レッツゴー異世界
此処はとある高校。
偏差値はそこそこ高く、設備もしっかりしている高校だ。
キーンコーンカーンコーン
チャイムがなる。
授業の終わりを意味するチャイムだ。
「今日はここまでだ復習しとくように。」
黒板前に立っていた教師は荷物をまとめ、教室を跡にした。
すると生徒たちが一斉に騒がしくなる。
「今日どっか行こうぜ。」
「いいね!カラオケなんてどう?」
なんて如何にも高校生といった会話が聞こえてくる。
その中誰とも関わらず一人で机に突っ伏している少年がいた。
「あー…ねむてぇ…」
ぐったりとした様子で目の下にクマを作っているこの少年は井川海斗。
見た目は特に優れていることもなく身長も中の上くらいの普通の高校生だ。
「あー…昨日レベル上げで徹夜するんじゃなかった…」
前言撤回。
海斗はゲーマーとオタクを両立しているインドアの人間だ。
そんな海斗に友達などできるはずなく見てのとうり、ボッチだ。
海斗が机に突っ伏していると背中にトントンとノックがあった。
「今入ってまーす。」
「あんたは今どこに居るつもりなのよ。」
海斗が顔を上げるとそこには金髪ツインテールといったラノベやアニメなどでよくありそうな小柄な少女が立っていた。
この少女は幸崎霧葉。
海斗の幼なじみで学校内では唯一話すことのできる人間だ。
「帰るわよ。」
「おう…」
海斗は目を擦りながら立ち上がった。
「ただいまー…」
「お邪魔します。」
海斗は家に着き、玄関を開けるなりだるそうな声で帰宅したことを知らせると颯爽と二階の自分の部屋へ向かった。
ちなみに霧葉は家に帰りたくないといった理由で学校帰りに直で海斗の家に来た。
霧葉の家はかなり厳しく家に居ると勉強しろと両親がうるさいのでよく海斗の家に来る。
自分の部屋に入った海斗は真っ先にベッドにダイブした。
「本当にだらしないわね…」
霧葉が呆れた様子で言う。
そして海斗が寝てるベッドの空いている部分に座り本を読み始めた。
表紙には『Reゼロから始まる○世界生活』と書かれてある。
いやラノベじゃねーか。
「…」
「…」
途端に沈黙が流れ、気まずい雰囲気になる。
すると不意にドアが開き、一人の女性が入ってきた。
「霧葉ちゃん今日もご飯食べていきなよ。」
「おい母さんノックはしろって。」
母さんと呼ばれたこの女性は海斗の実の母親に値する。
「あらごめんない。そうよね思春期だもの邪魔してごめんなさい。」
といたずら染みた笑みを浮かべる。
霧葉が頬を真っ赤に染めあたふたしている。
アニメやマンガだったら頭から煙が吹き出しているだろう。
「ちげえよ!礼儀だ礼儀!」
海斗がそう叫ぶと母さんは「うふふ」と笑い再び霧葉に視線を向けた。
「で、食べてくでしょ?」
母さんが言うと霧葉は「はっ!」と我に帰ったような反応をした。
「は、はい!お願いします!」
「オッケー。ベッドは壊さないでねー。」
そう言うと母さんは部屋から出ていった。
海斗は疲れたようにため息を着いた。
「ったく家の母親と来たらいつもこうだ。お前も全然言い返していいんだぞ。」
そう言い霧葉の方を向くと頬を真っ赤に染めうつ向いている霧葉が視界に入った。
「何お前意識してんのか?」
「そ、そんなわけないでしょ!」
霧葉が大声をあげる。
「いやだってお前、顔が…」
と言いかけた瞬間。
「うっさいバカ!」
「ごふっ!」
霧葉に腹を殴られた。
それも綺麗な右ストレートで。
霧葉が「ふんっ」とそっぽをむいてしまう。
海斗がもがき苦しんでいると霧葉が「ん?」と疑問に満ちた声をあげ、ベッドと壁の間に細い腕を突っ込んだ。
そして少しまさぐってから手をあげた。
「なにこれ?」
「あ?」
霧葉が持っているものはボロボロの紙に魔方陣のようなものが描かれたものだった。
「あんたってこう言う自作趣味無かったんじゃないの?」
「いや俺じゃねーよ。てかなんだこれ。」
海斗は中二病を拗らせていたが精々言動やら仕草のみでこういった類いのものには手を出した覚えがなかった。
海斗が手に取り眺めてみるがやはり心当たりがない。
「よくわかんね。」
そう言いゴミ箱に投げ入れようとした瞬間、魔方陣の書かれた紙が光出した。
「うわ!」
「きゃ!」
二人揃って声をあげる。
「なんだこれ…どういう仕掛けだ?」
「え?これ仕掛けなの?」
海斗は二次オタではあるものの二次元と三次元の区別くらいはつけれる人間だ。
「二次元だったら悪魔とか出てきそうだけどな。」
紙を裏返したりして仕掛けを探してみる。
だがそれっぽいものは何も見つからなかった。
「うお!」
すると突如光が一層強くなり目を開けているのも困難な状況に陥った。
かろうじて片目を少しだけ開き紙を見てみると魔方陣は赤くなっていた。
それを視認したのちに海斗の意識は途絶えた。
「ん…ん?」
海斗が意識を覚醒させ第一にわかったことが自分が立っていること、そして目を開き二つ目にわかったことが、自分が全く知らない場所に居ることだった。
「は…?どこだここ?」
目の前には大きな噴水があり回りには家が立ち並んでいる。
間違いなく記憶にはない場所だ。
そして隣には同じことになっていたであろう霧葉がいた。
回りをキョロキョロ見渡している。
「おい霧葉。」
「海斗…?」
「ここどこだ?お前わかるか?」
霧葉が無言でブンブンと首をふる。
そこで海斗は一つの結論にたどり着いた。
ここは夢の中だ、と
夢かどうか確認する方法は昔から決まっている。
それを実行するために霧葉に話しかけた。
「霧葉。俺を殴ってくれ。」
そう言うと霧葉は顔を青く染めた。
「え…?海斗ってMだったの…?」
とんでもない誤解を招いてしまったようだ。
「ちげえよ!ここが夢の中かどうかの確認だ。」
霧葉がなるほどといった様子で拳を構える。
「さあ来い!」
夢なら痛みを感じないはずだ。
霧葉が思いっきり海斗の腹を目掛けて拳を飛ばしてくる。
「ぐえっ!」
痛い。
海斗は衝撃で後方へ吹き飛び仰向けに倒れた。
「なんでお前は毎回腹なんだ…」
海斗が腹を押されながら言う。
「で、どうなの?痛そうだけど。」
霧葉の言葉を聞き海斗は「はっ!」と思い出すように反応した。
「痛い。めっちゃ痛い…ってことは夢じゃないのか?」
と、そこで自分の視界の右下に大分リアルな蟻のマークのアイコンがあることに気づいた。
「なんだこれ…」
それを触ろうとした瞬間頭に声が響いてきた。
『異世界へようこそ。』
「……は?異世界?」
「え?どういうこと?」
霧葉も聞こえたらしい。
二人は動揺し状況を理解できなかった。
『あなたたちは異世界へ召喚されました。』
「…」
「…」
しばらくの沈黙が続く。
そして二人は大きく息を吸った。
「はぁぁぁぁ!?」
「えぇぇぇぇ!?」
なんとも露骨すぎる異世界召喚だった。