Chapter30-1 請い願う(1)
本日、ガルドプラスにて、コミカライズ最新話が更新されました。
内容としましては、いよいよWeb版Chapter1、もしくは書籍1巻の佳境に該当する部分へ突入していきます。
臨場感あふれる内容となっておりますので、ぜひご覧ください!
聖王国王都に構えているフォラナーダの別邸、その書斎にて、オレはとある人物と顔を合わせていた。
茶髪のショートヘアがよく似合う少女、フォラナーダ兄妹の幼馴染みであるターラである。
……いや、少女というのは失礼か。彼女はつい先日学園を卒業し、社会人の仲間入りを控えた身。いつまでも子ども扱いしてはいけないだろう。
幼い頃からの付き合いのせいか、どうしても親――というより親戚?――目線で見てしまうんだよね。今後は気を付けよう。
オレは密かに認識を改めつつ、正面のソファに腰かけるターラに話しかけた。
「再三になるけど、首席卒業おめでとう。幼馴染みとして、師匠として、とても誇らしいよ」
彼女は三年間の一度も首席から陥落することなく、そのまま卒業を迎えた。しかも、平民でそれを達成したのは、学園史上初らしい。紛うことない偉業だった。
謙虚なターラも、これに関しては感情を抑え切れない模様。
「ありがとうございます。といっても、ゼクスさんやカロンちゃんが色々指導してくださったお陰ですよ。それがなかったら、首席を維持するどころか、取ることさえ難しかったと思います」
殊勝なセリフを口にしつつも、その表情には若干の喜色が表れていた。まとう魔力にも自慢げな感情が滲んでいる。
実に頬笑ましい姿だ。見ているこちらも、自然と口元を緩めてしまうくらいに。
「オレたちのお陰って部分は否定しないけど、一番はターラが一生懸命に努力したからさ。もっと胸を張っていい。というか、今回の場合、謙遜しすぎると逆に顰蹙を買うから、ある程度は自慢しておいた方がいいぞ」
感情を隠し切れていないので皮肉に聞こえる、という懸念は当然ある。
加えて、もう一つ。
学園の首席卒業は、国内において相当高いステータスだ。就職先には絶対困らないし、周りの貴族からも一目置かれる。ゆえに、貴族子女は懸命に首席を目指すんだ。実家のサポート込みでね。
それを平民が掻っ攫い、挙句『師匠に恵まれただけ』なんて触れ回っていたら、確実に恨まれる。
まぁ、どちらにせよ恨まれるのは間違いないが、本人にも才能があり、相応以上の努力を重ねていたと語る方がマシだろう。
少なくとも、プライドの高い連中は怒りを呑み込む。手を出せば、自分の才能が足りなかったと証明するようなものだからね。
一通り説明すると、ターラは納得したような、していないような、複雑な表情を浮かべた。
「要するに、『自慢と謙遜はバランス良く』ってことですか?」
「簡潔に言うなら、そうなる」
「……難しくないですか?」
「難しいけど、頑張るしかないんだよ。それが社会ってものさ」
「はぁ」
肩を竦めるオレに対し、心底面倒くさそうに気のない返事をするターラ。
気持ちは分かるので、それに文句はない。面倒くさいのは事実だし。
オレは苦笑を溢しながら続ける。
「こっちもフォローするから、そんなに心配する必要はないよ。大事な部下になるわけだし」
そう。以前から軽く触れてはいたが、ターラは正式にフォラナーダへ就職することになったんだ。完全に身内となる以上、放置して危険にさらすようなマネはしない。
「そういうことなら、よろしくお願いします……ご主人さま」
こちらの発言を受けたターラは、粛々と頭を下げる。
ご主人さまの呼称は慣れているが、幼馴染みの口から呼ばれると、今までとは異なる恥ずかしさを感じた。背中がむず痒い。
明らかに狙った流れだった。彼女の最後のセリフには、からかいの色が乗っていたもの。
そういえば、師弟関係を結んだ時も、ふざけ半分で『師匠』と呼んできたっけ?
ターラが九歳を迎えて以降、大人らしく考慮して振る舞うようになった。敬語しかり、呼称しかり、態度しかり。他の幼馴染みと異なり、ターラは明確に立場を弁えていた。
幼馴染みに一線を引かれるのは、正直寂しい。きっと、カロンたちも同じ気持ちを抱いているだろう。
それでも、約十年間も付き合いを続けられたのは、ターラがたまに隙を見せてくれるからだった。
今みたいな茶目っけを披露してくれるお陰で、彼女の中にある“友人”という認識が揺らいでいないことを証明してくれていた。むしろ、機会が少ない分、より濃く実感できている気がする。
もしかして、わざとか?
……考えすぎだな。ターラの性格的に、『真面目に振る舞い続けようと努めているものの、たまに気が緩む』という方がしっくりくる。
こう言うと彼女は怒るだろうが、何だかんだダンの妹なんだよね。ちょっと抜けているんだ、精神的に。
友里恵なら、『物理的に抜けているシオンさんとは方向性が違うから、キャラかぶりしてないよ、やったね!』とか言いそうだな。
そんな益体もないことを考えつつ、オレは苦笑を溢す。
「とっさに冗談が言えるようなら心配いらないな」
新たな環境に身を置くのは、本人が自覚している以上にストレスが掛かる。それを目前に控えている時も同様だ。今回は、その辺りの様子を探る目的もあった。
まぁ、こうして対面することで理解できたが、ターラは新生活に対してほとんど負担を感じていない。ほぼいつも通りだった。
こちらの苦笑いを見て、ターラは肩を竦める。
「平気ですよ。フォラナーダのヒトたちには日頃からお世話になってますし、勤務先は地元ですし、上司もよく知った仲です。多少、仕事を上手くできるかの不安はありますが、それだって、これまで培った自信を揺るがすほどじゃありません」
「そっか」
言われてみると、納得だった。
客人から部下へ立場は変わるものの、ターラにとってフォラナーダは『勝手知ったる他人の家』である。今さら不安を覚える部分なんて存在しないだろう。
唯一の不安要素である仕事も、新人のうちは簡単な内容しかない。それを理解しているからこそ、彼女は泰然としていられるんだ。
そも、ターラは結構豪胆だからなぁ。慎重派かつ思慮深い一方、思い切った時の勢いはすごい。こういうところも実兄にそっくりである。
「じゃあ――」
会話に一区切りついたので、新たな話題に取り掛かろうとしたタイミング。オレは言葉半ばで口を閉ざした。
というのも、部下から【念話】が入ったのである。
「どうかしましたか?」
「いや、何でもないよ」
しかし、オレは即座に意識を切り替え、ターラとの雑談を再開した。報告の内容よりも、幼馴染みとの交流を優先したんだ。
問題はない。こちらの日程を問うアポイントメントであって、緊急性の高いものではなかったからね。
とはいえ、キナ臭さはあった。
何故なら、連絡の相手は聖王ウィームレイであり、内容が『他国からニナの派遣要請があった』というものだったから。
ターラとの会話を楽しみつつも、オレは分割した思考で今後の展開を予想するのだった。
次回の投稿は1月25日12:00頃の予定です。




