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魔法の石フーラス  作者: 春野 悠
第1章 手紙にかけられた魔法
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手紙にかけられた魔法 2

 夢の中の彼は、ベルナールから大切な何かを受け取っている様子だった。小さいそれが何なのかシルマにはいつもわからない。夢はすぐに場面が切り替わってしまうからだった。

 大きな邸にいたかと思えば、今度はあっという間に広い芝生の上だった。芝生の間の細い砂利道を、主人公の彼が歩いている。その歩幅はつい先ほどまで出ていた彼よりも大きく、背丈も体つきもすっかり大人になっているようだった。同じ人物だとわかったのは、さらりとした焦げ茶色の髪と、やっぱり顔を隠す黒い幕があったから。かもす雰囲気も同じ人に間違いない。

 砂利道の先、門に立つ兵士たちに何やら声をかけたらしい彼は、その場を離れていった兵士たちの姿が見えなくなると、門の向こうに顔を向けた。そこにはいつの間にか背の高い黒い服の男がいて、彼とその男は魔法のような光を放って攻撃し合うのだった。男が放つ真っ赤な光を真っ向から浴びた彼は、最後、目も眩むほどの強い光に包まれて、夢はあっけなく終わる。

 その光があまりにも真っ白で、シルマはそこでどうしても目が覚める。目が覚めるのは、いつも決まって侍女がシルマを起こしにくる直前。いくら朝に弱いシルマでも、夢を見た日ばかりは侍女のやかましい声を聞かずに済むのだから、その点では夢を見るのも悪くはなかった。――あの光だけは勘弁してもらいたいけれど。

 今朝はまだ侍女のエルメスがやって来ない。シルマは素足で窓枠に手をついていた。今日のコレット教授の授業はなんだったかしら。授業中は何のことを考えて過ごそう。

 扉をノックする音が聞こえたから、これはきっとエルメスだ。ノックの仕方が気に入らないから、シルマは構わず窓の外を向く。目のチカチカはまだ消えていない。

「起きていらっしゃるじゃありませんか。今扉を叩いたんですけれど?」

 部屋を覗いたエルメスは、いやみったらしく言った。

 シルマ専属の侍女は三人いるが、中でもこのエルメスがシルマは特に気に入らなかった。年齢はシルマよりも二、三上。

 シルマは金色に近い黄土色の波打つような髪をしている。整った顔は血色の良い白色で、澄んだブルーの瞳を持っていた。動き回ることが好きなので、全体的には健康的な容姿をしている。

 対するエルメスもまた、シルマに劣らずの美貌の持ち主だ。質素な服でもその美しさは劣ることなく、結った髪を覆う頭巾から見えるくせのない金髪は、城の中のどの使用人よりもきれいな色をしている。薄化粧でさえも、彼女をより一層輝かすための材料だった。貴族の出で、噂ではその美しさに惹かれ、多くの男性から求婚を迫られていると聞く。

 彼女は美しさの一方で、気の強さも持ち合わせていた。一度こうと決めれば意地でも他の意見は耳にかさない。気に入らないと不機嫌をアピールしてみせたり、人によって態度がころころ変わったり。多少、自分と似ているところがあると自覚せざるを得ないくらいには、シルマとは何度も衝突していた。だから余計に気に入らないのかもしれない。まるで自分の欠点を見ているようだったから。

 もっとも、シルマには友達と呼べる人なんて、城の中にも外にもいないのだけど。

 今朝もエルメスは、やたらと不機嫌な顔で寝巻姿のシルマを上から下までまじまじと見た。中途半端に開けられたカーテンを見て、「またそんな格好で……」と小言を言う。

「すぐそこにグラントさんがいるというのに」

 グラントは、庭師のことだ。

「グラントはいつも土いじりしてるんだから、上なんか見ないわよ」

 エルメスは華麗に無視を決め込んだ。それも日常茶飯事のことだから、シルマも何も言わない。

 チカチカに耐えきれなくてとうとう目を擦ってしまうと、ちらとその様子を見たエルメスが言ったのは「早く顔を洗ってくださいませ」の一言だった。

 なんだか今日のエルメスは一段と不機嫌のようだ。大きなため息を聞かせてやろうと考えもしたけれど、朝から喧嘩になるのもたまったものではない。シルマはただ黙って洗面台へと向かった。

 すかさずエルメスは、ベッドのシーツをはがして、くるくるっと丸めて脇に抱えると、廊下に出てボックスにシーツを投げた。それからやけに靴音を立てながら部屋に戻ってきて、シルマに白いタオルを突き出す。

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