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【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第三部 After story

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Chapter28-2 発展の核心(1)

先日、コミックス1巻の書影が公開されました。

近況ノートにも載せておりますので、興味のある方はご覧ください。

同コミックスの予約も各通販サイトで始まっておりますので、よろしくお願いします!


また、コミックガルドの方でも最新話が更新されております。

そちらも、よろしくお願いします。

 フォラナーダに帰還してから約二日後。オレはマリナとマイム、マロンを引きつれ、モオ王国の王城へと戻ってきた。


 加えて、男性文官一人と護衛の騎士五人ほども帯同させている。オレの介入に対する対価について、彼らに交渉してもらうためだった。


 転移先は王城の最端付近。モオ王国側に指定された一室である。ほいほいと国の中枢に侵入されては困る、という意図だろう。


 前回まで何も言われなかったのは、転移魔法の危険さをしっかり分かっていなかったからかな? 山岳地帯調査へ出発する際に初めて本物を目の当たりにして、事態の深刻さをようやく理解した。そんなところだと思われる。


 こちらとしても、転移先の限定に否はない。彼らと敵対するつもりはないからね。


 時差の関係でこちらは真昼。燦々(さんさん)とした陽光が窓から差し込んでいる。


 室内には二人の騎士が待機しており、オレたちの姿を認めると、緊張した面持ちで最敬礼してきた。


 それに鷹揚に応じつつ、オレやマリナたちは宛がわれていた部屋に向かうこと、文官たちはケオ王たちとの交渉を行う人材であることをそれぞれ伝えた。


 部屋の外にも騎士がいたようで、グループごとに案内してくれるらしい。


「そっちは任せたよ」


「はい。尽力いたします!」


 文官たちとは、ここで一旦お別れだ。別れ際に期待している旨を伝えたところ、ものすごく気合の入った返事があった。


 一応、事前に大雑把な落としどころは相談している。


 それは『侮られない、かつ、あちらの国力が衰えない程度』といった塩梅だった。無茶な要求をして、魔術大陸全体のパワーバランスが崩れては困るもの。


 ただ、彼のやる気全開具合を見ると、やりすぎないか少し不安になる。若輩の彼にとって、初めて一人で担当する大きな仕事だから、いつも以上に力が入るのは分かるけども。


「程々にね」


「はい!」


 念を入れて忠告してみたが、意図を察してくれたかは微妙だった。むしろ、もっと気合が入ったようにも感じてしまう。


 大丈夫かなぁ。


 そこはかとない不安を感じながらも、オレは文官たちの背中を見送った。


 曲がりなりにも、フォラナーダに所属する者だ。しかも、他国との交渉に抜擢されるほどのエリート。過剰なプラスになりはしても、マイナスに転じるミスは犯さないだろう。


「それじゃあ、オレたちも行こうか」


 オレは意識を切り替え、騎士の先導に従って、用意されていたオレたち用の部屋へと向かう。


 私室と転移用の部屋を一緒にした方が合理的では? と思うだろう。


 だが、モオ王国にも面子がある。客人を王城の隅っこに追いやるなんて外聞が悪すぎるんだよ。かといって、防犯的に転移先を中心部にするわけにもいかない。多少効率が悪くとも、部屋を別々にするしかなかったわけだ。


 程なくして、オレたちは目的地に到着する。案内を担った騎士に礼を告げ、全員で部屋の中へ入った。


 すると、室内には二つの人影があった。エコルとラウレアである。


 片や、ソファにゴロゴロと横になってお菓子を食べ。片や、椅子に折り目正しく座って読書して。


 どちらが誰なのかは、言をまたないだろう。その振る舞いが、彼女たちの性格を如実に物語っていた。


「あ、おかえりー」


「おかえりなさいませ、皆さま」


 こちらの姿を認めたエコルは横たわったままヒラヒラと手を振り、ラウレアは本を閉じて一礼してきた。


 そんな二人――主にエコルを見ながら、オレは呆れた声を漏らす。


他人(ひと)の部屋で、自由に過ごしすぎじゃないか?」


「勝手に使っていいって言ったの、ゼクスじゃん。いつ帰って来ても大丈夫なように待機してたんだよ。むしろ、褒めてもいいくらいじゃない?」


 しかし、エコルは動じなかった。それどころか、自慢げに胸を張る始末。


 いや、確かに言ったけど、ここまで遠慮なくくつろぐとは思わないぞ、普通は。


 オレが一つ溜息を吐くと、近くまで歩み寄ってきたラウレアが頭を下げてくる。


「申しわけございません、ゼクス殿。何度も注意はしたのですが……」


「ラウレア嬢が謝る必要はないよ。エコルの言う通り、オレが許可したんだ。それに、これも彼女なりの“甘え”だろうし」


 最後の方は、エコルには届かない小声で告げた。


 それを受け、ラウレアは首を傾げる。


「甘え、ですか?」


「エコルの過去を考えれば、ね」


「嗚呼」


 皆まで言わずとも、彼女は理解してくれたらしい。得心の声を漏らすと同時に、チラリとエコルに視線を向けた。


 当の本人は不思議そうに小首を傾げながら、ポリポリとクッキーをかじっている。


 オレが召喚されるまで、彼女は母以外に頼れる相手がいなかった。その反動か、たまに他人との距離感がおかしくなるんだよね。特に、オレ相手だと顕著だった。


 おそらく、初めてできた頼れる友人だから、余計に気が緩んでしまうんだろう。


 彼女の心情を思えば、うるさく指摘はしない方が良いと思う。余計なストレスを抱えてしまう可能性が高いからね。無論、必要な時は注意するつもりだけど。


 納得した様子のラウレアから視線を外し、オレはエコルを見た。


「エコル。オレが許したのは事実だけど、それはさすがにはしたなさすぎる(・・・・・・・・)。ここは自分の家じゃないんだ。最低限の淑女の振る舞いはしてくれ」


 今はパンツルックだから良いものの、これがスカートだったら、盛大にまくれ上がっていたに違いない。


「むっ、分かった」


 こちらの指摘はもっともだと考えたようで、エコルは大人しく聞き入れてくれた。体を起こし、ソファに行儀良く座り直す。


 それを見届けたオレは、マリナとラウレアに着席するよう促した。


 ラウレアが元の席に、オレがその傍にある椅子に、マリナがエコルの隣に座る。マロンは、さっとオレの背後に立った。


 ちなみに、マイムはマリナの頭の上に乗っている。


「――で、こっちで何か動きはあったか?」


 それから、全員が落ち着いたタイミングで、オレはエコルとラウレアに問うた。この二日間、モオ王国では何があったかと。


 口を開いたのはラウレアだった。


「モオ王国側からの同行者が決まりました。ポーリオ殿下と護衛騎士が三名ですわ」


「まぁ、予想通りだな」


 危険な任務ゆえに王子を外す選択も多いにあり得たが、結局、ついてくることになったか。


 本人が強く希望した可能性が高そうだな。ラウレアが同行すると聞いていたのなら、なおさらだろう。彼は彼女に執拗な恋心を抱いているようだったし。


 あとは、オレたちと顔見知りの方が良いと、ケオ王たちが考えたのかもしれない。何だかんだ、ポーリオたちは山岳地帯の調査に最後までついてきた実績がある。


 ただ、意外な点が一つ。


「護衛を減らしたんだな」


 隠密性よりもポーリオの安全性を取ると思っていたので、少々驚いた。


 すると、ラウレアとエコルが滔々(とうとう)と語る。


「はい。というより、メンバーが一新されました。例の五人は、どちらかというと探索向きの能力だったようで」


「敵が魔力に反応する網を張ってるって伝えたでしょ? それを考慮して、近接戦闘が得意なメンバーに変更したんだって」


「当然、協調性重視の人選ですわ。山岳地帯の調査以上に、国家存亡に関わる任務ですからね。派閥による捻じ込み等はございませんので、ご安心ください」


 なるほど、そういう意図か。魔術も”生み出された結果“は魔力をまとうからな。


 【位相隠し(カバーテクスチャ)】が大丈夫である以上、よほど特殊な魔術以外が引っかかる可能性は皆無に等しいとは思う。


 だが、備えあれば憂いなしとも言う。当然の配慮だった。


 問題は、身内同士での(いさか)いだな。選ばれた護衛たちが、本当に派閥等を無視して手を取り合えるか、未だ疑問が残る。


 ……そこはラウレアの言葉を信じるしかないか。場合によっては切り捨てることは、すでにモオ王国側へ伝えているんだ。下手な人選はしていないだろう。


 オレは浮かぶ様々な議題をとりあえず置き、首肯した。


「同行者については分かった。他に何かあるか?」


「いえ、特には。出発の日程など、すべてはゼクス殿に一任すると」


「ポーリオ殿下たちの準備も、もう終わってるみたいだしね」


 ()もありなん。国が動いているなら、四人程度の準備なんて終わっていて当たり前だろう。


 なら、話は早い。


「じゃあ、三十分後に出発だ。集合場所はそうだな……庭園の中心部で。ラウレア嬢、王国側に伝えてもらえるか?」


 あえて時間を掛ける意味はない。


 オレが直接伝えても良かったが、ここは同国民である彼女の方が早いだろう。


 こちらの言葉を聞いて、ラウレアが息を呑みながらも頷く。


「ッ。承知いたしました。今すぐ、伝えて参ります」


 そう言って、彼女はやや慌てて退室した。


 その後ろ姿を見届けた後、オレは残ったメンバーに告げる。


「オレたちも移動するぞ」


 異口同音の返事を聞きつつ、オレたちも集合場所へ向かうのだった。








○●○●○●○●








 たった三十分という猶予だったせいか、見送りに集まった人数は多くなかった。たまたま手隙だったという重臣二名と、城内勤務の騎士が小隊ほどである。


 狙い通りだった。盛大な見送りは面倒くさかったからね。


 少し驚いた――ある意味で予想の範疇だけど――のは、騎士の大半がエコル目当てだったことかな。


 トロール(仮)を退けた時から騎士たちには慕われていたけど、さらにその勢力を伸ばしたらしい。相変わらずの人たらしだ。


 見送りの面々はさておき。潜入メンバーが全員そろったのを見計らい、オレは声を掛けた。


「これから魔獣島に潜入するわけだが、その前に、全員にこれを渡しておく」


 各員に手渡したのは二つの魔道具だ。フォラナーダ帰還中に製作した変装魔道具と隠密魔道具である。


 どちらも、魔素の蓄積および変換と魔力隠蔽の機構が組み込まれている。お陰で魔術大陸組でも扱える上、聖剣の網に引っかかる心配もない。


 とはいえ、万能とは言い難かった。


「隠密の方は、基本的に海を渡る間にしか使用を許可しない。有事の際は別だが」


「何故でしょう? 姿を隠し続けた方が便利だと思いますが」


 質問を投じてきたのはポーリオだ。年齢の割に怜悧(れいり)な茶色の瞳で、こちらを見つめてくる。


 その視線に応じつつ、オレは淡々と答えた。


「溜めておける魔力に限りがあるからです。複数の魔法を同時使用する関係上、隠密魔道具は魔力消費が激しく、魔術大陸出身の方々では効果を長く維持できません」


 この辺りの技術は、一朝一夕で叶えられるものではなかった。【刻外】で時間を短縮できると言えどね。閉じられた空間では、トライ&エラーにも限界があるし。


 いざという時に使用不可能、もしくは不意に効果が切れるのも勘弁してほしい。ゆえに、どうしようもないトラブルが起こらない限り、隠密魔道具の行使は島の出入りのみに限定したかった。


 こちらの言い分に納得してくれたようで、ポーリオは深く頷いた。


 オレは全員の顔を見回し、他に質問がないか視線で問う。そして、何もないことを確認してから、改めて口を開いた。


「納得してもらったところで、魔道具の使い方を教える。同時に動作確認もしたいから、違和感があったら教えてくれ」


 一応、開発直後にも入念な動作確認を行ったが、動作不良の可能性はゼロにはできない。これは、万が一を魔獣島内で発生させないための処置だった。


 各自が魔道具を起動して、気配を消したり、ヒト型魔獣の幻影をまとったりする。様子を窺った感じ、予定外の挙動を起こしている魔道具はないようだった。


 違和感はなかったとの返事も聞き、ホッと胸を撫で下ろすオレ。とりあえず、初動からつまずくことは回避できた模様。


 その後、魔獣島の潜入に際した注意事項を、念入りに確認していった。基本的に一塊となっての行動となるが、散開が必要になった場合はどうするのか、集合場所はどうやって決めるか。現地民からの情報収集の方法。万が一に正体が露見したら、どういった行動を取れば良いのか。正体露見以外で荒事に巻き込まれた時の対処方法などなど。様々な情報を共有していく。


 メンバーが本職のスパイならもう少し省略もできるんだけど、今回は素人も含まれるので仕方ない。エコル、ラウレア、ポーリオの三人のことである。


 フォラナーダ組は、修行の一環で基礎を学んでいるので問題ない。


 護衛の三人も同様だ。ラウレアやポーリオには伏せているようだが、足運びや気配の湛え方は、どう見ても諜報員だった。


 ()もありなん。潜入捜査だと最初から分かっているんだから、そういった人選をするに決まっていた。


 一通りの話し合いを終えれば、いよいよ出発となる。


 騎士たちの――エコルへ向けた――熱烈な声援を背に、オレたちは【位相連結(ゲート)】を潜るのだった。

 

次回の投稿は明後日の12:00頃の予定です。

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