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Chapter000 Prologue

新連載始めました、前作とは異なる作風でお送りしていきます。

あらすじにもある通り、拙作は悪役令嬢モノの皮をかぶった何かです。主人公が乙女ゲーム要素を粉砕していくので、悪しからずよろしくお願いいします。



本日は5話まで投稿予定で、18:00頃に4、5話を上げます。

 五十畳以上はあるだろう広々とした部屋。一流の職人が作成した鮮やかな絨毯が敷かれ、たくさんの玩具が転がる場所。子供部屋と言うには些か広すぎるそこに、二人の赤子がいた。


 一人は白髪に薄紫の瞳を持った少年。この手記の語り手たるオレ、ゼクス・レヴィト・ユ・サン・フォラナーダだ。もうすぐ二歳になる。


 もう一人は妹のカロライン・フラメール・ユ・サリ・フォラナーダ。黄金の髪と真紅の眼をした女の子。つい先日、一歳の誕生日を迎えた。


 両親に宛がわれた広すぎる子供部屋で、オレたちは一緒に遊んでいる。大量のオモチャが用意されているから退屈はしない。だが、大人が誰も傍にいないのは如何(いかが)なものか。オレはともかく、妹に万が一があってはこと(・・)だろうに。


 内心で嘆息しつつ、妹の相手を務める。


 といっても、嫌々ではない。何となくヤレヤレ系主人公を気取ってみたが、オレは彼女とすごす時間が大好きだった。


「にぃ、にぃ!」


 花咲くような無邪気な笑みを浮かべ、一生懸命に(にぃ)を呼ぶ姿。これを見て、心を打たれないものはいるだろうか。いや、いない!


 妹の愛らしさに内心で身もだえながら、尊敬できる兄としての爽やかな笑顔を取り繕う。


「どーしたの、カロン」


 自らの舌ったらずな口を動かして妹の愛称を呼ぶと、彼女はたいそう嬉しそうに笑った。オレに名前を呼ばれたのが喜ばしくて仕方ない様子。写真に収めたいほど可愛い。


「こ()!」


 ひとしきり笑った後、カロンは思い出したように、手にした玩具の積み木を突き出してきた。彼女の紅い瞳は、期待でキラキラと輝いている。


 幼子らしい言葉足らずの要求だったけど、オレは何を求められているか理解できた。以心伝心……と言いたいところだが、単純に同じ状況を何度も経験していたにすぎない。


「まかせろ!」


 自信満々に答えると、周辺に散らばっていた積み木を掻き集め、オブジェを組み上げていく。


 前に“東京タワーもどき”を作って以来、カロンは毎日「何か作って」とお願いしてくるようになった。カワイイ妹の頼みとあれば断る理由はなく、オレは毎度それに応えている。


 程なくして、オレの創作活動は終わる。


 ジャジャーンと自ら効果音を口にし、カロンへ作品をお披露目した。


「こんかいは和風(わふー)にせめてみた。大阪城(おーさかじょー)だぞ!」


「すごい、すごい! わふー!」


 子供の作った出来損ないの城だが、カロンは大はしゃぎで喜んでくれた。「わふー、わふー」と繰り返す様子は本当に可愛い。思わず頬が緩んでしまう。


 その後も、テンション高い妹に付き添って遊ぶ。


 そうしていくうちに、疲れ果てたカロンは、うつらうつら船を漕ぎ始めた。


「カロン、おねむ?」


 オレがそう尋ねると、彼女は眠そうな表情でコクリと頷いた。


「じゃあ、おとなを呼ぼっか」


 室内にはオレたち二人しかいないが、何も完全に放置されているわけではない。扉のすぐ外には、何人かの使用人が待機していた。


 彼らを呼ぶために立ち上がったところ、ギュッと服の袖が引っ張られる。言うまでもなく、カロンの仕業だった。


 振り返ると、彼女は無言で両腕を広げている。


 これは抱き締めてほしいという合図だ。眠る前にハグし合うのが、オレたち兄妹の恒例になっていた。


 彼女の小さな体を抱き締める。赤子らしい温かく柔らかな体躯を、壊れない程度に精いっぱい抱く。


 しばらく抱擁し合っていると、カロンの腕から力が抜け、規則正しい寝息が聞こえ始めた。夢の世界へ旅立ったらしい。


 オレは彼女が起きないよう細心の注意を払いながら、優しく横に寝かせる。豊かな金髪に、白磁の如き白い肌。桜色の唇をムニムニと()む姿は、可愛さが天元突破していた。まさに、地上に舞い降りた天使のようだった。


 そんなカロンの寝顔を眺めながら思う。


 こんなにも愛くるしい彼女が非業の死を遂げる運命にあるだなんて、なんて世界は残酷なのかと。

 

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あ~妹欲しい
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