〈灰色〉の世界(1)
〈灰色〉にとって世界は、優しいものではなかった。
両親が生きていた頃は、世界がどんな姿をしているかなど、想像したこともなかっただろう。人のいい両親達と共に、晴れ渡った昼空の陽射しのような、平凡で温かい日々を当たり前のように過ごしていたはずだ。
そんな幼い思い出すらも、今では霞んでしまった。
両親が殺され、魔法使いと名乗る達の中に取り込まれ、〈灰色〉という名を与えられてから知った外の世界は、息がつまりそうだった。
現実の魔法使いは、物語で語られるような善人でもなければ、悪人でもなかった。魔法という力に縋る、ただの『人間』だった。魔法という特別な力を持つ自分達は、いずれ大勢の人々から必要とされる存在になると盲信し、魔法使いを受け入れない人達に敵意を向ける、ただの弱い人間の集まりでしかなかった。
村を襲撃し、両親を殺したのが、自分達を救ったように振舞っていた魔法使い達だと知った時も、彼らの皆殺しを望むほどの怒りこそあったが、大して驚きはしなかった。
生かされたのは、利用価値があったからで、魔法を扱う才がなかったら両親同様に殺されていただろう。従わなければ食事を抜かれ、殴られることもしばしばあった。気絶するほど殴られたことも、数えるのも嫌になるほどあった。犯されなかったのは、魔法使いが処女であることの神聖性を重視していたから、運が良かっただけである。
逃げ出すことも何度も考えてきた。だが、考えても、考えても、魔法使い達から逃げたところで、自分は生き延びる術を持っていない、大人達に頼らざるを得ない弱い子供だと、思い知らされるだけだった。
手を差し伸べてくれた人も、いなかったわけではない。縫い物や料理の仕方、簡単な医術から野草のことまで教えてくれた者もいたが、いずれの人々も、〈灰色〉の側から離れていった。ただ一人を除いては――




