Chapter1-2 盗賊(5)
カロンたちがチンピラに襲われた日より一週間が経過した。
あの後の処理は、比較的スムーズに終わった。
まず、ダンたち三人の口止め。オレたちに命を助けられたこともあって、二つ返事で了承してくれた。
ただ、光魔法を使ったカロンの身元は、さすがにバレてしまった。だから、人目の届かない場所で【偽装】を解いて事情を説明しつつ、今まで騙していたことを謝罪した。
この時ばかりは、多少緊張した。必要だったとはいえ、ダンたちを騙していたのは事実のため、許されない可能性が大いにあったから。カロンの緊張はオレ以上だっただろう。
幸い、彼らはオレたちを許してくれた。というより、気にしていなかった。貴族の友だちとか凄い! なんて喜んでいたくらいだ。ダンたちがカロンの初めての友だちで、本当に良かったと思う。
光魔法の希少性は耳にタコができるほど教え込んだので、ちょっとやそっとでは吹聴しないはず。ダンとミリアに至っては、「光魔法」って呟くだけで顔色を青くするくらい追い込んだし。
ターラの心配はしていない。彼女は年上の二人よりも信頼が高いもの。
次にチンピラたちだが、街の衛兵に引き渡した――なんてことはない。カロンが光魔法を行使した以上、事件そのものを有耶無耶にした方が安心できる。
そのため、連中はオレが拘束した。シオンに手伝ってもらい、今も領城の地下牢に縛られている。
このことを知るのは、オレとシオンだけだ。他の面々には衛兵に渡したと伝えているし、城の者はチンピラの存在自体を認知していない。
というのも、チンピラたちを実験台にしようと考えたんだ。
知っての通り、オレは精神魔法を切り札の一つとしている。だが、強化ならまだしも、他者へ悪影響を与える弱体の類は未開発に近かった。効果が不透明の代物を、安易に他者へ施すわけにはいかなかったゆえに。
そんなところに転がり込んできたのがチンピラ。尋問した結果、彼らは子どもの誘拐や窃盗、殺人など、色々罪を犯していたようなので、実験台にするには持ってこいだった。領内の法律を参照すると結局は死刑だったし、せっかくだから有効活用したい。
人道的には間違っているだろうが、オレの優先はカロンの生存。それを達成する力を手に入れるためなら、多少の悪事には手を染める所存だ。
まぁ、そこまでマッドなことをする予定はない。あくまで最悪の場合に備えた実験であって、理論上は問題ないんだ。全部上手くいけば、おそらく死刑になるよりはマシな扱いになると思う、たぶん。
実際、この一週間内に異常は起こっていない。予想以上の弱体効果が発生したりはしたが、命や精神に別状はなかった。大丈夫だ、うん。
そういうわけで、先の一件は、完全に闇に葬られた。
――と考えていたんだが、事態は面倒な方向に転がってしまった。それを知ったのは、つい先程のこと。
「地下で捕えておられる連中を捜している賊が、街中に出没しているようです」
シオンの報告によると、賊というのは我がフォラナーダ領と隣の領の境で活動をしている盗賊らしく、地下の連中は盗賊の下っ端だったというんだ。
考えてみれば、死刑になるほどの罪を重ねておいて、今まで衛兵に捕まらなかったのは妙だった。衛兵以上のレベル――だいたい25以上あるなら別だが、奴らはレベル20程度のオレにも負けるくらい弱い。
なるほど、盗賊の後ろ盾があったのなら納得できる。普段は、街より大きく離れたアジトにて潜伏していたんだろう。
……いや、待て。
「尋問で、その辺は聞き出せてなかったのか?」
奴らの余罪を問い詰める際、盗賊関連の話は聞けなかったのか?
そう疑問を呈すると、シオンはあっさり返した。
「聞き出せてはいましたが、必要性の低い情報だと判断しておりました」
「はぁ?」
素っ頓狂な声が漏れる。
どう考えても、あらかじめ対処すべき案件だ。それを必要性が低いとは、どういう了見だろうか。
オレの内心を悟ってか、彼女は淡々と続ける。
「連中は盗賊でも下っ端です。そのような者が行方不明になったところで、誰も気にせず捨て置くと踏んでおりました。また、盗賊の情報を渡したところで、ゼクスさまは特に行動を起こさないとも」
「むぅ」
オレは唸る。
普通、レベル15前後の下っ端が行方不明になったくらいで、遠い領境で活動する連中がわざわざ捜しに来るとは考えない。それに、オレが盗賊のことを知ったところで、何も打って出ないのは正しかった。
正確には、打って出られない、か。現時点のオレに権力は一切ない。ただのフォラナーダ伯爵の息子というだけ。盗賊の討伐隊を編成するなんて、夢のまた夢だ。
確かに、シオンの言は一理あった。
だが、それを許容するのは難しかった。
「今後は、オレに関係なさそうでも、重要な情報は伝えるように。命令だ」
関係ないと捨て置いた情報が思わぬ伏線だった、なんて展開は割りと起こり得る。一から十まで伝えろとは言わないけど、せめて重要度の高いモノは知っておきたかった。
「承知いたしました」
「では、出るか」
「……?」
シオンが首肯したのを認めてから、オレは座っていた椅子から立ち上がる。
それを見て、シオンは怪訝な様子で首を傾げた。これからオレが何をするのか、心の底から理解していない模様。
話の流れから分かって良いものだけど……まぁ、仕方ないのかもしれない。今のオレは、ただの五歳児――先日誕生日を迎えた――だからなぁ。
オレは内心で溜息を吐きつつ、シオンに告げる。
「盗賊狩りに行くぞ」
「………………………………ええええええええええええええ!?」
たっぷり間を置いた後、彼女の音程を外した声が部屋中に木霊した。
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