旅人の手記・2
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◇ 2.レギデア平原 夜
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招宴の月・9日。
狼の唸り声で目が冷めた。
叱りつけて追い払ってやればいいものを、御者のやつ、怯えて縮こまっていやがる。
まったく。立派な鞭が泣いてるぜ。
ヒトは馬車に隠れていられるからまだいい。可哀想なのは馬だ。
不甲斐ない飼い主に昼も夜もなく働かされた挙げ句、縄で繋がれて逃げ場もないまま喰い殺されるなんて。
最悪の一生だね。
待ってろよ、囚われのお姫様。
王子様が助けてやるからな。
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◇ 2-1.レギデア平原 夜
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やばい
つよい
まけ
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◇ 2-2.レギデア平原 夜
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新暦551年 歓待の月 9 晴 登日 02:27
ジ・グムス金獅子隊第三十六中隊大尉 ティリシアーナ・ドロウ・メンツィラヴ 著
レギデア平原東16区を警邏中、夜狼の群れと戦闘状態にある少年に遭遇。これを援護。
エルフの羽根矢3本を使用し、夜狼3頭を射殺。次いで少年と格闘中の狼を背後から奇襲。斬殺。刃こぼれ無し。
戦闘時間約2分。脅威度低。警備強化の必要無し。
彼我の毀傷。
彼:夜狼5頭死亡。1頭右前腕喪失。
我:少年の全身に引っかき傷。口内から軽い出血。格闘中に互いを噛み合った様子。感染症の恐れあり。
要望があり、報告書の一部を少年の日記に複写。これを馬車保護の恩賞とする。
……いや。恩賞を授かるべきなのはこの少年ではなく、むしろ私のほう……
止そう。一兵卒に詮索は不要。慎んで口を噤む。
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◇ 2-3.レギデア平原 朝
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昨日はヒドい目にあった。
傷がかゆいぜ。
敵陣に威勢よく突っ込んではエルフの部下に助けられる王子様。マジなさけねー。めっちゃ恥ずかしー。
やっぱ宝剣を売ったのはマズかったな。
今からでも買い戻せねぇかな。
無理かな。
無理だな。
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◇ 2-4.旅籠屋『雄鶏』
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馬車の旅は素晴らしい。
乗り始めの1時間は流れる景色を楽しめるし、残りの時間は無実の身ながら囚人の気持ちを体感できる。
そして、馬車を降りた時のこの開放感。吸い慣れた空気が愛おしい。
自由の味を知りたい奴は駅馬車に乗ると良い。
味といえば、ここの鶏料理は野趣が強くて辛味のある、良い味をしていた。
酒の肴にピッタリだ。
鶏肉と香辛料を分けてもらったから、次の夕飯で再現してみよう。
星空の下、キャンプを張り、肉を焼いて酒を飲む。
うーん。最高。まさに「ザ・旅人」。
昔からこういうのに憧れてたんだよなぁ、俺。
明日の晩が楽しみだ。