Chapter29-4 幸福の聖女は黄金を捧ぐ(6)
告知が遅くなりましたが、先日、ニコニコ動画にてコミカライズの最新話が更新されました。よろしくお願いします!
年が明けて半月、年末年始の多忙さが落ち着き始めた頃。私たちは、セイラさんの“愛探し”を再開していました。
一応、同時並行して【黄金探知】による調査も進めています。ざっと五千は見つけたでしょうか。
一見すると数は多いですが、実際のところ、たくさんの場所を巡ったわけではありません。 子々孫々と受け継ぐ【分霊継承】の性質上、一つの場所に分霊が固まっていることが多かったのです。
一つ見つけたら三十はいる、と表現しても過言ではないですね。そっくりです。
逆に言うと、狭い範囲の調査にもかかわらず、五千も発見したということ。大陸中を捜査し切った時、分霊の数はどれほどまで至っているのか。総数を予想するのが、少し恐ろしいです。
恐ろしいといえば、私はもう一つを抱いておりました。
それは初代聖女殿に関して。日を追うごとに、彼女の焦燥感が増しているようなのです。
特に、年越し以降は顕著でした。しっかり取り繕えていた上辺が、ここ最近はボロボロなのです。コミュニケーション能力が低めなスキアでさえ、違和感を覚えるほどに。
十中八九、【分霊継承】の全体像が見え始めたことが原因ですね。
前述した私の想像と同様のものを、初代聖女殿もイメージしてしまったのでしょう。
また、復活してから何もできていない点も、彼女の焦燥を煽っているのかもしれません。役に立てない時に湧き上がる歯痒い気持ちは、私もよく分かります。
とはいえ、このまま放置しておくのも宜しくないでしょう。お兄さまは『触らぬ魔王に祟りなし』と判断したようですが、私としては何らかの介入をすべきだと考えました。
正直なところ、私も放っておけるなら放っておきたいです。
しかし、初代聖女殿の不安定さを目の当たりにすると、それではいけない気がしました。何か良くないことが起こると、勘が告げてくるのです。
よって、私は、初代聖女殿と話し合う機会を設けました。
王都にある、フォラナーダがオーナーを務める喫茶店の一つ。そのボックス席を貸し切り、二人きりになれるよう取り計らったのです。
正確には、周囲に部下の皆さんが控えているのですけれど、そこは仕方ありません。私も自分の立場は理解しているつもりですから。
「「……」」
各々の注文した飲み物が届いて幾許か。室内は沈黙に支配されておりました。お互いに口を開くことはなく、時折、飲み物をすする音が響くのみです。
完全に私のせいですね。ホストのくせに、話題の提供をしていないのですから。
一つ弁明させていただくと、前振りはしたのです。世間話から雑談を始めようと、努力はしたのです。
ですが、肝心の初代聖女殿が「そうですか」とか「はい」などの短い返事で済ませてしまうため、思うように話が進まなかったのです。
……はい、ただの言いわけですね。そこを何とかするのがホストの手腕、というものでしょう。この手のことに苦手意識は持っていなかっただけに、少し心が折れそうでした。
「ダメですね」
「?」
ふと、ぺしんと、自身の両頬を叩く私。
突然の行動に初代聖女殿は驚き、首を傾げていますが、構わず深呼吸をしました。それから、彼女を真っすぐ見つめます。
「回りくどいのは止めにします。キサラさま。あなたは何に焦っているのですか?」
遠回しに尋ねようとしたのが間違いでした。
他の方と異なり、私は初代聖女殿が嫌いなのです。そのような状態で雑談を盛り上げようとしても、盛り上がるわけがありません。
であれば、『必要なことを最低限に』が最適解でしょう。無理にいつも通りを演じる必要はありません。
私の直截な問いを受け、初代聖女殿は一瞬目を丸くしました。その後、素五秒ほど顔を伏せ、ゆっくりと視線を元の高さに戻します。
再び見えた彼女の表情からは、いつもの“作り笑顔”が欠けていました。ほんの僅かに、仄暗い感情がこぼれ落ちていました。
「むしろ、私には、あなたたちの方が分かりません。あなたたちは、どうして悠長に構えていられるのですか?」
「悠長、ですか?」
思ってもみなかった問い返しに、私は呆然としてしまいました。
それを受けた初代聖女殿は苦笑を漏らし、“作り笑顔”を繕い直します。
「西の魔王という脅威の復活を前にして、あなたたちが実行したのは場当たり的な捜索のみ。その捜索活動さえも、膨大な時間を要する。これを悠長と呼ばずして、何と言えば良いのですか?」
「グリューエンの復活は、いずれ起こるかもしれない問題にすぎません。緊急事態でない以上、他にリソースを――」
「――そこですよ」
「はい?」
こちらの発言を遮るよう、強めの口調で言葉を紡ぐ初代聖女殿。
私が首を傾げると、彼女は淡々と続けました。
「『緊急事態でない』と考えていることが、私には不思議でなりません。西の魔王が復活するという時点で、それが遥か未来のことであっても、起こるか不確かな可能性の話であっても、世界の危機と評せる大問題なのでは?」
嗚呼、なるほど。
事ここに至って、ようやく初代聖女殿との認識の差異を理解しました。やはり、こうやって話し合うのは大事ですね。
私はアゴに指を添え、どう答えるようか考えます。
この件については、言葉を慎重に選ぶべきでしょう。こちらにとってはともかく、あちらにとっては相当デリケートな問題だと予想できますから。下手をすると、彼女の神経を逆撫でしてしまう恐れがあります。
ところが、そうじっくり考えている暇はなかったようです。
「何でしょう?」
最初に気が付いたのは私でした。突然、店の表付近から魔力の乱れを感知したのです。
しかも、一般人ではあり得ざる大きさ。フォラナーダの騎士レベルに匹敵しそうでした。
詳しく確かめるため、意識を集中させる私。ですが、それよりも早く動き出す者がいました。初代聖女殿です。
「ッ!?」
私よりも感知するのが遅かったのに、彼女は誰よりも早く駆け出していました。一目散に、異変の中心へと向かっていました。
「――追ってください!」
一瞬呆然としてしまいましたが、すぐに我に返りました。周囲で待機していた部下たちへ命令を下し、私も後を追います。
時間にして五秒――いえ、彼我の身体能力差を考慮すると、三秒も間は空いていなかったでしょう。
にもかかわらず、すでに事態は進んでいました。
喫茶店の表にて戸惑う通行人たち。群衆の中心で倒れている中年女性。その傍らで膝を突く初代聖女殿。彼女の身を守ろうと駆けるフォラナーダの諜報員たち。
そして、
「【我が黄金を世界へ捧ぐ】」
初代聖女殿が発動した……唱えてしまった色魔法。
一連の事件は、ほんの三秒で致命的な領域まで足を踏み入れてしまったのです。
次回は12月7日12:00頃、閑話を投稿予定です。




