二人の少女(3)
〈少女〉は辺りを見回すと、「話せ」と一言だけ放った。
「殺人事件が起きた」
「これでもう五件目だ。男も女も、年寄りだろうと関係ない。狙われてないのは子供だけだ」
「それもこれも、余所者が森のバケモノに手を出したからだ。あの頃から死体が出始めた」
「……」
集まった者達は、一人も重なることもなく順番に答えていった。
しかし、誰一人、〈少女〉に顔を向けてはいない。〈少女〉も、答える者達のことを気にするそぶりも見せず、集まった者達の中で、何者かを見ているようだった。
「この娘は?」
「派遣された魔法使いだ」
「森にいるバケモノ対策の為に雇われた」
「それで、何故、この娘に不満をぶつける?」
「役に立たないからだ」「町の者を守れなかった」「高い金を払っているのに仕事も出来ない」「何の為にいるのか」
口々に愚痴が出てくるが、先ほどまでとはうって変わって、声に感情が篭っていない。坦々と言葉だけを発している。
責められている娘の方は、〈男〉の位置からは見えなかったが、今は、何を言われても、他の者と同じように生気のない顔をしているのだろう。
「魔法使いの方から、この娘を寄越してきた」
「魔法使いどもとは契約を交わしたが、あんな子供、我々が選んだわけではない。向こうから送り込まれて来たのが、役立たずの子供だった」
「じゃが、殺したのは、この娘ではなかろう?」
「雇うのに、既に大金を払っている」
「町を守る為に雇ったんだ、話が違う」
「事件を止められず、成果も出せていない。俺達が集めた金は無駄になった」
「……」
町を守る為に雇った筈の魔法使いが、役に立たない子供だった、抑揚のない声で語られる言葉の端々には、やりきれない怒りが染みこんでいた。
実際に、この町に来た時にも、〈少女〉は魔法使いの施した仕掛けに気づいたが、効果はないと言っていた。こんな田舎町では稼ぎも少ないだろうに、大枚をはたいて無駄なものを掴まされたのだ、彼らが、事件を起こした者への怒りを、守れなかった無能へと鋒先を向けるのは、止められることではない。
〈男〉は〈少女〉に目を向けた。本物の森の『バケモノ』は、変わらず一人の娘に目を向けているようだった。
「もうよい。散れ」
〈少女〉がそう言うと、集まっていた者達は散り散りに去っていった。残ったのは〈少女〉と地面に座り込んだ子供だけだった。
〈男〉は二人の傍に近づいた。〈少女〉も今度は何も言わなかった。