旅人の手記・1
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◇ 0.小舟の上
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招宴の月・7日。
酒に溺れて欄干から転げ落ちたら、財布と一緒にミドルネームまで失くしてしまった。
涙声の門番が言うには俺は勘当されたらしい。まったく。ワイングラスの代わりに聖杯を使ったぐらいで怒り過ぎなんだよ。
しばらく頭を冷やしてこい、とも言伝されたが、構うもんか。家なんて捨ててやる。前から旅人にも興味があったんだ。この国を出て次元境の先まで行ってやる。
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◇ 1.城下町
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招宴の月・8日。
肩書きが邪魔だ!
人だかりは出来るわ、店員は怯えるわ、警備はいちいち捕まえに来るわ、もう沢山だ。
昨日、震えながら小舟の上で寝ていた方がまだ快適だった。胸のジャラジャラも背中のマントも腰の宝剣もみんな俺の邪魔をする。
マジで邪魔だ。
うっとうしい。
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◇ 1-1.城下町のバザール
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いえーい。
俺いまパンツ一丁だぜ。
春風がめっちゃ気持ちいい。
最っ高。
次は髪を切ってきます。
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◇ 1-2.城門前
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宝剣は残しておくべきだったかもしれない。
安物のロングソードは地味に重い。それに柄が太くて握りづらい。それにそれに重心が外にズレているようで、振ったときもしっくりこない。大きな水袋を振り回しているみたいだ。
武器の習熟度ってのは教科書の中だけの概念じゃなかったんだなぁ。俺、ずっとアレだけ差してたから分からなかったよ。
旅の準備はつつがなく終わった。
といっても、大したことはしていないが。
城下町の専門店で旅装備一式を買う。隣のスーパーで食料を買う。終わり。
便利な世の中だ。
平原を東に突っ切って山を越えれば次元境に着く。さらば、クソ実家!
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◇ 1-3.レギデア平原
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平原横断には駅馬車を使うことにした。
うざったい連中から逃げるための変装だったが、いやぁ、これはやばい。ハマりそうだ。
狭い馬車の中、他の客に混じって世間話をしているとなんか興奮してくる。
特に王室の話とかされると超やばい。本人ここに居るのに。めっちゃ色々言われる。たのしすぎる。
口撃が生ぬるいときは自分からきわどい話題を出しちゃう。やばい。死罪。
昔話のなかに庶民の格好をして人々を救う王様の話があったが、あれは正義の話じゃなかったんだな。
覗き魔気分で庶民に混じるあんたのフェティシズム、分かるぜ。