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【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第三部 After story

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Chapter29-1 聖女(8)

「他に話し合うことはあるかい?」


 ひとまず最優先事項を処理し終えたところ、ほっと肩の力を抜いたウィームレイが問うてくる。


 そこで、オレは人差し指を掲げた。


「一つだけ。キサラさまの現状を、しっかり把握しておきましょう」


「現状?」


「どうして、魂だけの状態で現世に留まっているか、ですよ」


「術の軸だった魔王が消滅。それが原因だったのではないのですか?」


 ウィームレイの問いに答えると、キサラも目を瞬かせながら尋ねてきた。


 嗚呼、彼女も気が付いていなかったのか。かくいうオレも、今の話し合いの最中に気づいたので、偉そうなことは言えないけど。


 今思うと、サザンカの相談とやらも、これに関する内容だったんだろう。やはり、霊魂関係において、彼女以上の知見者はいないな。


 サザンカの能力に改めて感心しながら、オレはキサラの質問にも答える。


「それはキサラさまが世界に戻った理由であって、世界に留まっている理由ではありません」


「えっと?」


「どういうことだ?」


 簡潔に分かりやすく説明したつもりだったが、二人はなおも首を捻っていた。


 予想外の反応に、オレも首を傾げてしまう――が、すぐに原因を理解した。


 ウィームレイもキサラも、魂に関する前提知識を持っていないんだ。


 というか、そんなもの、魄術(びゃくじゅつ)師か極まった道士しか知らないだろう。いつものメンバーに対する感覚だったせいで、言葉足らずになってしまったのである。


 失態を悟ったオレは説明し直す。


「本来、魂のみでは現世に留まれないんですよ。何らかの術で補助する必要があるんです」


「なるほど。世界へ身を捧げる術が解除された今、キサラ殿がこの場に存在する理由がないのか。他に何らかの術が掛かっていない限り」


 普段から非常識なトラブルと直面することが多いためか、ウィームレイの理解は早かった。喜んで良いのか微妙なところだけど、手間が省けたのは助かる。


 一方のキサラは、未だ怪訝そうな表情を浮かべていた。オレの説明の仕方が悪かったのもあると思うが、彼女はあまり察しが良くないらしい。まぁ、聖女に求められる資質ではないからね。


 某王妹のことは考えないようにしつつ、もう一度、キサラに説く。


「要するに、あなたがここに存在する理由が、別にあるという話です。難しく考える必要はありません」


「……なる、ほど」


 一応の理解は得られたみたいだが、どこか釈然としない様子のキサラ。


 オレはそんな彼女に語り掛ける。


「何か分からないことがあれば、遠慮なく仰ってください。不明点を残しておく方が危険ですから」


「いえ、分からないことというよりは、納得がいかないだけでして」


「納得、ですか?」


「はい。私は世界に身を捧げる以外、何もしていません。『魂が現世に留まる別の要因がある』と言われても、ピンと来ないのです。身を捧げる以前に術を掛けられていれば、さすがに違和感を覚えるでしょうから。これでも感知能力は高いのですよ、私」


「ふーむ」


 キサラの返答を聞き、オレはアゴに手を添えて唸る。


 確かに、妙な話だ。キサラに心当たりがない以上、別の術を掛けられるタイミングは限られる。彼女はグリューエンと戦った偉人。本人が言うように、感知能力は相当高いはずだ。


 事前が無理なら、彼女が世界を去った後?


 いや、それも不可能だろう。この千年間、キサラは世界に溶け込んでいた。オレやサザンカといった強者にさえ認知されないほど完全に。


 術の内容次第ではあるものの、存在しない者を対象に取るのは難しい。


 思考に耽るオレだったが、数秒後に(かぶり)を振った。


「とりあえず、サザンカを呼びましょう。この件に関して、彼女に勝る知見者はいません」


「私は構いません」


「私も問題ない。呼びに行かせよう」


 キサラに続いてウィームレイも首肯する。


 そして、彼は呼び鈴を鳴らして使用人を呼び出すと、別室のサザンカを連れてくるように指示を出した。


 サザンカが到着するまで、五分と掛からなかった。挨拶を終えた彼女は、ウィームレイの勧めに従って、オレの隣――キサラとは逆側に腰かける。


 それから、話し合いの概要をサザンカに説明する。


「なるほどのぅ」


 すべてを聞き終えた彼女は深く頷き、こちらへ視線を向ける。


「ゼクス殿の見解は間違っておらん。何らかの原因があり、キサラ殿は現世に留まっておるんじゃ」


「その『何らかの原因』に心当たりはあるか?」


「一応」


 サザンカが頷いたのを受け、オレは僅かに目を見開いた。


 肯定が返ってくるとは思っていなかったんだ。まだまだ彼女の実力を甘く見ていたらしい。反省しなくては。


 すると、キサラが前のめりになりながら問うてきた。サザンカの方にずいっと顔を寄せる。


「教えてください! いったい何が原因で、私は現世に留まっているのでしょうか?」


 自分自身のことだ、気が急くのも無理はない。


 だが、もう少し席順を考えて行動してほしかったかな。キサラとサザンカの間にはオレが座っていたため、オレとキサラが密着することになってしまう。


 もちろん、妻帯者たる者、そんなマネは許されないので、【位相連結(ゲート)】を使って回避したが。今はウィームレイの隣の席に移動している。


 すでに妻や恋人が何人もいる? だからこそ、だろう。


「も、申しわけありません。不躾なマネを」


 オレの姿が消えたことで、キサラも我に返ったようだ。慌てて身を引き、ペコペコと頭を下げる。


 それに対して、サザンカとオレは首を横に振った。


「謝らんでも良い。気持ちは分かるからのぅ」


「サザンカに同じく。気にする必要はございませんよ」


「面目ないです……」


 こちらの返答後も、恥ずかしそうに顔をうつむかせるキサラ。


 しかし、サザンカが次のセリフを口にすると、すぐに顔を上げた。


「話を戻そうか。キサラ殿が現世に留まっている原因、じゃったな」


「は、はい。何が原因なのでしょう?」


「話す前に断りを入れておくが、あくまでもワシの推測じゃ。間違っている可能性も、念頭に入れておいてほしい」


「分かりました」


 キサラが小気味好い返事をし、オレとウィームレイも首肯したのを見届けると、サザンカは続ける。


「おそらく、キサラ殿には未練が残っているんじゃろう」


「未練?」


「今回の場合、生きていた頃にやり残したことを指すのぅ。『これをやり遂げなければ、死んでも死に切れない』。そんな想いが未練じゃ」


 なるほどね。


 サザンカの説明を聞き、オレは得心する。未練を残しているから幽霊になる、というのは、心霊現象で定番の理由である。


 特にこの世界では、精神と魔力は密接な関係にある。想いによって何らかの魔法を発動した、と考えても不思議ではなかった。


 無論、それほど強い感情を抱くことが前提ではあるけども。


「『死んでも死に切れない』、ですか」


 一方、キサラはどこか釈然としない表情を浮かべていた。自分に未練なんてあるはずがない。そう言わんばかりの態度だった。


 無理もない反応か。


 彼女は、世界のために自らを捧げるほどの人物だ。つまり、私より公を優先できるヒト。未練とは縁遠いと自認しているんだろう。


 まぁ、その考えが正しいとは限らないわけだが……キサラの場合、確かに違和感がある。


 オレの所感にすぎないけど、彼女は私情を完全に捨てられるタイプだと思う。オレやカロンとは真逆。どちらかというと、アリアノートに近い性質だ。


 とはいえ、こうして現世に留まっている事実は変わらない。


「サザンカ。キサラさまに、何らかの術が掛かってる痕跡はあるか?」


「ワシの眼には、何も見えんのぅ」


「だよなぁ」


 一応尋ねてみたが、予想通りの答えしか返ってこなかった。オレの魔眼にも、不自然な跡は見当たらない。


 結局のところ、新たな発見があるまでは、『キサラに未練がある』という前提で行動するしかなかった。


 要領を得ない結論だけど、こればかりは仕方ない。


 オレたちが頭を悩ませる中、ウィームレイが両手を軽く合わせる。


「とりあえず、現状を維持するしかない、という結論で良いかな? その中で、キサラ殿の未練を探っていくと」


「そうですね。他にできることはないでしょうし」


 オレが頷くと、サザンカが「待ってほしい」と制止する。


「まだ、キサラ殿の意思を確認しておらん。キサラ殿は、今後どうしたいのじゃ? 未練を解決した場合、この世から消えることになるが」


 嗚呼。そういえば、本人の気持ちを確かめていなかった。


 彼女が現世に留まっていたいのなら、未練の解決は悪手だろう。不測の事態に(おちい)った時が怖いので、原因自体は解明しておきたいが。


 とはいえ、キサラの答えは分かり切っているように思う。今までの彼女の振る舞いが、その予想を裏付けていた。


 事実――


「役目を終えた以上、私がこの世に留まる理由はありません。それに、死者がいつまでも残ることは、理に反するでしょう。できるだけ早く消えた方が良いと、私は考えています」


 毅然とした態度で、キサラはそう言い切った。真っすぐな眼差しで、自分の消滅を良しと語ったんだ。


 何ら不測のない正論。反論の余地はない。


 ただ、この場にいるメンバーは、オレも含めて人情派ばかり。どこまでも正しいキサラの意見に、複雑な感情を抱かざるを得なかった。


「本人の意思であれば、否やなし。キサラ殿が現世に留まる理由を解明し、解決する。その方向で進めよう」


 僅かな静寂を裂き、ウィームレイが結論を下す。


 彼の言ったように、本人の意思を尊重すべきだ。オレとサザンカも素直に頷いた。


 その後、細かい打ち合わせを済ませ、オレ、サザンカ、キサラの三人はフォラナーダに帰還する。


 キサラの受け入れ準備に時間を要すると思っていたが、先に帰還していたカロンは、これに関して想定していたらしい。お陰で、すぐに休むことができた。


 初代聖女の復活に、その未練。


 問題や謎が山積しているものの、ひとまずは休息を取るとしよう。また明日から、忙しくなるんだから。

 

次回の投稿は10月9日12:00頃の予定です。

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