Chapter29-ep1 最期(2)
今年一発目の投稿です。
2026年もよろしくお願いいたします!
また、本日はコミックガルドにてコミカライズの更新があります。
そちらもよろしくお願いします。
会議後。オレたちはフォラナーダに帰るため、城内を歩く。今回は正式な訪問なので、【位相連結】の使用は控えていた。
ただ、何ごともなく帰宅はできないらしい。
「……ゼオン?」
並ぶオレたちの少し後ろを歩いていたキサラが、唐突に別の方向へ進み始めたんだ。虚空をボーッと眺めながらフラフラと。
「キサラさま――」
「いいよ、カロン」
「お兄さま?」
キサラを止めようとしたカロンを、オレは制する。
それから、覚束ない足取りのキサラを眺めながら、訝しげな表情を浮かべる彼女に説明した。
「キサラさまが何に呼ばれたのか興味がある。様子を見たい」
実は、オレも違和感を覚えていたんだ。視界の片隅に何かが過ったような、些細で不確かな違和感を。
キサラが不審な行動を始めたのと同時だったので、何らかの関係があるんだろう。
いつまで経ってもハッキリしない点を考慮するに、魄術か己道にまつわる何かの可能性は高そうだが、はたして。
「……分かりました」
若干不本意そうな声を漏らすカロンだったが、最終的にはこちらの意を汲んでくれた。できた妹である。
その後、オレたちはフラフラと歩き続けるキサラを追った。ウィームレイにも【念話】で連絡は入れておいたので、城内を放浪しても問題はない。
キサラの進路は不確かだった。あっちに行ったり、こっちに行ったり、場合によっては元来た道に戻ったり。
ただ、目的地がないわけではないと思う。時折立ち止まっては耳を澄ませていたので、何らかの音を頼りに進んでいると判断できた。その音は、オレたちには聞こえないけどね。
進むにつれ、目的地が定まってきたんだろう。キサラの足取りは徐々にしっかりしていった。歩くペースもおもむろに上がっていく。
小走り間際の速度まで上がった末、とうとうキサラは足を止めた。
「このような場所に、何があるというのでしょう?」
オレと同じ感想を抱いたらしいカロンが、怪訝そうに呟く。
辿り着いたのは中庭だった。花壇をシクラメンやパンジー、ビオラ等の冬咲きの花が彩り、その中心に五メートルほどの樹木がそびえ立つ。
ただ、目的地と言われてもピンと来ない。王城ゆえに相応の華やかさはあるものの、他と一線を画すほどの特別さは見当たらなかった。
中央の樹木の前にたたずむキサラは、ボーッとした状態で空を見上げていた。木の葉の隙間から差す陽光によって、その景色はどこか幻想的に映る。
何をしているんだろうかと疑問を浮かべるオレだったが、結論はすぐに出た。
突然、魄術の方の探知に新たな存在が引っかかったんだ。キサラの見つめる先に、何かが浮いている。
とっさに魔眼【白煌鮮魔】を発動し、その何かを確認し直した。
それは一人の男性だ。歳の頃は二十代半ばほど。黒髪黒目で、優しげな笑みがよく似合う青年だった。
一方で、優しいだけの人物ではないとも分かる。体つきやまとう空気から、かなり熟達した戦士だと察しがついた。
青年は、キサラと同じ魂のみの存在だった。いや、存在強度は、今のキサラよりも儚そうだな。
何故なら、隣のカロンには青年が認知できていないから。オレの様子から『キサラの前に何かがいる』と察したらしいが、目を凝らす以上の反応は続かなかった。
オレが認識できているのは、高レベルの魄術を修めている上、魔眼によって覗いているためだろうか。
それだとキサラが認識できた理由の説明がつかないけど、そちらは『縁が深かったから』などで解決する。霊的な現象は、割と運命や縁に左右されやすいんだよ。
……キサラと縁深い黒髪黒目の強者、ねぇ。
何となく、青年の正体が分かった気がした。確証は何もないが、この予想が当たっている確信があった。
現に、虚ろだったキサラの表情は、徐々に柔らかくなっている。お互いに口を動かしていなかったが、意思疎通は取れているようだった。幽霊同士による【念話】か何かか?
「カロン。しばらくここで待機しよう」
「? 承知いたしました」
他人のプライベートに首を突っ込むほど、オレは無粋ではない。
一時間は経過しただろうか。
『ゼクス・レヴィト・ガン・フォラナーダ殿。カロライン・フラメール・ネ・サリ・フォラナーダ殿』
思いのほか長話だったため、お茶を用意して小休止していたオレたちに声が掛かった。
もしかしなくても、キサラと会話していた青年である。場所は移動していないが、彼の視線はこちらに向けられていた。
しかし、カロンには青年の声が聞こえていないようで、何の反応もない。彼女が彼を認知できなかった時点で、予想できた結果だった。
だから、オレが一人で対応する。
カロンにそのまま待機するよう合図を送った後、オレは席を立った。
『そちらの話し合いは終わったのでしょうか? 申しわけありませんが、カロラインはあなたの存在を認知できていないので、私のみで応対させていただきます』
『……驚いたな。僕の周波数に合わせたのか』
こちらの返答を受け、青年は瞠目した。同じ【念話】モドキを使ったことがかなり衝撃的だったらしい。
そんなに難しくはなかったんだけどね。【念話】を魄術版として調整しただけだ。魔眼で解析する猶予が一時間もあれば、これくらいは当たり前である。
『すまない、話が逸れた。妹君のことは気にしなくていい。僕もダメ元で声を掛けたからね。ゼクス殿が反応しくれただけラッキーだ』
『それならいいのですが。それで、何の用件でしょう?』
『キサラが迷惑をかけてしまったことへのお詫びだよ』
どうやら、二人の話し合いは、のちに説教へと変わっていたらしい。青年の横には、シュンと項垂れたキサラがいた。
すごいな。オレたちが何を言っても大した効果は見られなかったのに、今はしっかり反省している。
内心で感心していると、青年は何か勘違いしたらしく、気まずそうに続けた。
『あー、順序がおかしくなって申しわけない。僕が何者か名乗ろう。僕の名前はゼオン。キミたちが初代勇者と呼んでいる戦士さ』
次回の投稿は1月4日12:00頃の予定です。




