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【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第三部 After story

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Chapter28-3 違うもの、変わらぬもの(8)

 辿り着いたのは幽谷(ゆうこく)を囲む四山の一つ。トーザンと呼称される山の麓だった。


 島の東側は人口が少なく、その関係でトーザン周辺の開拓も進んでいないらしい。反逆者たちは、そこに目をつけたわけだ。


 おそらく、魔人王側も、その辺りの危険性は承知の上なんだろう。


 それでも東側を放置しているのは、優先度の問題だな。いくら“星の力”によってエネルギーが潤沢でも、過疎地帯を開発するほどの余裕はないと見える。


 トーザンの麓には、そこそこ大きめの村があった。


 森の中なので分かりづらいが、その樹上にたくさんの家が建っているんだ。ツリーハウスのみで構成された村だった。しかも、ご丁寧に、木々に紛れるような工夫もされている。


 どの家も新しい印象を受けるので、ここを拠点にしたのが最近だと察しがついた。


 地の利に胡座をかかず、きちんと隠蔽工作も行っているのは、さすがだった。これであれば、少し通りかかった程度では発見できないだろう。


 スクエアに噂が流れ始めたのは、先程みたいな狩りが原因かもしれないな。オレたちと同様の目撃者が、過去にもいたと考えるのが妥当だ。


『器用ですねぇ』


 不意に、マロンが【念話】越しに感嘆のセリフを溢した。


 彼女が何を目撃したのかといえば、オレたちが追跡していた赤鬼たちが、樹上へスルスル登っていく光景だった。


 筋肉ダルマといっても過言ではない連中が、器用に木登りを行う様が衝撃的だったんだと思う。狩った獲物を抱えていたのなら余計に。


 かくいうオレも驚いていた。


 動きのキレからして、潜伏しているうちに習得した技術だと予想できる。魔人王ないし聖剣の恩恵を得られなかったとはいえ、学習能力はそれなりに高いようだ。


 当然か。連中は間違いなく敗戦者であるが、群雄割拠だった戦場を生き抜き、さらには島外への追放も回避した猛者でもある。相応の能力がなければ、この場には残っているはずがない。


 実際、この村の警戒網は大したものだ。魔力感知に優れた種族を警備に配置しており、半径五百メートル内での魔力の使用は、完全に封じられていた。使えば、一発で捕捉されてしまうに違いない。


 魔力隠蔽の技術を修めていなかったら、オレでも隠れながら村の内部には侵入できなかった。


 だから、後からついてきているマリナたちには、五百メートル圏外で待機しておくように指示を出している。


 彼女たちの出番は情報収集を終えた後、反逆者たちとの戦闘開始以降になるだろう。


 赤鬼に続いて樹上へと登る青魔鬼(しょうまき)の青年を見送った後、オレたちは探索を開始する。


 まずは、青魔鬼(しょうまき)の青年や赤鬼たちが入っていった建物からだ。木々を軽快に駆け上がり、ツリーハウスの内部をこっそり窺う。


 狩った獲物を運び込んでいたので察してはいたが、この家は解体場らしい。室内は血みどろで、壁際には他の肉が保管されていた。


 臭気が感じ取れないのは、専用の結界を展開しているお陰だろう。臭いのみを遮断するとは、実に興味深い術である。


 魔人を含めた魔獣は、種族由来の魔法しか使えない。魔力を得るルーツが人類とは異なるため、魔法も人類ほど器用には扱えないんだ。


 ゆえに、この家に施された魔法も、村にいる何者かの魔法なんだろう。ざっと見た感じ、遮断系の結界の応用と、付与系の魔法の組み合わせかな?


 解体場に有益な情報はない。早々に見切りをつけたオレたちは、他の家も覗いていく。


 そこそこ大きい村とはいえ、【身体強化】を扱えるオレたちだ。すべてを回るのに、そこまで時間は費やさなかった。


 一通り調査して判明したのは、反逆者たちの脅威度が低いことである。


 というのも、大半の――魔人王の恩恵を得ていない連中は、とても怠惰なんだ。本能に忠実と言い換えても良い。『食って寝る』が基本であり、文明的な行動をしているのは、魔人族ばかりだった。


 もちろん、狩りをしていた赤鬼同様に、仕事している者もいた。


 だが、おそらく、彼らもほとんどの時間は自堕落にすごしているんだろう。現に、先程の赤鬼たちも、肉の保管が終わった後は自宅で寝転がっていた。


 魔人たちが勝利を収めたのは、この辺りが最大の理由である気がした。


 本能の勝るヒト型魔獣たちと、理性によって勤勉である魔人族。どちらが勝利に近いかなんて、火を見るより明らかだった。


 だからこそ、反逆者たちは脅威たり得ない。魔人たちが先導しているとしても、大半がそれ以外で構成されているんだ。積極的なテロ活動は難しいに決まっている。


 かといって、放置もできなかった。反逆者たちの戦力が魔人たちにとって恐ろしいのは事実で、一度暴れ始めたら厄介なのも確かなんだ。オレたちも巻き込まれることを考慮するなら、危険の芽は事前に摘んでおいた方が良い。


 探索で得られる情報は、とりあえず集め終えた。


 であれば、残るは彼らの主義主張を知ることのみ。そちらは駆逐作戦と同時並行で進めてしまおう。


 オレは、あえて魔力を隠蔽せずに放出した。当然、この村にいる警戒役に感づかれるが、問題ない。もはや、隠れておく意味はないんだから。


 事前に開戦の合図は伝えておいたため、マリナたちも(じき)に動き出すだろう。あちらが到着するまで、せいぜい派手に暴れておくさ。


 魔力だけではなく、消していた姿もあらわにする。


 場所は解体場の前。赤鬼たちが帰宅したことで人気(ひとけ)がなくなっており、ちょうど良かったんだ。他の家よりも高い位置ゆえに、村のほとんどが見渡せる立地も都合が良かった。


 警戒役が鳴らしたんだろうカンカンと小うるさい鐘の音。それに反応し、家の中から多くの反逆者たちが現れた。全員、先程までの怠けた気配は消え失せている。


 それどころか、殺気に満ち溢れていた。見敵必殺と言わんばかりに、ギラギラと瞳を輝かせていた。


 まだ、こちら()の姿を捉えていないのに、である。殺意が高すぎだった。本能に忠実だから、こういった衝動も我慢できないんだろう。


 よく、集団生活ができているなぁ。知性の高い魔人たちがコントロールしているんだろうけど、そこまで努力できる気力に感心するよ。


 程なくして、反逆者のうちの一人が、オレとマロンの姿を捉えたらしい。嫌らしい笑みを浮かべ、こちらに向かって吠えた。


「シンニューシャ、ハッケン!」


 濁声の片言は、酷く聞き取りづらかった。


 おそらく、奴自身、意味を理解して使ってはいないんだろう。『敵を見つけたら叫べ』とでも教えられているのかな? だから、微妙に言葉の形が曖昧というか、成立していないんだ。


 とはいえ、現状はそれで十分。他の反逆者たちも、オレたちの居場所に気づいたようだ。一様に牙を剥き出しにし、下卑た笑い声を上げている。まるで蛮族の宴だ。


 今にもこちらに襲い掛かって来そうな連中だったが、その前に、一人の青魔鬼(しょうまき)が前に出た。狩りの時、赤鬼たちを従えていた青年である。

 

次回の投稿は明後日の12:00頃の予定です。

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