Interlude-XXXXX 独白
本日二話目です。ご覧になる際は注意してください。
※時系列は「決闘(6)」の直後になります。
何だアレは何だアレは何だアレは!?!?!?!?!? あれは本当に色なしなのか? あんな化け物がいるなんて聞いていないぞッ! あんなのがいたら、僕の計画が台無しになってしまう。どうする? どうすれば良い?
……待て、落ち着くんだ。あのレベルの化け物のこと、もしかしたら陰で僕を見張っているかもしれない。ここで動揺して馬脚をあらわすのは避けるべきだろう。すぅ、はぁ……よし、これで良い。
しかし、今回の事件は、予想外の結果に落ち着いてしまった。あの化け物の要求を呑むとなれば、グレイの未来は詰んでいる。よほどの事態が起こらない限り、廃嫡は確実だ。
それは、ある意味で望ましいことであり、ある意味で好ましくないものだった。
長期的に見れば、僕の目指すモノにとって追い風になる。後継者が一人減ったため、あと二人を潰せば良いんだ。でも、短期的に見ると、僕にも被害が及ぶ。我慢するしかないが、喜ばしいものでもなかった。
クソッ、これも全部はグレイが悪い。
あの男、婚約者に襲いかかるとは思ってもみなかった。ちょっと第一王女への劣等感を刺激しただけだっていうのに、ここまで劇的な効果を発揮するとは思うまい。”徹底的にカロライン嬢を嫌う”程度で済むと判断したのが甘かった。グレイは、想像以上の阿呆だったんだ。
……いいや、グレイにのみに責任を押し付けるのも危険か。もしかしたら、僕の抱く”カロライン嬢の人物像”が不確かだったのかもしれない。ただ力を持てあましている小娘かと考えていたけれど、実際は違うのか? その齟齬が、今回の結果を生み出してしまった可能性を考慮すべきだな。
フォラナーダもフォラナーダだ。まさか、一大派閥の王宮派が騙し通されるほどの力を有しているなんて。しかも、それを外部に悟らせないとか、化け物の地元も化け物だ。
だいぶ前から、王宮も情報操作の影響を受けていたと予想できる。たぶん、僕の推挙――表向きは別人の推挙――で送り出したカーティスは、とっくの昔に排除されているはず。エルフの魔法を過信した結果が、現状の出遅れだろう。あの化け物を前にしたら、たとえエルフでも抗えまい。
まぁ、過ぎたことを考えても仕方ない。今後の方針を検討しよう。
現状、どれくらい手を広げているんだったか。『西の魔女』の助力を得てからというもの、結構色々手を出しているからなぁ。足はついていないはずだけど、念を入れて縮小運営しよう。エルフより情報戦を得手としているのなら、今は下手に動かない方が賢明だ。きっと、恐ろしい早さで捕捉されてしまう。
問題はどこまで切り捨てるか、か。
まず、王城内に広げていた手は引っ込めるべきだな。今回の一件のせいで、あの化け物の手の者が忍び込んでいる確率は高い。ここで少しでも怪しげな行動をすれば、芋づる式で僕の暗躍が暴かれてしまうだろう。
次に、王城以外――いくつかの他領で行っている実験は継続しても良いかな。僕が直接連絡を取るのは避け、作業を手下たちに一任すればバレないと思う。あいつらには、僕から連絡が来ずとも実験を続けろと言い含めてある。
最後に、魔女の問題。これは判断が難しいな。いくら化け物でも、あの女を出し抜くのは不可能だと考えるが……いや、アレには光魔法師の妹がいた。光属性は呪いの天敵。場合によっては魔女も始末されるに違いない。断ち切るには惜しい縁ではあるけど、ここは思い切って手を退こう。僕の目的に、魔女の存在は必須ではない。
そういえば、『西の魔女』に派閥の一人を紹介していたな。確か、魔女の方が良質の餌が欲しいとか言ったから、ちょうど良さそうな貴族の名前を教えたんだったか。見張らせていたエルフたちの報告によると、手広く犯罪行為に走っているらしい。……あの清廉だった男が、ねぇ。魔女の手練手管は恐ろしいものだ。
それらについては、無関係を装うのがベストかな。僕みたいに前もって知っていなければ、繋がりを見破りにくい隠蔽はしているようだけど、あの化け物たちにどこまで通用するかは不透明。万が一を想定するべきだろう。
うーん。こうして列挙すると、抱えている計画の大半を他領で行っていたことが功を奏した形か。僕自身がまったく動けなくなるのは手痛すぎるけど、まだ致命傷ではない。
七年だ。僕が学園へ入学する七年後までは、大人しく暗躍はしない。その間に化け物へ対抗できる手段を模索し、こちらが好き勝手に暴れ回れる土壌を作り出してやる。
雌伏の時だ。ゆっくりと、じっくりと、僕は力を溜めよう。この国は、絶対に滅ぼしてやるんだ。
次回の投稿は明日の12:00頃の予定です。