Chapter4-1 オープニング(4)
報告が遅れましたが、少し前にブックマークが2000件を超えました。ありがとうございます!
総生徒数の都合、学園のクラス分けは特殊な仕組みである。まず、成績順に大枠の四クラス――A、B、C、Dに分ける。その後、さらに一クラス五十人になるよう細分化するんだ。
小クラスの名称はA1、A2、A3といった感じ。ただ、こちらは、大クラスと違ってA1以外は完全にランダムな割り振りとなる。
また、大枠のクラスごとに校舎が異なった。Aに近いほど施設が豪華になる。
元々実力主義の帝国に対抗するための制度ゆえに、成績に関してはかなり厳格だ。地位を利用した誤魔化しは利かない。稀に、教員を脅す阿呆な貴族が出没するらしいが、逆に処罰を受けるのだとか。
こういうシステムである以上、当然ながらクラスの入れ替わり制度も存在する。方法は多岐に渡るので、今は割愛しよう。
入学式直後のクラス分けは、事前に行われた入学前テストで判断された。
内容は、大雑把に筆記と実技がある。
後者は言わずもがな、魔法の実演だった。これと言って特別なことはないが、学園ではコチラの比重の方がやや重い。
前者は結構細かい。人文科学から一つ、自然科学から二つ、社会科学から二つ、魔法科学から二つの合計七教科のテストを受け、その総点数を競うんだ。
ファンタジー世界だと侮るなかれ。物理や地学こそ前世より遅れているけど、その他は十二分に並んでいる。何なら、超えている分野もあるかもしれないな。魔法科学に至っては未知の領域だし、かなり本腰を入れて勉強しましたとも。
ちなみに、入学前試験の範囲は、前世で言うところの大学入試レベルである。前世で社会人だったオレはともかく、主人公勢は苦労したのではなかろうか。あの二人、ゲームの設定だと高校生だったはずだし。
閑話休題。
カロンたちには、座学と実技のどちらも叩きこんだ。A1だけは成績上位者で固めるルールなので、全員同級生になれているだろう。もし、落ちていたら……付きっ切りでお勉強である。
さて、そろそろシオンが戻ってくる頃かな?
クラス表は入学式後に公表されるんだが、確認する方法は二つあった。学園中に点在する掲示板に張られたクラス表を確認する、もしくは事務課より資料を取り寄せる。そのどちらか。
学園側は何故か前者を推奨しているし、大半の生徒はそれに従っているんだが、オレたちは後者を選んだ。手配をシオンに任せ、オレたちは入学式の際に使用した個室で待機しているわけだ。
人混みが面倒などの細かい理由もあるけど、大事なのは一点。イベントを回避するためである。
原作ゲームでは、クラス発表の場で初イベントが起こるんだよ。勇者と聖女、どっちもね。
特に聖女側が重要。ここで第二王子との初邂逅を果たし、聖女と悪役令嬢の対立関係が生まれるキッカケになるんだ。
現状、カロンと第二王子の関係は無に等しいので、そのような展開にならないとは思う。だが、どう話が転ぶか不透明である以上は、念を入れた方が良いだろう。掲示板へ向かわなければ、巻き込まれようがない。
第二王子が失脚した今、現実の世界にどんな影響が出ているか気にはなる。でも、見えている地雷を踏む趣味はないため、徹底して無視することにした。どうせ、このイベントはチュートリアルみたいなものなんだから。
カロンたちと雑談を交わしていると、部屋の扉がノックされる。シオンかと考えたが、違う人物だった。
「ミネルヴァ、こっちに来たんだね」
訪れたのは、オレの婚約者であるミネルヴァだった。身長百四十程度と小柄な体格をしており、ツインテールに結わえた黒髪がとても映える女の子だ。無論、その容貌はとても可愛らしい。
オレの言葉を受け、ミネルヴァは腰に手を当てて答える。
「ええ。あなたたちが無駄に動かないだろうことは、お見通しだもの」
些か不遜な物言いこそ、彼女の持ち味である。外面こそ強気だけど、本心はかなり優しい。いわゆるツンデレという奴だ。
感情を読めるオレ以外の面々も、この六年でミネルヴァの言動には慣れた。今や、フォラナーダ城の全員が彼女を温かく見守っている。
「ロラムベル公爵は?」
彼女が一人だけなのを不思議に思って尋ねると、ミネルヴァはあからさまに渋面を浮かべた。本音を隠す傾向にある彼女にしては、珍しい態度だった。
「撒いてきたわ」
「何故に?」
「ほら、あなたに会うと……ね」
「嗚呼」
得心した。
六年前の王宮派との一件で、オレは実力を公にした。色なしでも魔法を行使できると明らかにした。
その結果、オレへの態度が変わった者は多いんだが、その際たる部類がロラムベル公爵だろう。魔法狂とまで称される彼は、オレの扱う未知の魔法の情報を求めて、ネジの飛んだ対応を取ってくるんだ。例えるなら、徹夜明けのテンションか。
実の娘からしてみれば、父の狂った態度なんて目にしたくないに違いない。ゆえに、オレと公爵を邂逅させないよう、振り払って来たみたいだった。
「公爵さまを落ち着かせたいのなら、こちらには訪れず、あなたがストッパーになっていらっしゃった方が最善では?」
オレがミネルヴァを「お疲れさま」と労っていると、カロンが口を開いた。
彼女らしからぬ毒の含まれたセリフ。しかし、相手がミネルヴァとなれば、途端に普段の光景だった。
言の葉を向けられたミネルヴァは、当然ながら眉根をつり上げる。
「私はフォラナーダの別邸に向かうから、結局はお父さまと別れるのよ。いつ離れたって同じでしょう?」
「それなら、ギリギリまで抑えておいてくだされば宜しいのに。こういう時くらいは、お役に立っては如何ですか?」
「その仰いようだと、普段は私が無能だって聞こえるのだけれど?」
「あら。そう申し上げたのですよ。通じませんでしたか?」
「ハァ?」
「何か?」
次第に距離を詰め、至近距離で眼を飛ばし合う二人。もはやフォラナーダ城名物とまでなった義理姉妹ゲンカだった。
カロンとミネルヴァは顔を合わせる度に口論へ発展するんだ。そのくせ、主義主張は似たり寄ったり。
要するに、同族嫌悪の類なんだろう。オルカに言わせてみれば、『ケンカするほど仲が良い』だとか。根本的に嫌っているわけではなく、あくまでもコミュニケーションの延長でケンカをしているらしい。
いわゆるケンカ友だちという奴か。オレには理解できない感覚だけど、二人がお互いを憎み合っている様子はないので、これに関しては既に諦めている。
「まだシオンも帰って来ないし、お茶でも淹れようか」
「そうだね。ボクも手伝うよ」
「アタシも」
仲裁をせずともケンカが収まるのは立証済み。二人のことは放置して、シオンが戻るまで三人で時間を潰すことにした。この辺り、完全に手慣れてしまっている。喜んで良いのやら、嘆けば良いのやら。
大騒ぎを挟みつつも時間は経過し、ようやくシオンが帰還した。
「お待たせいたしました、皆さま」
「おかえり、シオン」
慇懃に礼をする彼女を労い、お遣いさせた資料を受け取る。といっても、オレたちの所属クラスの名簿のみだが。
「一枚ということは、全員クラスメイトか」
「はい。その辺りは融通させていただきました。ミネルヴァさまも同じクラスのようです」
「あら、私の分も考慮させたの?」
「はい。道中、公爵さまとお会いしまして、きっとミネルヴァさまもコチラにいらっしゃるだろうと」
「フン。使用人にしては良い判断ね」
「ありがとうございます」
軽いやり取りを挟み、名簿の紙へサッと目を通す。問題なくA1クラスのようだ。そして、残念ながら勇者と聖女も揃っている。
この辺は仕方がない。A1を狙わない選択肢もあったけど、中途半端なクラスを狙う方が難度は高い。そのせいで、全員が別々のクラスに割り振られてしまったら本末転倒だ。
読み進めていくと、意外な人物の名前を見つける。
「おや、グレイもいるのか」
彼は、原作ゲームでもA1所属だった。しかし、次期聖王へのレースから脱落した彼は、王城内では冷遇されている。第一王子が庇っているとはいえ、ゲームの時よりも成績を上げるのは難しい環境だったはず。
それにも関わらずA1に入れたとは、見上げた根性だ。持ち前の反骨精神で頑張ったのかもしれないな。
まぁ、だからといって、今さらグレイの評価が覆ったりはしないんだけども。ウィームレイの顔を立てて何もしないが、再び突っかかってきた時は容赦するつもりはない。
面倒なことにならないと良いな。そう願いつつ、オレは名簿を懐へしまった。
「それじゃあ、帰ろうか」
本日は入学式のみのため、そう皆へ声を掛ける。
オレたちは正門前に待機している馬車へと向かった。
次回の投稿は明日の12:00頃の予定です。




