Chapter29-5 淡朽葉色の愛(1)
それが起こったのは、オレ――ゼクスとフォラナーダの重役たちが会議をしている最中だった。
グリューエンがいつ復活しても把握できるよう、大陸中に展開しておいた円盤型魔道具『シャイベ』に、いくつもの反応が引っかかったのである。
何の反応かは、当初の目的を考えれば言をまたないだろう。『復活直後なら容易く補足できる』というオレの予想は、見事に的中したわけだ。
それにしても、何で今なんだ?
加速した思考の中、グリューエンたちにマーキングを施しながら、至当な疑問が浮かぶ。
グリューエンの復活自体は予想通りだ。分霊は世代を重ねるごとに数が増え、試行回数も増えていくんだから。
億分の一の成功率だろうと、一億回繰り返せば必ず成功するのと同じだ。かなりの暴論だけどな。
しかし、今回はあまりにも唐突だった。一人ならまだしも、六万四千五十二人――聖王国民の○・三パーセント強が、グリューエン化したんだ。
国外で発見した分霊の数から予想するに、国内の分霊の大半が復活を遂げたんだろう。何らかの外的要因があったのは、間違いない。
再び同じ現象が起こらないよう原因を突き止めておきたいが、今はグリューエンの排除が先決だな。
マーキングをつけたとはいえ、あいつが本気で逃亡を企てたら、簡単にマーキングを外しそうだし。生存特化の奴を侮るのは、愚の骨頂だろう。
ゆえに、速攻で決める。
六万半ばの補足を終えたオレは、対分霊を想定して考案した術を放つ――直前、カロンから連絡が来た。
タイミングが悪いと思わなくもないが、あちらも緊急の用件の可能性がある。オレは即座に【念話】を繋げた。
向こうも思考加速の類は使っているようなので、こちらから術を掛ける必要はなさそうかな。
『カロンか? 少し待ってくれ』
彼女の用件を優先したい気持ちはあるものの、今はグリューエンを優先したい。
さすがのオレでも、今にも姿をくらませそうな六万越えの敵を遠距離攻撃するのに、思考を分割する余裕はなかった。
気を取り直して、オレは白魔法【色滅の銃撃】を撃つ。
それは一見すると、【銃撃】と変わらない。だが、実情はまったく異なる。物理的な効力は一切なく、精神や魂に影響を与えるんだ。
端的に言うと、指定した精神を塗り替える。今回の場合、グリューエンの分霊のみを指定し、消滅させた。
これ、やろうと思えば、ヒトの感情や記憶、魔法適性まで書き換えられるんだよね。かなり危険な魔法だ。
本来ならオレの自戒に引っかかるんだが、万が一を想定して開発しておいたんだ。
グリューエンが関わると、たいていは想定通りにいかない上、キサラという懸念も存在したし。
だから、今後は封印確定の魔法である。洗脳解除は別に開発しているからね。
まぁ、今回は結果オーライとしよう。
事前の予想通り、八人ほどマーキングから逃れた奴がいる。【色滅の銃撃】がなければ、もっと多くのグリューエンを取り逃していたかもしれない。
手応え的に、復活したグリューエンの実力にバラつきがあるみたいだな。逃れた連中もギリギリ補足できる辺り、元のグリューエンよりも弱い。浸食具合が影響しているんだろうか?
考察もそこそこに、オレは改めて【念話】に意識を向け直す。
『すまない、もう大丈夫だ。何があった?』
『実は――』
カロンから語られた内容は、かねてより懸念していたキサラの暴走だった。
思ったよりも持ち堪えたな、というのが正直な感想だ。
キサラがいずれ勝手に動くことは分かり切っていた。彼女は他者に関心があるようで、まったく目を向けていなかったもの。きちんと見ていたのは、せいぜいグリューエンと伴侶だった初代勇者の二名だろう。
彼女が捉えていたのは、『誰かが困っている』という事象のみ。
『誰が困る』という事象は嫌いだから、何とかしたい。しかし、他者に関心がない彼女は、誰かが何とかしてくれるという発想が浮かばない。結果、我が身を削る自己犠牲に走るわけだ。
歪んだ価値観である。時代的に相応の何かを経験したんだろうけど、オレには共感できそうにない。
『なるほど。だからか……』
一部始終を聞き終えたオレは、一連の出来事に合点がいく。
唐突にグリューエンたちが復活したのは、キサラのせいだろう。
グリューエンは、復活前の分霊が発見されることを想定していたんだ。つまり、分霊を滅ぼされることも想定済みだった。
そのため、それを逆手に取る術式を組み込んだ。分霊が害された場合、他のすべてが復活するという効果を。
ただ、先程語った手応えも鑑みると、完全復活よりも弱体化するのだと考えられる。最終手段といった感じかな。
『とりあえず、キサラさまの容態を診たい。今からそっちに向かうよ』
そんな結論を下しつつ、オレはカロンに返す。
逃亡した八人も気になるが、今はキサラの優先度の方が高い。何せ、初代聖女が消滅したとなったら、後々に面倒が起こりそうだ。
まぁ、これも復活したグリューエンを捕捉し続けられていることが大きいんだけどね。見失いそうだったり、完全に姿をくらませていたら、さすがに優先度が変わる。
カロンとの【念話】を切り上げたオレは、彼女を除くフォラナーダ全員に【念話】を繋げ直した。思考加速のオマケつきで。
『フォラナーダに所属する全員に告げる。緊急事態だ』
その後、現状の詳細を説明し、各自がどう動くべきかを命じた。
各所への伝達や一般人の避難誘導が基本。グリューエンの近くに待機していた者には、感づかれない程度に誘導するよう頼んだ。
また、現時点で自由に動けるニナとオルカには、グリューエン討伐を二人ずつ任せる。彼女たちなら実力的に申し分ない。
オレがすべて対処しても良いんだけど、【銃撃】の類は回避されそうなんだよね。前に【銃撃】で殺されたのを魂が記録しているのか、過剰に怖がっているっぽいんだよ。
ゆえに、時間短縮のために、各個撃破することにした。
位置的に、セイラの“愛探し”を行っているマリナたちの方にも一人向かいそうだけど、その時はあちらに任せようかな。
オレの予想が正しければ、マリナはきっと――
「おっと、余計なことを考えてる場合じゃないな」
会議室の重役たちが動き出したのを捉えたオレは、我に返って思考加速を解除する。
そして、「いってくる」と一言口にして、カロンたちの下へと【位相連結】を開いた。
次回の投稿は12月20日12:00頃の予定です。




