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【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第三部 After story

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Chapter28-2 発展の核心(3)

本日より、ニコニコ漫画でもコミカライズの配信が始まりました。

ご興味のある方は、ぜひぜひご覧ください。

 大きな都市が目の前に広がる。


 一言で表すなら『雑多』だろうか。ほとんどの建物が十階建て以上あり、それらが所狭しに並んでいる。精緻という言葉とは無縁の、ゴチャゴチャした町並みだった。


 また、城壁の外からも窺えたが、各所には背の高い煙突がいくつもあり、モクモクと鈍色の煙を吐いている。


 雑多なのは建造物だけではない。都市内を歩くヒトもだ。先の行列以上の人数が溢れ返っており、まさにすし詰め状態。しかも、様々な容姿の魔人族がいるため、その光景は混沌そのものといって良かった。


 目前の光景に圧倒されたんだろう。他のメンバーも、ただただ唖然としていた。


 しかし、いつまでも棒立ちでは不審がられてしまう。肩を叩きながら【平静(カーム)】を施し、全員の正気を戻す。そして、落ち着ける場所を目指し、一塊になって歩き出した。


 そんな中、ラウレアやポーリオが離れ始めた。自主的にではなく、人混みに流されつつあるんだ。


 (ひし)めく魔人たちの合間を、上手く潜り抜けられない様子。頻繁に足は止まっている上、足取りもフラフラとしていた。


 すぐに察しがついた。二人は、人混みに慣れていないのだと。


 貴族は、基本的に人混みの中に入らないからなぁ。馬車移動か、庶民らを護衛で遠ざけるかの二択だ。ゆえに、混雑をどう縫っていけば良いのか分からないんだろう。


 こんなことで別行動を強要されては堪らない。


 オレはマロンとモオ王国が選抜した護衛の一人に目配せした。ラウレアとポーリオをフォローしろと、視線のみで命じる。


 二名はこちらの意図をすぐさま悟った模様。即座に行動を起こした。


 護衛の方は、他の護衛二人と連携してポーリオを囲い込み、移動のサポートを始めた。お陰で、不安定だった足取りは解消される。


 マロンの方も問題ない。ラウレアの肩を支え、自身を杖兼防波堤にした。三人いる護衛たちより守れる範囲は狭いものの、そこは(たい)さばきでカバーしている。


 これで二人が人混みに流される心配はなくなった。


 とはいえ、のんびりしてはいられない。この人混みの密度を考慮すると、他のメンバーがいつ流されてもおかしくはない。


 特に、【身体強化】ができない魔術大陸組。素のスペックが魔人たちと異なるため、そのうち堪え切れなくなるだろう。


 オレはざっと周囲を見渡し、一息入れられそうな場所を探す。


 アカツキとの模擬戦(死闘)を普段から行っているんだ。探知術を制限されていようと、立地の把握くらいは容易かった。


 実際、三秒と置かず、公園と思しきスペースを発見する。小柄な魔人が何人か腰を落ち着けているのも確認できた。


 ()もありなん。魔人は多種多様。すべてが身体能力に優れているとは限らない。体格で劣る魔人のために、休憩場を用意しておくのは当然の配慮だな。


 オレはみんなに合図を送ってから、公園に向けて歩を進める。


 数分後。多少時間は掛かったが、何とか全員で公園に辿り着けた。


 魔術大陸組は、不慣れだったラウレアやポーリオ以外も相当体力を消耗した模様。地面に体を投げ出すほどではないものの、到着と同時に姿勢を崩した。肩で息をしている。【身体強化】の有無が原因だな。


 先客の魔人たちに不審がられるかとも思ったが、彼らの注目は一瞬だった。おそらく、ここに来る者は、少なからず似たような反応を示すんだろう。


 魔術大陸組の呼吸が整うのを待ってから、オレたちは公園の隅へと移動した。都市を見た感想と、今後の行動について話し合うために。


「まず、この都市の所感を語り合おうか」


 小規模の防諜結界を敷いた後にオレが言うと、エコルが最初に口を開いた。


「とにかくすごい」


「エコル……」


 あまりにも抽象的すぎる感想に、ラウレアは呆れを多分に含めた声を漏らした。


 それを受け、エコルは唇を尖らせる。


「だって、他に言うことなくない? すごいじゃん、この町」


「そこに異論はありませんが、今求められているのは、もっと具体的なことですわよ」


「むぅ。具体的かぁ」


 腕を組んで唸るエコルだったが、それ以上のセリフが出ることはなかった。


 決してバカなわけではないのに、たまに大雑把になるんだよなぁ、エコルって。


 オレが苦笑いを浮かべていると、「はい」とマリナが小さく挙手をする。


「一番注目したいのは、あの煙突ですねー」


 見れば、マロンも控えめに頷き、同意を示していた。


 一方で、納得できていない者もいた。魔術大陸組は全員首を傾げている。


「そうなの? アタシは建物の方がすごいって思ったけど」


「私も同意見だ。あそこまで多くの高層建築物など、見たことがない」


 そう疑問を口にしたのはエコルとポーリオだった。


 高さだけなら各国の城や学園の塔などは比肩していると思うが、一般の建物も含めると、そうはいかないか。マンションほどの建築物が並び建つ光景なんて、そうそうお目に掛かれないだろう。


 二人の意見に対して、マリナは頷きつつも反論する。


「確かに、視覚的な迫力は圧倒的だったねぇ。でも、魔法を使えば、再現するのは難しくないんだよ~」


「えっ、そうなの!?」


「マリナの言ってることは正しいな」


 素っ頓狂な声を上げ、こちらに視線を向けてくるエコルに、オレは首肯してみせた。


 地盤を固めるのも、高い建物を組み立てるのも、上級土魔法師が実行できる。


 無論、専門知識は必要だが――


「実力が最低ラインギリギリの魔法師でも、十階建て程度なら一人で建てられるんじゃないかな。まぁ、実力も人数も最低限だから、半年くらいは要するだろうけど」


「それって早いの?」


「仮に我々の大陸の技術で建てるとすれば、膨大な資金と人材を割いても、一年半以上はかかるでしょう」


「げぇ。三分の一ッ!?」


 建築の知識を持っていなかったようで、最初は小首を傾げていたエコル。しかし、ラウレアの補足を聞いて、乙女が出すのは宜しくない類の悲鳴を上げた。


「単純に、三分の一というわけではない。こちらは全力投入で一年半にもかかわらず、あちらは一人で半年だ。つくづく、魔法とは反則的な力だな」


 よほど衝撃的な内容だったのか、女子二人の会話にポーリオも参加する。吐き出された溜息には、呆れと嫉妬の感情が込められていた。


 絶賛困惑中の彼らを眺めながら思う。ここで『ただし、高層建築物なんて、めったに造らないけどね』なんて言ったら、どう反応するんだろうかと。


 現状、マンションの類を建てるメリットはあまりないんだよ。


 考えてみてほしい。この世界では城郭都市が基本なんだ。城壁内部に高層建築物が乱立したら、あっという間に、地上へ陽の光が届かなくなる。


 封建社会というのもネックだな。身分の低い者が高い場所に住むというのは、それだけで問題に発展しかねない。


 他にも暗殺の危険性、飛行型魔獣への対処、敵性魔法の的になる等々、様々な問題がある。高層建築物は、扱うにはデリケートすぎた。


 人口が過密しているなら一考の余地はあるんだろうが、現時点で土地は十分足りている。ゆえに、ごく一部の建物を除いて、必要以上に高く作る意味はなかった。


 逆説的に、この都市には、マンションを建てるだけの理由が存在することになる。地上の薄暗さを無視できるほどのメリットが。


 魔人たちの生態や体格の大きさが関係しているのかな? 高所でないと眠れない種族とか、体が大きい種族が多いせいで土地が足りないとか。どちらもパッと考えただけなので、正解かは分からないが。

 

次回の投稿は明後日の12:00頃の予定です。

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― 新着の感想 ―
やっぱりというか。急速な発展と人口の増加で土地が足らなくなりましたか。遠征はある程度の間引きも含まれてるんでしょうね。
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