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【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第三部 After story

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Chapter28-2 発展の核心(2)

 転移先は聖剣影響下のギリギリ手前、森林地帯の端である。木々の陰に姿を隠しつつ、海の向こう側――魔獣島の軍港の様子を窺った。


 二日しか経っていないため、あまり変化は見られない。せいぜい、軍事演習が行われていないくらいの違いだろう。


 探知術で、近辺にヒト型魔獣の警邏(けいら)がいないことを確認した後、潜入メンバーに一本のロープを渡した。


 オレやマリナ、マイム以外の面々は、隠密魔道具を起動すると、互いの姿を見失ってしまう。だから、このロープを全員で持ち、離れ離れにならないようにするんだ。


 もっと賢い方法はあったかもしれないが、こういう時は、原始的な方がミスを抑えられることが多い。よって、この手段を選んだ。


 ロープを手に、それぞれが隠密魔道具のスイッチを入れる。魔道具は正常に働いたようで、すぅと全員の気配が薄らいだ。


 オレは前進の合図――ロープを三回引っ張り、海岸へと歩を進める。事前の打ち合わせ通り、他のメンバーも大人しく後に続いてくれた。


 そこからは、緊張感を湛えつつも流れ作業だった。聖剣影響下へ侵入し、二日前よりも大きめの小舟で海峡を渡って魔獣島へ突入。誰かに発見されるなんてトラブルが起こることはなく、軍港の隅に到着する。


 港の中は、二日前と変わらぬ喧騒に包まれていた。


 遠くから聞こえる声から察するに、まだ行軍用物資の積み込みが終わっていないんだろう。万を超える軍による山岳地帯の踏破だ。その量は推して測るべし。


 軍港に関しては、二日前にある程度調査したので、今回はスルーする。どうせ、現段階で物資の目録を超える重要な情報は出てこない。


 オレたちの目的地は軍港の先、堅牢な城壁の向こう側だった。その出入口には厳重な検問が敷かれているため、隠密魔道具で乗り越えるしかないんだ。


 目的の出入口に到着すると、ちょうど空の荷車が門を通るところだった。おそらく、物資を運び終え、帰還するつもりなんだろう。


 実に良いタイミングだ。荷車が通るために門が開いたので、それに乗じてオレたちは内部へと入り込む。


 ――よし。全員通過できたみたいだな。


 メンバーがきちんと続いていることを確認したオレは、そのまま近場の建物の陰まで移動した。表札から、検問に詰めている兵士用の宿舎だと分かる。


 好都合だ。軍の宿舎ならば、日中に休んでいる者はいないはず。実際、気配もほとんど感じない。


 こちらに近づく気配の有無も確かめたオレは、改めてロープを引っ張った。今度は三・二・三拍子。『変装魔道具を起動後、隠密魔道具を切るべし』という合図だった。


 程なくして、全員の姿があらわになる。変装魔道具によって、ヒト型魔獣の幻影をまとった姿が。


 変装は、青い肌と金色の瞳、一本の長い角を生やしたものである。顔立ち等は、元の姿がベースとしている。


 軍港に人間の見た目に近い種族がいたので、参考にしたんだ。普段と差異の大きすぎる姿にすると、何かの拍子にボロが出る可能性があったからね。


 隠密魔道具を解いた彼らは、一様に長い息を吐いていた。それだけ緊張していた証左だろう。彼らは味方の姿も見えていなかったわけだし、余計に気疲れしたに違いない。


 ただ、彼らを労うことや慮っている時間はなかった。人気(ひとけ)のない場所に居座るのは、長くなればなるほど不審がられるリスクが上がる。


 さっさと移動するためにも、オレは物陰から外の様子を窺った。


 門前は、多くのヒト型魔獣でごった返している。大半は、物資を搬入する人材だろう。連中の移動に乗じれば、オレたちが見咎められる心配はあるまい。侵攻準備のお陰で潜入の難度が下がるというのは、些か皮肉が利いているけども。


 ついでに、他の景色も確認しておく。


 防犯のためか、城壁付近は殺風景だ。兵士用の宿舎以外に建造物は見当たらず、とても見通しが良い。


 また、行路も門前に繋がる一本しか存在しなかった。幅三十メートルはある太いもので、門前同様、ヒト型魔獣たちがそこを埋め尽くしている。


 幸い、荷馬車以外は徒歩が大半なので、オレたちが紛れても悪目立ちはしなさそうだった。


 城壁を超える前にも思ったが、近代的な港を見た後だと、荷車を使っている光景には違和感を覚えるな。簡易的な自動車くらいはあっても不思議ではないのに。


 ……いや、だからか。


 怪訝に思うのは一瞬だった。


 見渡した限り、港へ向かう連中は、誰もが山のような荷物を載せている。最低でも五倍【身体強化】程度の馬力はありそうだった。


 要するに、簡易的な自動車などで運ぶよりも、ヒト型魔獣たちが地力で運んだ方が効率が良いんだ。人間よりも身体能力が上だからこその結論である。


 ――さて。紛れ込むのは問題ないとして、次に考えるべきは、大通りの先に何があるか、だな。


 とはいえ、あまり心配はいらないだろう。


 約二キロメートル先には都市が存在しているんだ。あちらも壁に囲まれているせいで詳細は分からないが、壁の上部から飛び出ている建物の屋根や先端のお陰で、大きな町だと判断できた。


 情報収集が目的である以上、ヒトの多い場所に向かうのは望むところ。オレたちの行き先が確定したも同然だった。


「人混みに紛れるぞ」


 であれば、話は早い。オレたちは怪しまれない程度に隊列を組み、都市へ向かう流れに入り込む。


 多少迷惑そうな目で見られるものの、正体が露見した気配は感じられない。変装魔道具は、きちんと機能しているようだ。


 一方、変装している当人たち――特に魔術大陸組は、ものすごく居心地が悪そうだった。視線が泳ぐのは序の口。エコル、ラウレア、ポーリオの三人に至っては、近くのヒト型魔獣が身じろぎする度にビクビクと震えている。


 専門の訓練を積んでいないのなら仕方ないかもしれないが、もう少し堂々と振る舞ってほしい。周りの連中に、不審な目で見られてしまう。


 オレは溜息をグッと堪え、三人の肩をそれぞれ叩いた。それに合わせて、【平静(カーム)】を施す。


 わざわざ接触したのは、魔力の漏れを最小限にするためだ。聖剣の網は大丈夫だとしても、感知能力に優れたヒト型魔獣に悟られる心配があったからね。些細な変化を悟られ、訝しまれても困る。


 何とか三人を落ち着かせ、歩き続けるオレたち。その最中、ヒト型魔獣たちの雑談が聞こえてきた。


 だいたいは人間との戦争に対する感想である。おおむね、好意的に受け止められているようだ。『人間など滅ぼしてしまえ!』みたいな論調が目立つ。


 他にも、気になる内容が聞こえた。


「まだ荷運び終わらないのかぁ。かれこれ二ヶ月は続いてるだろ?」


「仕方ねぇよ。あの山を越えるだけならまだしも、その後に戦争するんだぜ。補給路の確保が難しい以上、持っていく物資を増やすしかねぇ」


「それは分かってんだけどさぁ。そもそも、山向こうの人間って、そんなに強いわけ? 俺らよりも力は弱いって聞いたぞ」


「さぁな。今生きてる世代は、人間なんて見たことねぇから分かんねぇよ。でも、一ヶ月前にけしかけた“落第”連中の反応は消えたって話だ。最低限の戦力はあるんだろうさ」


「“落第”ねぇ。魔人王陛下の恩寵を得られなかった奴らに勝てたくらいで、俺たちの脅威になるとは思えないんだけどなぁ」


「そりゃそうだが、魔人王陛下のお決めになったことだ。何かお考えがあるんだろ。それ以上の言葉は不敬になるぞ」


「分ぁってるよ。ちょっとした愚痴だ。荷運びばかりで退屈なんだよ」


「それは同感だ。誰か交代してくれねぇかね?」


「するわけねぇだろ。誰が下っ端の仕事をやりたがるんだよ」


「だよなぁ」


 たわいない雑談のようだったが、こちらにとっては有意義なものだった。


 新たに得られた情報は三つ。


 一つは、現存するヒト型魔獣たちがヒトを知らない点。


 まぁ、これは予想できていたことだな。六百年前に始祖が活躍するまで、魔術大陸にまで魔獣が蔓延(はびこ)っていたほどだ。本拠地だった魔獣島でヒトが生き残れるはずがない。


 始祖に追いやられて以降、魔獣たちはヒトと接することなく世代交代を続けたんだろう。


 二つ目は、例のトロールの襲撃が意図されたものだった点。


 彼らの口振りからして、この島から追い出した者たちを捨て石として有効活用した、といった感じか。人類側の戦力を測るために。


 マーキングをしていたみたいだが、オレが感知できなかった辺り、聖剣の能力の一つに違いない。


 最後は、魔人王について。


 察するに、ヒト型魔獣の国の王だろう。今しがた盗み聞きした会話以外にも、チラホラとその呼称は耳にできる。


 もしかしなくとも、ヒト型魔獣たちは魔人族を自称しているのかもしれない。ヒト型だから、魔“獣”ではなく魔“人”だと。


 魔人王の評判はいずれも良いものばかりで、善政を敷いていることが分かった。今までその名をまったく耳にしたかったことが、不思議でならないほどの高い支持である。


 おそらく、港内では発言が制限されていたんだろう。目的は……スパイ対策かな? 今思えば、軍港にしては重要な情報も少なかったように思うし。


 魔人王とやらは、玄関口たる港に何者かが潜入することを、事前に想定していたんだ。周囲にいる木っ端の兵士たちとは異なり、ヒトを一切甘く見ていない。実に面倒くさい手合いである。


 推測にすぎないが、十中八九、魔人王が聖剣使いだろう。恩寵がどうこうって話もあったし。本当に厄介極まりない。


 密かに溜息を吐いていると、ふと、エコルとラウレアの小さな呟きが耳に届いた。


「本当に喋ってる……」


「そうですわね。驚きです」


 どうやら、言語を操るヒト型魔獣――魔人族たちに驚愕しているようだ。


 無理もない。彼女たちが出会った魔人族はトロールとサイクロプスで、多少の知性しか持たない連中だった。目を丸くするのも当然である。


 それはポーリオたちも同様。彼らも絶句していた。


 驚くだけなら構わないだろう。潜入捜査の邪魔になるような行動を取らないのであれば、オレは関知しない。


 周囲の雑談に耳を傾けながら歩くこと一時間弱。ようやく、都市の手前まで辿り着いた。こちらでも検問を行っているらしく、長蛇の列ができている。


 しかし、軍港ほど緻密な検査ではなかった。目視による指差し確認だけで、ほとんど素通り状態である。


 まぁ、これだけの人数だ。いちいち細かく調べていたら、何日かかっても行列が解消されない。そうなると、戦争物資の搬入も遅れてしまう。だから、妥協しているんだろう。


 お陰で、オレたちは都市への潜入に難なく成功した。

 

次回の投稿は明後日の12:00頃の予定です。

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