表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陽だまりに月  作者: 長菊月
怪物と英雄と弱者と
75/84

灰色の少女(6)

「……生きたいのだな、お前は」

「生きたい……? いえ、私は――私は、どうして生きているんだ?」

「〈灰色〉?」

「私は何を……ねえ――」

 〈灰色〉は何かを言いかけると、〈男〉を見ていた目を大きく見開いた。まるで何か、信じられないものを目の当たりにしたかのように、開いた口を閉じることもせず、呆然と〈男〉の方へと顔を向けていた。その目が何を見ているのか〈男〉には、わからない。ただ、〈灰色〉が、目の目前にいる自分ではなく、別の『誰か』もしくは『何か』を求めていることは明らかだ。

 〈男〉は再び〈灰色〉に声をかけようかとしたが、〈灰色〉は蜜色の双眸を瞬かせ、急に深々と頭を下げてきた。

「すみません! 喋りすぎました!」

 勢いのある謝罪の言葉に、今度は〈男〉が面食らった。〈灰色〉が誰に何を謝っているのか、〈男〉には見当もつかなかったからだ。顔を上げろと言うものの、〈灰色〉は何をどう思ったのか、無言で既に冷めきった昼食を口の中に懸命に放り込み始めた。

〈男〉も茶を飲み干すと、〈灰色〉に問いかけた。

「……お前は、これからどうする気だ?」

「どうする気とは、どういうことでしょうか?」

「俺を守ると言ったが、いつまで、どこまでついてくる気だ?」

「あなたの安全が確保されるまでです」

 皿に残った最後の肉の一欠片を飲み込んで、〈灰色〉は〈男〉の目を見て真っ直ぐに答えた。〈男〉を守るのがまるで自分の使命であるかのように、先ほど見せた揺らぎも、何事もなかったように消え去っている。

 〈男〉は溜息が洩れそうになるのを堪え、飲み込んだ。〈灰色〉が悪いわけではなく、彼女は今も操られているだけだと自分に言い聞かせなければ、嫌味の一つでも零さずにはいられないからだ。

 〈男〉は、〈灰色〉のような小娘に、守られるほど弱くなったつもりはない。腹の傷が開こうと、見ず知らずの子供に守られる気は、〈男〉にはなかった。

 〈灰色〉も、馴染のない町で、よく知りもしない男を守って生きていく必要など何処にもない。こんな茶番に、いつまで付き合わされるのか、苛立ちを内に隠し、〈男〉は〈灰色〉の言葉を受け入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ