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【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第三部 After story

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Chapter30-3 過多(7)

 鉱山内の逸魔(いつま)一掃は、三時間ほどで完遂した。フォラナーダのフィジカル一位と二位が競い合ったんだ。当然の帰結である。


 それに、このオレが単純に討伐するだけで済ませるわけがない。討伐作業と並行して、この鉱山内でも探知術や【位相連結(ゲート)】を発動できる方法を確立しておいた。


 実態は、ただのゴリ押しだけどね。エネルギー濃度の薄いところへ、針に糸を通すように魔力を流しただけ。


 精緻な魔力コントロールは求められるが、これといって特別なことはしていない。通常時よりも術の完成まで時間が掛かるし。


 とはいえ、暗中模索よりも効率が上がったのは事実。後半の方が討伐速度は上昇していた。


 また、そのお陰で判明したこともある。


「厄介だな」


「同意」


 坑道の最奥に辿り着いたオレとニナは、そろって悩ましい声を漏らした。


 原因は目前にある。


 坑道の突き当りに開けた空間があり、そこにポツンと溜池が存在したんだ。半径一メートルほどの小さなものが。


 緋色に見えるが、それは底が緋色の地面だから。水自体は無色透明の模様。


 いや、溜池という表現は不適格か? 目の前のそれは、金属も一瞬で蒸発するレベルの熱を湛えているんだから。


 外へ発散される熱量は少ないものの、神化や疑似神化の扱えるオレたちでなければ、近づくことさえ難しかっただろう。


 無論、そんな温度なのに液状を保っているものが、単なる水分のはずがない。これこそ、鉱山の現状をもたらした元凶だった。


 この溜池は、実体化した魔力と生命力の塊なんだ。留め切れなかったエネルギーが鉱山に拡散し、今回の騒動を起こしていたのである。


 これだけでも十分に厄介な代物だが、先程の発言は別の部分を指してのものだった。


 何とこの溜池、底に穴が開いており、外部へ繋がっているんだよ。糸ほどの細い道だけど、確かに鉱山の外へ続いていた。


「鉱山内のエネルギーが過剰すぎて、外へ続く道に気付けなかった」


「日中の屋外で、豆電球を光らせても気づきにくいのと同じ?」


「独特の(たと)えだけど、そんな感じだな」


 “道”がかなり地下深くを通っているのも一因だろう。よほどのことがない限り、そこまで探知術を広げることはない。


「追える?」


「少し待ってくれ」


 ニナの問いに短く返してから、オレは意識を集中させる。


 幸い、“道”自体のエネルギー総量は比較的少なかったため、追跡は可能だった。


 弾かれないよう慎重に魔力の糸を延ばし、ゆっくり行き先を追っていく。


 程なくして、オレは眉根を寄せた。


 それに敏く気づいたニナが尋ねてくる。


「どうしたの?」


「“道”が……分岐してる」


「分岐?」


「三つに分かれてる。……いや、分岐した先でも分岐してるっぽい?」


「じゃあ、追跡は難しい?」


「そうだな。ここでチマチマ追うのは効率が悪い」


 彼女の質問に頷き、オレは探知術を解いた。


 無数に分岐しているのであれば、外から国全体を探知した方が早い。


 分岐先でもこの鉱山と同じ現象が起きているのなら、すぐに分かる。


「最悪、国外に広がってる可能性も視野に入れないとな」


「問題が大きくなってきた」


「まぁ、カナミラ内でも、ここでしか被害報告が上がってないから、可能性としては低いけどね」


 だとしても、最悪は念頭に置いて行動するべきだ。


「外に出て探知。それから対策会議……ん?」


「今度は何?」


「いや……」


 【位相連結(ゲート)】を開くために魔力を延ばそうとしたんだが、その際、何か妙な反応が引っかかったんだ。覚えがあるようで、ないような、そんな反応。


 首を傾げつつ、周囲一帯に改めて探知術を展開する。


 大半は高濃度のエネルギーに弾かれるんだが――


「あった」


 一つ。少し離れた場所に落ちていた小石から、他と違う反応が得られた。魔力をごっそり吸われたのである。


 歩み寄り、小石を手に取ってみる。そして気づいた。


「これ、は……」


「それがどうしたの?」


「……」


 オレはニナの問いには答えず、無言で小石を真っ二つに割る。


 その断面は白銀に耀いていた。


 魔力を吸う白銀の鉱物。そんな条件がそろったものなんて、オレは一つしか知らない。


「ミスリルだ」


 そう、ミスリル。オレとノマが協力して量産している(えせ)ではなく、本物のミスリル。魔力伝導に特化した伝説級の金属だった。


 嫌な予感を覚えたオレは、もう一度探知術を鉱山中に放つ。今度は特定の物質をピックアップするように。


 大当たりだった。この鉱山には他にもミスリルが眠っていたんだ。探知術が通りにくい現状でも、鉱脈らしきものが五ヵ所も発見できる始末。


 それだけではない。アダマンタイトやオリハルコンの鉱脈も、二、三ヶ所あった。伝説のバーゲンセールである。


 挙句の果てには、


「そこの溜池の底にも金属が眠ってる。オレも知らない奴だけど、絶対にヤバイ」


 他に比べると微々たる量だが、明らかにやばかった。


 魔力伝導率が、ミスリルよりも格段に高いんだ。注意深く観察しないと見逃してしまうほどに、魔力の手応えがない。


 また、溜池の熱にも耐えられている点を見るに、熱耐性も高いと判断できる。


「さしずめ、緋緋色金(ひひいろかね)ってところか」


 前世の知識から、そんな名称を当てはめる。


 オレが知らないだけの可能性もあるので、この場限りの仮称だけどね。


 しかし……そうか。


「本物のミスリルやオリハルコンを作るには、生命力が必要だったのか」


 鉱山の状況と照らし合わせるに、その可能性はとても高い。


 オレとノマでは本物が作れなかったのも納得である。反発する力を交ぜる危険性は、火を見るよりも明らかだったので、試そうとも思わなかった。


「すごく厄介」


 オレが一人で感心していると、ニナが呟いた。


 その言葉によって、オレも思考が現実に引き戻される。確かに、呑気に感心している場合ではない。


 この鉱山は宝の宝庫であると同時に、戦争の引き金もしくは火薬庫でもある。上手く運用しなければ、たちまち、戦火が大陸中に広がるだろう。


 これが大国なら不安も多少で済むんだが、カナミラ王国はただの都市国家。しかも、上層部の不和を目の当たりにしている。『上手く運用する』未来なんて想像できなかった。


 となると、今後の選択肢は絞られてくる。


「とりあえず、この溜池の熱量を理由に坑道は封鎖。ミスリルとかの話は、カナミラ王とバルヴァロ公爵のみに伝えよう」


 あの二人なら、無闇に情報を広めないだろう信頼が置けた。


 完全に黙秘するのもアリだったけど、あまり好ましくない。何故なら、いずれ希少金属の存在は露見するからだ。


「時間稼ぎにしかならないと思う。たぶん、“道”の先も同じ状況」


「分かってるよ。その時間が欲しいんだ」


 ニナの言う通り、ここ以外からもミスリルなどが発掘される可能性は高い。複数の場所を封鎖すれば疑念が湧き、探ってくる輩が増えるためだった。


 完全に封鎖しようにも、人手が足りないだろう。


「こうなると、内輪揉めにも介入する必要がありそうだな」


「やっぱり、そうなるか」


 深く溜息を吐くニナだったが、否定のセリフは口にしない。


 彼女も分かっているんだ。カナミラ王国の現状を放置すれば、大きな争いが起こり、その火の粉がこちらにも降りかかると。


「外に出て“道”の先を特定し、異常が他でも発生していることを報告。その後、情報を秘匿にしつつ、内輪揉めにこっそり介入、って流れかね」


「うん。実に面倒くさい」


「それは同感だ」


 単なる討伐および調査任務が、ものすごく複雑化してしまった。


 今すぐ帰りたい気分に駆られるけど、我慢する。ここで踏ん張らなければ、将来的にもっと面倒なことになるんだから。


 オレとニナはそろって溜息を吐きながら、開いた【位相連結(ゲート)】を潜って帰還するのだった。

 

次回の投稿は3月29日12:00頃の予定です。

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