Chapter6-3 主人公たち(1)
午前中の授業が終わり、昼休みを迎えた。ミネルヴァは同じ授業だったが、他の面々は違う講義を受けていたため、今から合流を目指す。
一番近場だったカロンを訪問した時だった。
「か、カロラインさん。一緒に昼食でもいかがかな?」
教室に入って目の当たりにしたのは、カロンを食事に誘う勇者ユーダイの姿だった。
「殺気、漏れてるわよ」
「おっと、あぶない」
並ぶミネルヴァの指摘を受け、すぐさま感情を沈める。出入り口付近の生徒が気絶してしまったけど、倒れる前に支えたのでケガはない。あとで謝罪の品を贈っておこう。
というか、この状況は何だ?
カロンとユーダイが対面しており、他者は遠巻きに生暖かい目で様子を窺っている。まるで、甘酸っぱい青春の一幕だった。
そういえば、勇者はカロンに気がある素振りを見せていたな。七、八年も前のことだから、すっかり忘れていた。入学してから接触もしてこなかったし。
カロンの背後にはシオンが控えており、ずっとユーダイを警戒している。心配するほどの展開ではないけど、些か面白くない状況ではあった。カロンに粉をかけようとしているユーダイもそうだが、何よりも周囲が『お似合い』みたいな雰囲気で眺めているのがイラ立つ。
まぁ、ユーダイの評判を考慮すれば、そうなってしまうのは理解できるさ。入学翌日にオレと衝突して以来、彼は生真面目に生活を送っていた。原作通り、いくつかの小さなイベントはこなしているし、生徒会の仕事も請け負っているという。一般生徒からすると、ユーダイは理想の勇者像を体現しているんだろう。
勇者と聖女が結ばれる。実に見栄えの良いカップルだ。大衆が興味をそそられるのも当然だった。
しかし、しかし、だ。貴族としても、個人的にも、カロンをユーダイと結ばせる選択肢はあり得ない。絶対に、その未来だけは回避させてもらう。
「行こう」
「はぁ、シスコンなんだから」
「今さらだろ」
「開き直らないでちょうだい」
ミネルヴァに声をかけると、彼女は呆れ混じりに呟いた。
肩を竦めて返すけど、さらに苦言を呈されてしまう。
確かに、我ながらシスコンがすぎるとは思うけど、こればっかりは変えられない性分だ。諦めてくれ。
少し申しわけない気持ちを抱きつつも、オレたちは渦中へ前進する。
その間も、カロンたちの会話は進んでいた。
「お誘いはありがたいのですが、お断りさせていただきます。先約がありますから」
仄かに笑みを浮かべ、社交辞令的に拒否するカロン。
だが、舞い上がっている様子のユーダイは、彼女のセリフの意図を読めなかった。「だったら」と食い下がる。
「そっちの都合がつく時でいいから、一緒に食事をしませんか?」
彼の瞳に宿っているのは、あからさまな好意だ。もはや隠しようもないそれに、周囲は騒つく。特に、色恋に興味津々な女生徒たちは、にわかに騒がしくなる。
対して、その感情の向く先であるカロンは、
「申しわけございませんが、お断りします」
と、淡々と返すのだった。
彼女の表情は訝しげで、僅かに首を傾げてもいる。
その様子を認めたミネルヴァが呟く。
「前々から思ってたけれど、あの子ってものすごく鈍感よね」
激しく同意するよ。
あれだけ分かりやすい態度を見せているのに、肝心のカロンが気づいていないというのは、少しだけ……ほんの少しだけユーダイに同情した。
本当に不思議で仕方がない。普段は他人の機微に聡いはずのカロンが、こと恋愛方面に関わると、途端にポンコツと化す。数多の鈍感主人公たちに匹敵する鈍さを披露するんだ。
正直、原因が分からないんだよなぁ。みんなから愛される子に育てたと思うんだが。
「どこを間違えたんだろうか?」
「何もかもを間違えてると思うわよ」
ミネルヴァより鋭いツッコミが投げられてしまった。半眼で睨まれてもいる。
内容を口に出してはいなかったはずだけど……付き合いも長いし、何となく察しをつけられてしまったか。
まぁ良い。カロンの鈍感さに気勢を削がれてしまったが、今はあの二人の元へ急ごう。
「カロン」
「お兄さま!」
オレが名を呼ぶと、カロンは先までの作り笑顔を一転。曇りない満面の笑顔を浮かべた。キラキラと輝いている。さすがは自他ともに認めるブラコン。
彼女はユーダイを置き去りに、こちらまで駆け寄ってきた。
「迎えにきてくださったのですか?」
「いつも通り、みんなで昼食にしよう」
「はい!」
快活な態度で返事するカロン。犬系の獣人なら、きっと尻尾をブンブン振り回していると思う。
それから、彼女は自然な流れでオレの手を握り、教室の外へと促す。
「他の皆さんは、これから合流するのですよね? でしたら、参りましょう。皆さんも、お兄さまをお待ちしていらっしゃるはずです」
「あ、嗚呼」
言われるがままに歩き出す。ミネルヴァとシオンも後に続いてくれた。
教室を出る直前、チラリとユーダイの方を窺う。
愕然と口を開く彼の姿は、とても哀愁を感じた。渦中の人物だったのに、いつの間にか蚊帳の外だったんだから無理もない。
……うん。同じ男として、この展開は真面目に同情する。強く生きろ、主人公。キミのヒロインは他にいるんだから大丈夫さ。
次回の投稿は明日の12:00頃の予定です。




