(まんえん)しています。


 魔力の類ではないでしょう。【魔力視】で感知できていませんから。そも、近場に(わたくし)たち以外の魔力を感じません。結界の果てと思われる膜状の魔力を、遠目に確認できるくらいですね。


「スキア、探知をお願いできますか?」


 地の利を使うのは、魔法戦において基本中の基本です。今の時間帯は闇魔法の方が効率的かつ効果的のため、探知はスキアに一任しようと思います。


 すると、その辺りは彼女も理解していたらしく、即座に返答がありました。


「し、周囲五百メートル以内に、せ、生物や魔力体は存在しません」


「ありがとうございます。当分は、超遠距離攻撃に注意すれば問題ありませんね。そちらは(わたくし)が対処しますので、スキアは探知に注力してください」


「し、承知しました」


 スキアが気配を探るのに集中し始めたのを見届けた後、(わたくし)は対遠距離攻撃用の魔法を展開します。

 念を入れて、詠唱で補強しておいた方が良いでしょう。


「【シャインブースト】、【ディア・カステロ】」


 前者は光と火の複合魔法で、光魔法のみを強化してくれる術。後者は光の最上級防御魔法です。本来の耐久値は上級魔法までですが、強化された影響で最上級も耐え切れるでしょう。


 術の発動と同時に、(わたくし)たちは光の城に包まれました。サイズは抑えめにしたので、だいたい五十メートル立方に収まる程度です。


 また、視界不良も避けたいため、すぐに透明化も実行しました。一見すると城が消えた風ですが、しかと(わたくし)たちを守っております。


 これで良し。この強度なら、お兄さまやニナが放つような理外の一撃でもなければ破れません。最低でも即死等は回避できるでしょう。ケガは回復すれば良いですから、問題なしです。


 そう魔法のデキに満足していると、スキアより声が掛かります。


「の、呪い対策も、し、しし、した方が宜しいかと。こ、細かい状況が不明ですし」


「仰る通りですね」


 彼女の助言は納得のいくものでした。


 この事態に、魔女が関わっていないとは断言できません。妙な気配の正体も掴みかねている以上、防衛体制は念入りに整えるべきでしょう。


 光属性を付与する上級魔法【セイントフォース】を、(わたくし)たち各自と【ディア・カステロ】に施しました。これで、呪いの類は一切合切無効にできます。


「では、参りましょうか」


「は、はい」


 この空間からの脱出またはお兄さまたちとの合流を目指し、(わたくし)とスキアは歩き出します。


 移動しながらの最上級魔法の常時展開は、尋常ではない魔力を消費してしまいますが、必要経費と割り切るしかありません。小一時間でガス欠を起こすわけでもありませんし、気合を入れて耐えましょう。


 山道を辿ること十分ほど。駆け足気味だったとはいえ、もう山頂に到着しました。【身体強化】の恩恵ですね。


「妙な気配は相変わらずですが……他に目ぼしいものは見当たりませんね」


「は、はい。た、探知にも、ひ、引っかかりません」


 そう簡単に手掛かりが発見できるとは考えてはいませんでしたが、いくら何でもノーヒントすぎます。このままだと、山全体を駆け回る羽目に(おちい)るでしょう。


 その展開は避けたいところ。さすがに、山中を調べるほどの魔力はありませんから。せめて、調査場所の候補くらいは絞れると助かるのですけれど。


 そんな風に(わたくし)たちが立ち往生していると、唐突にそれ(・・)は発生しました。


 ふわり。


 もしくは“ゆらり”でしょうか。そういった擬態語が適当であろう仕方で、一人の少女が出現したのです。おおよそ五十メートル前方、【ディア・カステロ】のギリギリ圏外に。


「「ッ!?」」


 (わたくし)たちは瞠目(どうもく)しました。特に、スキアの動揺は大きいです。


 何故なら、目前の少女はコチラの警戒網を潜り抜けて登場したゆえに。


 フォラナーダ式の鍛錬を始めて半年程度とはいえ、現在のスキアの魔法技量は一般を上回るもの。彼女に悟らせない時点で、少女が異常な存在であることは確定していました。


 また、少女の格好も不自然すぎます。白いワンピース一枚の装いは、決して山登りを行えるものではありません。偏見かもしれませんが、目元を大きく隠す髪型も、外で遊ぶ子には不似合いでした。


 どこに焦点を当てても、おかしすぎる少女。(わたくし)たちは【身体強化】のギアを上げ、よりいっそう彼女を警戒します。


 しかし、彼女を注視した結果、さらなる驚愕を発見してしまいました。


「魔力が……ない?」


 目の前の少女からは魔力が感じられませんでした。いえ、正確には、魔力は微量ながら存在します。ですが、ヒトとしてあり得ないくらい僅かでした。


 たとえるなら、食べ終えた料理の残り、食器にこびりついたゴハン粒程度の代物。とても『魔力がある』と言える状態ではありませんでした。


 驚きは、それだけに留まりません。


「か、かかかかか、カロンさま。ああああ、あの、あの子、じ、実体が、な、なな、ないです!?」


 いつも以上に声を震わせるスキア。


 その指摘を受け、(わたくし)も気がつきました。


 彼女の言うように、少女には実体がないのです。魔力がほとんど空っぽなのに、実体もない。それはまるで――


「ご、幽霊(ゴースト)……?」


 物語の中で『未練を残したせいで現世を彷徨(さまよ)う魂』と紡がれる存在。空想の産物にすぎなかったはずの化け物に酷似していました。


 微かに震えるセリフを耳にしたせいか、少女は笑いました。ぐにゃりと口角を歪に持ち上げ、ケタケタと笑声をあげました。


 それに対し、(わたくし)たちが恐怖を覚える暇はありません。


 次の瞬間、ボボボボボボボボボボボボと青い炎がたくさん立ち上ったのです。どれも、【ディア・カステロ】の範囲ギリギリ。


 炎は一瞬で消えましたが、そこには少女と似たような格好の子どもたちが現れました。目元は見えず、白い装束で統一した集団。全員がニタリと不気味に笑っています。


 そして、


 ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!!!!!


 彼らは、見えない【ディア・カステロ】を一斉に叩き始めました。一つ一つは小さな衝撃ですが、それが何十も重なれば、大きな音と振動を生みます。耳にうるさいほどの大音声が一帯に響きました。


「「ひぃ」」


 誠に情けないことですが、(わたくし)は小さな悲鳴を漏らしてしまいました。それはスキアも同様。


 ですが、弁明させてください。


 正体不明の少年少女たちが、笑いながらコチラに迫ってこようとしている現状。いくら子ども好きの(わたくし)と言えど、これには恐怖を覚えてしまいます。というか、怯えない方がいたら、ぜひともお会いしてみたいくらいです。


 事態は、完全にホラーでした。何者かの魔法か何かかと疑いましたが、魔力の痕跡は見当たりませんし。


「って、呑気に考察している場合ではありませんね。逃げますよ、スキア!」


「は、はいぃぃぃ」


 敵に包囲された状態は好ましくありません。こちらの攻撃が効果あるのか試すにしても、機会を改めるべきでしょう。幸い、【ディア・カステロ】は突破できないようですから、時間稼ぎは容易です。


 (わたくし)は涙目のスキアを引きつれ、山道を駆け下りました。


 その際、元来た道とは別方向に走ってしまったのは、些か失敗かと思いましたが、後戻りはできません。


 いったい、何に巻き込まれたのでしょう。


 そのような疑問を胸中に抱きつつ、(わたくし)たちは必死に足を動かすのでした。

 

次回の投稿は明日の12:00頃の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
主人公は山の中まで探知してなかったのか?常に王都全域を覆える探知なら山の中も探知できたと思うが。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ