表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第三部 After story

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1189/1196

Chapter29-ep1 最期(3)

先日、コミックガルドにてコミカライズ9話が無料公開となりました。

フォラナーダ三兄弟の冒険回です。よろしくお願いします!


『あー、順序がおかしくなって申しわけない。僕が何者か名乗ろう。僕の名前はゼオン。キミたちが初代勇者と呼んでいる戦士さ』


 おそらく、オレが青年――初代勇者ゼオンの素性を把握できていないと考えたんだろう。突然、キサラの保護者面した不審幽霊だと。


 流れ的にそんな展開もあり得そうだが、今回は勘違いだった。


 オレは、彼がゼオンだと予想できていたのである。これまでの条件に当てはまる幽霊なんて、初代勇者しかいないからね。


 まぁ、名乗ってくれてありがたいのは確かなので、いちいち訂正するつもりはない。


 ゼオンに向かって、オレは一礼する。


『かつての救世主からご挨拶を賜り、恐縮です。ご存じのようですが、私はフォラナーダ伯爵領の当主、ゼクス・レヴィト・ガン・フォラナーダと申します』


『嗚呼、よろしく。キミたち……というよりは、キサラのことはずっと見守っていた』


『そうなんですか?』


 こればかりは本気で驚く。彼の視線を、オレは一度も感知したことがなかったためだ。


 こちらの反応を見て、ゼオンは肩を竦める。


『何と説明したらいいかな。俗にいうあの世から、僕はこっちの世界を覗いていたんだ。ゼクス殿が気づかなくても無理はないと思うよ。この会話の仕方以上に、周波数が違うからね』


 あの世が存在するのか。


 またもや驚愕する。オレを含めた転生者の存在からして、死んだ魂はすぐに次の人生へ向かうものとばかり思っていた。


 ゼオンが嘘を吐く理由もないし、個々人で行く先が異なるのかもしれない。


 周波数に関しては、今は無理だな。【超越(イローダー)】下なら合わせられそうな気配はあるけど、無理に実行する価値を感じない。


 そういうものがある、と認識しておく程度で良いだろう。


 オレが色々と思考を巡らせている一方で、ゼオンは深々と頭を下げた。


『本当にすまない。キサラのせいで、ゼクス殿たちには要らない苦労を背負わせてしまった』


 彼に背中を叩かれ、キサラも「ご、ごめんなさい」と頭を下げる。


 初代勇者は、熟練の初代聖女使いだったか。


 そんな冗談を思い浮かべるほど、ゼオンは完璧に主導権を握っていた。さすがは千年前の相棒である。


 ここで気を遣って『気にしないで。結果的に丸く収まったんだから』とは返さない。ゼオンには悪いが、キサラには反省してもらいたいからね。


 程なくして元の姿勢に戻ったゼオンは、申しわけなさそうに語る。


『本来なら、何らかの補填をするところだけど、今の僕は死んだ身の上。ゼクス殿に与えられるモノが何もない』


『そちらに関してはお気になさらず。かつての英雄にたかるほど、我々は切羽詰まっておりませんし、落ちぶれてもいません。それに今回の一件も、厄介ではありましたが、危機的ではありませんでした』


『謙遜と言えない点が、あなたの末恐ろしいところだな。あの魔王の群れを、羽虫を払うが如く倒してしまったんだから』


 こちらを覗いていたというセリフに、過言はないようだ。ゼオンの口振りから、オレがどのようにしてグリューエンたちを倒したのか、知っている気配があった。若干、声も震えている。


 ()もありなん。彼は、人類総出で二人の魔法司と戦った身。劣化版とはいえ、六万越えの奴らを、遠距離攻撃一回で倒したのは衝撃的だったんだろう。


 あの程度であれば、正面から相対するという条件付きで、オレや嫁たち抜きのフォラナーダでも対処できるんだけど……それを教えたら、彼はどんな反応をするかな?


 少しだけ嗜虐心が顔を覗かせるものの、間一髪で抑え込むことに成功する。これ以上は収拾が付かなくなりそうだもの。


 こちらの内心など露知らず、ゼオンは再び頭を下げた。


『結局のところ、差し出すものがないという現実は覆らない、か。ゼクス殿の善意に甘えることになり、本当に申しわけない』


『先程も申し上げましたが、お気になさらず』


 オレは笑顔で応対しつつ、ひっそりと考える。


 おそらく、ゼオンはこの展開を予想していたと思う。


 謝罪の品を送れないことは、現れる前から自明だった。そして、オレが『何も要らない』と返答することも、一部始終を見ていた彼なら読めていただろう。


 気の好い人物に見えて相当強か。それが、オレのゼオンに対する評価だった。


 いや、彼が本心から謝罪しているのも事実。気の好い一面も確かに存在するんだろう。人間なんて、複数の顔を持っていて当然だし。


 自分本位に周りを救う聖女と、優しく合理的な勇者。実に噛み合いの良いパートナーだな。


 会話に一区切りついたタイミングで、ゼオンが改めて口を開いた。


『それでは、我々(・・)は行くよ』


『あの世に戻るんですか?』


 言い回しから、ゼオンはキサラを連れ帰るために現れたんだろうと踏んだ。


 しかし、この予想は少し間違っていたらしい。


 ゼオンは首を横に振る。


『いや、あの世には帰らないよ。我々は、このまま消滅する』


「ゼオン!?」


 ゼオンの言葉は、キサラにとっても予想外だった模様。調子の外れた声を上げ、彼の方を勢い良く見た。


 そんな彼女に、ゼオンは優しく告げる。


『元々、そうする予定だったんだ。万が一、キミが戻ってきた時は、ともに消えようってね。一度世界に溶けたキミは、もはやどこにも進めない。あの世にも、次の人生にも。だから、パートナーとして一緒に消える』


「そんな必要――」


『ないとは言わせないよ。僕はね、キミだけを人柱にしたことを後悔していたんだ。ずっとずっと、死んでからもずっと。だから、次の機会があるなら、絶対に一人にさせないと誓った』


「あれは私が勝手にやったことで……」


『そうだ。キミは一人で勝手に人柱になると判断し、みんなが止め入る暇もなく世界に溶けてしまった。すべてはキミが選択したことであり、キミの責任だろう』


「なら――」


『だから、僕がこの選択をしたのも、キサラの責任だ』


 ゼノンは冷酷な声音で、キサラの言い分を切り捨てる。


『僕がこの道を選んだのは、キサラが自分勝手に振る舞った結果だよ。すべてとは言わないけど、責任の一端はある。キミには、現実を受け止めなくちゃいけない』


 無慈悲に容赦なく宣告するゼオン。


 その瞳には揺るがぬ意思があった。絶対に翻意は望めない決意だと、オレは密かに悟る。


 パートナーだったキサラは、オレ以上にそれを理解しただろう。顔を真っ青にし、涙を流し始めた。ゼオンに抱き着き、彼の選択を拒絶するような態度を取る。


 対するゼオンは、申しわけなさそうな表情を僅かに浮かべながらも、無言を貫く。


「なるほど」


 二人の様子を眺め、オレは得心の言葉を口内で転がした。


 これは罰であると同時に愛なんだ。キサラに自身の行動による罪を自覚させつつも、自分も一緒に寄り添うことで一人にはさせないという愛情表現。


 厳しいのか甘いのか、判断に迷う決断だな。効果は如実に表れているが。


「な、何があったのですか、お兄さま?」


 ゼオンを認知できていないカロンは、困惑した様子で尋ねてきた。彼女からしてみれば、キサラが突然泣き出したのだから仕方ない。


 オレが端的に状況を説明すると、カロンは「それは……」と口にして黙り込んだ。複雑な表情を浮かべたまま、顔をうつむかせる。


 ゼオンの覚悟とキサラの悲嘆。どちらにも共感できるゆえの惑いかな。自分が口を出すのはお門違い、というのも含まれるか。


 そう。この問題に介入する権利を、オレたちは有さない。できるのは、見守ることのみだ。


 どれくらいキサラは泣き続けただろうか。


 ふと、彼女はその嗚咽を止めた。ゼオンから離れて顔を腕で拭い、その表情をあらわにする。


 さすがは英雄と言うべきか。キサラは決然とした表情を浮かべていた。その瞳に覚悟を宿していた。ゼオンの決断を受け入れ、自身の心に折り合いをつけていた。


 一点の曇りもないとは言えない。しかし、心の決着はついたようだった。


 それを認めたゼオンは一つ頷き、オレたちの方を見る。


『最後までお騒がせしてすまない。僕たちはもう行くよ』


 そう言って、彼はキサラの手を握る。キサラも、そんな彼の手を強く握り締めた。


 途端、二人の気配が一気に薄まっていた。視覚的にも透明になっていく。


 最後。二人が完全に消滅する瀬戸際。キサラが頭を下げる。


「迷惑をかけてごめんなさい。そして、ありがとう」


 彼女が頭を上げる機会は、二度と訪れなかった。








「これで良かったのでしょうか?」


 静まり返る中庭で、カロンが複雑な心境を吐露する。


 オレは空を仰ぎつつ、思考を巡らせる。それから、ゆっくりと答えた。


「それは、オレたちが決めることじゃないよ」


 どういう結末を迎えるかは、人それぞれだ。彼らがそれで良しと決めたのなら、他者がとやかく言うことではない。たとえ、それが美しい締めくくりではなくとも。


 まぁ、他者に爪痕を残したのは、彼ららしい結末だったのではないだろうか。ホント、お似合いの二人だよ。

 

次回の投稿は1月7日12:00頃の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
結果論で言うならグリューエンを今度こそ消滅させられたので良かった……寄りではあるのかもしれません。結果論ですが
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ