灰色の少女(5)
〈灰色〉と過ごして数日が経った。
〈灰色〉という少女は、〈男〉が今まで出会った人間とは違う人間であった。
真面目で勤勉で、町で自ら仕事を探し駆け回り、お使いから、洗濯や裁縫、調理の手伝いに店番まで、あらゆる仕事を自ら引き受けては、手先が器用で、よく気が利く娘だと、町の者達からも褒められ、〈男〉の知らぬ間に町へと馴染んでいった。
子供が好きなのか、手が空けば子供を集め、得意の人形劇をみせては、菓子を餌に、文字や計算を教えていた。
餓える者がいれば食べ物を分け与え、夜の寒さに耐える者達には布をかき集めては寝床に使わせ、怪我をした者、腹を下した者などには無償で治療を施し、死体を見つければ丁寧に埋葬していた。
「何故、そこまでするのか」と、〈男〉がふと、食事の席で尋ねると、〈灰色〉は食べる手を止め、〈男〉を見た。
「死者が町に溢れれば、疫病を招きかねません。ご迷惑と思われるようでしたら、申し訳ないのですが、必要な行為だと思って行っていますので、どうか続けさせてください」
「いや、やめろと言うつもりはない。ただ、何故、そこまでするのか聞きたかっただけだ」
己の行動を咎められると思ったのか、とりすがるような堅い声に、〈男〉が「落ち着け」と返すと、〈灰色〉は顔を赤くしながら縮こまっていった。
「あ、あの、餓えや寒さに蹲ってしまう人の気持ちは、私にもわかりますので……例え一時の施しになろうと、今日を生き延びることができれば、次は立ち上がって、逃げることもできるようになるかもしれないじゃないですか」
「逃げる? 生きる為にか?」
〈男〉の問いかけに、〈灰色〉は控えめに頷いた。
生き延びる為に『逃げる』という選択は〈男〉にも理解できた。だが、この町の中で、何処に逃げると言うのだろうか。この町で死を迎える者の多くは、他に行き場のない者ばかりだ。自ら望んでやって来た者よりも、逃げ場を失くして、この町に辿り着くような連中ばかりだ。生きる為に立ち上がっても、何処にも逃げることは出来ない、逃げられる場所もない。
故に、うずくまることしか出来なくなれば、皆、死を覚悟する。例え再び立ち上がれるようになっても、他者を蹴落とし生き延びようとするだけだった。
逃げることを考えられるのも、逃げたいと思えるのも、〈灰色〉には、生きていける場所があるのだろう。