Chapter30-2 カナミラ王国(7)
先日、ニコニコ漫画にてコミカライズが更新されました。
ゼクスの【銃撃】のシーンがとてもカッコイイ回です。
よろしくお願いします!
昼食会後、オレとニナは自室で待機していた。
すぐにでも出発したかったが、急遽同行することとなったカナミラ王国騎士団の準備が不十分だったのである。
とはいえ、そこまで時間は掛からないだろう。騎士団長を『そちらは常在戦場の心得がないのか?』と、遠回しに煽っておいたし。
ちなみに、リンデは、何人かの部下をつけた上で町へと出かけている。
というのも、バルヴァロ公爵と交渉し、彼の師匠だった鍛冶師への紹介状をいただいたんだ。今頃、彼女はカナミラ王国式の鍛冶を学んでいるだろう。
紹介状を握って出かける姿は、まるでテスト明けに遊びに出かける学生のようだった。あの時の彼女は、自分が勝手についてきた立場なのを忘れていたに違いない。
新たな技術を覚えるのが楽しみだという感覚は、とてもよく分かるけどね。
そんなわけで、オレとニナは二人で仲良く束の間の休息を楽しんでいた。
しかし、それも長くは続かない。部屋に響いたノック音によって、元々短かった一時は終わりを告げた。
「近づいて来てるのは把握してたが……」
「誰?」
「分からない。オレたちの知らない人物だ」
待機していたテリアが応対している間、オレとニナはコソコソと会話を交わす。
そのうち、確認を終えたテリアが、こちらに声を掛けてきた。ただし、たいそう困惑した様子で。
「ゼクスさま。カナミラの第三王女が面会をご希望なさっておりまして……しかも、今、扉の前までいらっしゃっております」
「「はい?」」
オレとニナは同時に首を傾げた。
当然である。一国の王女がアポなしで他国の使者の下へ赴くなんてあり得ない。いくら小国と言えど、だ。
「オレが忘れてるだけで、アポあったっけ?」
「ない。というか、ゼクスが忘れるわけない。精神魔法で記憶力補強してるのに」
「それもそうか」
「どうやら、ニナさまの大ファンだそうです」
「「あー……」」
テリアの補足に、再び同時に声を漏らすオレたち。
その理由は非常に納得のいくものだった。
二つ名持ちの冒険者であるニナは、どちらかというと国外人気の方が高い。
珍しい剣士寄りの戦闘スタイルの上、竜殺しの上位互換だからね。世の少年少女の心をワシ掴みしやすい要素がてんこ盛りなんだ。
加えて、ニナのファンは濃い面子が集まりやすい。学園の時しかり、魄術大陸の時しかり。
今までの経験を踏まえると、今回の王女突撃も理解できる範疇に収まった。
事情を察したオレは、ニナへ問う。
「どうする?」
「……どうするも何も、選択肢は一つ」
「だよなぁ」
ここまで押しかけるほどのファンだ、簡単に退くとは思えない。
断るために労力を費やすくらいなら、適当に応対した方が楽だろう。
出発まであまり時間は残されていないが、話を切り上げる口実になるので、それはそれで良し。余裕がある時に面会したら、延々と付き合わされる予感がするもの。
「通してくれ」
意見をまとめた後、オレはテリアに入室許可を下す。
それから三秒と置かず、件の王女が表れた。
「お初にお目にかかります、『竜滅剣士』ニナ殿! あたしはカナミラ王国第三王女ノリーン・ポロト・カナミラと申しますッ」
大音声を上げて自己紹介し、軍人かくやの敬礼を行う彼女。
ノリーン王女は、一見すると王女らしくなかった。仕草もそうだが、その容姿も。
まず、赤茶の髪。動きやすさを重視してか、短く切りそろえられていた。王侯貴族の息女としては非常に珍しい。
次に服装。ドレスではなく、騎士のような格好だった。騎士団の新人と言われても納得する装備である。
最後に手足の筋肉。十代半ばの年齢にしては、という注釈はつくが、とても引き締まっている。指には剣ダコも見受けられ、日々の鍛錬を欠かしていない証明だった。
身長は百五十未満と小柄なものの、よく洗練された騎士見習いと言えよう。やはり、王女という肩書に噛み合っていない。
山鳩色の瞳をキラキラと輝かせるノリーン王女は、程なくして、背後に控えていたお付きの一人――四十代くらいのメイドに脇腹を突かれた。
ノリーン王女は不服そうな表情を浮かべつつ、仕方ないと言った様子で言葉を続ける。
「フォラナーダ侯爵もごきげんよう。ご挨拶が遅れて申しわけございません。尊敬するニナ殿に会えた嬉しさが勝り、前後不覚となっておりました」
淡々と謝罪し、頭を下げる彼女。その様は王女然としており、ケチの付けようがなかった。
湛える感情は“嫌々”といった感じだが、表面上は取り繕えているんだ。そこを指摘するのは大人げないだろう。
オレはニナとともに立ち上がり、それぞれが挨拶を返す。
「ごきげんよう、ノリーン第三王女殿下。謝罪は受け入れます。その上で、気になさる必要はないと申し上げておきましょう。妻が人気なのは、夫として誇らしいですから」
「はじめまして、ノリーン第三王女殿下」
「寛大な采配を痛み入ります、フォラナーダ侯爵。それと、あたしのことは気軽にお呼びください」
「分かりました。では、ノリーン殿と」
「……アタシはノリーンと呼ぶことにします」
「ありがとうございます!」
ニナの淡白な挨拶に対し、物足りなさそうな表情を浮かべていたノリーン王女だったが、呼び捨てに態度を一転。大歓喜していた。何とも分かりやすい子である。
お付きの二人とともに席へ案内した後も、しばらくはノリーン王女のテンションは高かった。
「ノリーン殿。いったいどのようなご用件で、私たちの下を訪れたのでしょうか?」
このままでは話が進まないと判断したオレは、そう彼女に質問する。
嬉しい気分に水を差すのは悪いと思うけど、時間がないので、テキパキ進めなくてはいけない。
その辺りは、ノリーン王女も理解している模様。若干眉根を寄せつつも、滔々と語り出した。
「『今出向かなければ、ニナ殿とお会いする機会がなくなる』という理由もありますが、本命はもう一つの方です。例の魔獣の討伐に、あたしたちを同行させてくださいませんか?」
やはり、そういう目的だったか。
実のところ、ノリーン王女の申し出は予想できていた。
何故なら、彼女のもう一人のお付き――十六歳くらいの少年騎士が、非常に厄介な感情を湛えていたから。
自信に満ち溢れているというか、若さゆえに無謀を勇気と履き違えているというか。そんな感じの、見ていて恥ずかしくなる奴である。
それはノリーン王女も似たようなものだが。
パッと見た感じ、ノリーン王女もお付きの騎士くんも年齢の割には強い方だ。前者は聖王国の学園でAクラスを狙え、後者は王城警備くらい任せられると思う。
しかし、所詮はその程度。A1は難しいし、近衛なんて夢のまた夢。同年代と比べてやっと上の中。全体では上位にも入らないレベルだった。
カナミラの騎士団を連れて行くだけでも面倒なのに、それよりも弱いメンバーを二人も追加する余裕なんてない。
ゆえに、
「お断りします」
速攻で断った。
「何故でしょう? あたしやこちらの彼は、こう見ても結構強いのですよ? 実戦経験だって何度も積んでおります」
予想通り、こちらの即答にノリーン王女は食い下がってくる。
分かり切っていた反応なので、オレは淡々と返した。
「多少の実戦経験など些事です。相手は未知の魔獣。弱卒を同行させるほどの余裕はございません」
「弱そッ――」
あえて強い言葉を選んだんだが、彼女にとっては衝撃的だったらしい。絶句していた。
これも予想通り。
何せ、王女にもかかわらず、騎士ごっこを許されているんだ。甘やかされているのは想像に難くなかった。
お付きのメイドはそれなりに厳しいみたいだけど、彼女をオレたちの前まで通してしまった時点でお察しである。
要するに、彼女は非難され慣れていないんだ。だから、オレの発言に対し、適切な返答をできない。
「発言しても宜しいでしょうか?」
ノリーン王女が絶句する中、渦中の若い騎士がついに口を開いた。
彼は見下されることに慣れているようで、未だ涼しい顔を保っている。
当然、オレの答えは決まっていた。
「許可するわけがないだろう」
「ッ!?」
「何を驚いてる? オレやニナが挑むのは、国同士が交わした契約で、国益の絡んだ仕事だ。一兵卒に口を挟む権利なんてありはしない」
ついでに言うと、第三王女程度が戯れに参加できるお遊びでもない。
おそらく、模擬戦か何かを仕掛け、実力を認めさせようと考えたんだろう。
再三言うが、出発までの時間はそれほどないんだ。面倒ごとに構っている暇はなかった。
「フォラナーダ侯爵に……ノリーン殿下? 如何なさいましたか?」
ノリーン王女たち二人が言葉を失っている中、一人の文官が表れた。たしか、バルヴァロ公爵の部下だったはず。ナイスタイミングだ。
「騎士団の準備が整ったのか?」
「えっ、あ、はい。正門にお越しいただくようにと」
「分かった。すぐに向かおう」
「えっと、殿下の方は宜しいのでしょうか?」
「問題ない。……ではノリーン殿。時間となってしまいましたので失礼します」
一応、ノリーン王女に一言告げてから、オレは歩き出した。それにニナやテリアも続く。
部屋を出る際、ノリーン王女に思いっきり睨まれてしまった。
まぁ、気にしても仕方ない。王女さまの道楽に付き合うほどお人好しではないんだ。
逆恨みされて何か仕掛けられるかもしれないけど、それは何か起こった時に考えよう。今は件のアメーバに集中したい。
まったく。国の危機だというのに、カナミラの連中はそろいもそろって呑気なものだ。
次回の投稿は3月8日12:00頃の予定です。




