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【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第三部 After story

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Chapter30-pr 侵星

本日よりChapter30開始です。

よろしくお願いします。

 七月の終わり。魔法大陸中の国を驚愕させた聖王国と帝国の戦争、その終結から数日後のこと。


 空の上――(そら)に、一条の光が走っていた。灼熱をまとい、虚空を高速で駆けるそれ。ヒトの目に留まっていたら、必ず隕石と称するだろう岩。


 それは真っすぐ、迷うことなく地球に突撃した。熱圏を踏み越え、あっという間に中間圏を通り抜け、オゾン層を喰い破り、対流圏を切り裂き、ついには地表へと辿り着く。


 もちろん、無傷とはいかない。ありとあらゆる自然の抵抗を受けた隕石は、相当小さくなっていた。


 輝きこそ一片たりと弱まっていないものの、元々あった成人男性ほどの大きさが、今や米粒程度にまで削れてしまっている。九割以上が損失していた。


 いくら音速を越えているとはいえ、米粒サイズが生み出す衝撃波など微々たるもの。隕石は誰に気付かれることなく、周囲に被害をもたらすこともなく落下した。


 落下地点は都市国家群にあるカナミラ王国、その山奥だった。廃鉱山となって久しく、周囲の村々もとっくに撤退している場所である。それも、誰の目にも留まらなかった一因だろう。


 背の低い植物ばかりの山肌に、隕石は突き刺さった。極小の穴を開けて激突し、大気との摩擦で生じた熱をシュゥゥゥと音を立てながら冷やしていく。


 程なくして。まだ高熱を発していた隕石は、パカリと真っ二つに割れた。


 きっと、落下の衝撃のせいではないだろう。キレイに開いた断面は人工物と表現して相違なく、次の瞬間には中身が姿を現したのだから。


 岩をも溶かす高熱を物ともせず、それ(・・)は出てきた。


 液体である。赤系のグラデーションを内包した、若干個体染みている粘液。


 それは溶けた岩肌を這い、抉った穴を登る。そして、星々の輝く夜空の下に躍り出た。


 地表に現れた粘液は、約十立方センチメートルの体積を有していた。どう考えても、隕石に内に収まる量ではない。


 おそらく、隕石の方に空間歪曲系の機能があったか、粘液が体積を縮める類の能力を保有しているのだろう。


 粘液は蛇のように細長い形状を取り、のろのろと空を目指して伸びる。地表十センチメートル辺りまで伸びたそれは、しばらく動きを止めた。その後同じ速度で縮み、池溜まりの状態に戻る。


「……ソンガイジンダイ、カイフク優セン。環キョウ不適格、実行不可能。…………最善ハ環境改善及ビ自己回復、同時並行処理スル以外ノ道無シ」


 粘液はチャンネルが微妙にずれたラジオの如き、雑音過多の声を発した。


 一方で、その雑音は瞬く間に減っていく。完全に明瞭になったとは言い難いが、粘液が流暢に話せるようになるのは時間の問題だった。


 独り言を終えた粘液は、いつの間にか彩度の低くなった体を引きずり、隕石の埋まっている穴へ戻っていく。そして、極小の穴を何らかの方法でふさいだ。


 こうなっては、この存在に誰かが気づく可能性は皆無に等しくなった。何故なら、隕石による被害はなく、人里が遠いため、空を駆けた小さな光を目撃した者もいないのだから。


 念入りに調べる、または探知系に特化した魔法師なら別かもしれない。だが、キッカケなくして、このような山奥の調査が行われるはずもない。


 世界最強や次点であれば、僅かな違和感を覚える可能性があった。


 しかし、片や戦後処理に追われ、片や『神座』に出向いており、僅かすぎる予兆に感づく余地がない。


 ゆえに、(そら)より飛来した粘液は、姿を隠すことに成功した。


 この結果がどういった結末をもたらすのか。それを人類が知るのは約八ヶ月後である。








◇◆◇◆◇◆◇◆








 三月中旬。カナミラ王国は未曽有の危機にさらされていた。今年に入ってから、国内で何度も地震が発生しているのである。


 その程度で未曽有の危機? と首を傾げるかもしれないが、カナミラ王国にとって『その程度』では済まない事態だった。


 何せ、カナミラ王国はそこまで裕福な国ではないのだ。都市国家群の他国同様に周辺各国との争いが絶えず、山の多い土地柄、食料も不足気味だった。


 特に後者。頻発する地震のせいで田畑が荒れ、来年度の収穫に悪影響を与えそうなのだ。しかも、地震がこれ以上起こらないと決まったわけではない。


 このままでは、例年以上の餓死者を出してしまう可能性が高かった。そして、それを好機と見た隣国に襲撃を受けてしまう。誇張でも何でもなく、まさしく国を揺るがす危機だった。


 だからこそ、カナミラの王城内では、連日対策会議が行われていた。普段は平穏な城内も、喧々囂々(けんけんごうごう)の嵐に見舞われている。


(二年前であっても、ここまで騒がしくなかったな)


 会議参加者の一人であるバルヴァロ公爵が、大音声(だいおんじょう)を上げる他の参加者たちを眺めながら、呑気な感想を抱いた。


 彼はこの場における最年少だ。地位はトップ層だし、それに相応しい智謀を備えているとはいえ、出しゃばらない方が良い。貴族社会とは、空気を読めない者から叩き潰されるのだから。


 そのため、バルヴァロ公爵は、求められない限りは口を開かない。その代わり、思考を別のことへと回す。


 二年前も、カナミラ王国は危機に瀕していた。常立国(とこたちのくに)が隣国を滅ぼして勢力を拡大し、ついにはカナミラに迫ったのである。


 結局は小競り合い程度の争いで済んだわけだが、当時の荒れようもすごかった。カナミラ唯一の長所だった騎士団が、敵の兵一人に対して手も足も出なかったのだから。


 あのまま攻め込まれていたら、今頃カナミラは地図から消え去っていたに違いない。


 今回の会議は、その時以上に紛糾している。つまり、貴族たちが現状をどれほど深刻に考えているか、よく理解できた。


 愚者が内側にいないことに安堵する一方、解決の糸口が見えない問題を前に溜息が漏れる。


 バルヴァロ公爵を含めたこの場の全員が、今回の騒動をただの自然現象とは考えていなかった。


 何せ、カナミラ王国で発生する地震は、年に二度あれば多い方。過去の資料をさかのぼっても、頻発したといった記述は見られない。何か原因があると考えるのは、当然の帰結だった。


 しかし、その原因を突き止める方法が分からない。国内各地で地震が発生しているという問題以外に、何も取っ掛かりがないからだ。


 天才と呼ばれることの多いバルヴァロ公爵でも、さすがにこの状況を打破する案は考えつかなかった。闇雲に探しまくる以外、てんで思いつかない。


 己の不甲斐なさに眉根を寄せるバルヴァロ公爵。


 だが、その苦い表情も長く続かなかった。


 何故なら、その『闇雲に探しまくる』という方法によって、突破口を発見できたのだから。


「報告します! 各地を調査していた騎士団が、とある異常を発見しました!」


 貴族の会議中にもかかわらず入室し、慌てた様子で口を開いた騎士の言葉。それによって、あれほど騒がしかった室内は、長らく忘れていた静寂を取り戻すのだった。

 

次回の投稿は1月22日12:00頃の予定です。

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