怪物と魔法使いの話(7)
事実を、言葉を、ゆっくりと噛み砕きながら飲み込めば、彼らは始祖の血肉を食らった、それだけで、始祖の力と意志を受け継ぎ、生き物ではなくなった。バケモノと呼ばれるものとなったということだ。
それは……彼らは、進んでバケモノになったわけではないというように聞こえた。
「我らは、姿形こそ、生き物と変わらないが、生き物であった過去はない。今も、この姿は、鳥の形を保っているが、鳥としての感情は一切ない。
空を飛ぶことに何も感じず、番を作り繁殖し子孫を残そうとも思わない、翼を伸ばし飛んでいても、鳥のように風を読んでいるわけではなく、飛ぶ意思のみで飛んでいる。鳥の真似事をしているだけにすぎぬ。この姿が地を這う四足の獣であったならば、飛ばずに地を駆けていた。
我らが望んで月の眷属になったのではないかと言っていたな、人間よ。我らがどうして月の眷属になったのか、我ら自身も知ることではない。そのような些細なことは、我らにはどうでもいいことだ。
我らは始祖の意志により存在し、世界から認められぬ者。貴様ら人間の言葉を借りるならば、我らは、自ら死を手放したのではなく、死を拒まれた亡者と呼ぶべき存在だ」
「……お前達が生きようとするのも始祖の意志という奴か?」
「否。始祖の望みは己の存在をこの世から消し去ること。食われ、消えることで、始祖の願いは叶っている。我らの存在は我らのもの。始祖から受け継いだのは、滅びを受け入れること。ただそれだけだ」
「そなたら人間は、我らを永遠に生きるものとして見ているようじゃが、それはちがうぞ。我らは永遠など求めてはおらぬ。我らも、そなたら生き物と同じ、己の存在が跡形もなく消えるのを恐れているだけにすぎん」
「……お前達も、『生きたい』とは、思ってはいないんだな。それなら、どうして、お前達は、始祖の……いや、バケモノの力に手を出したんだ?」
「魅力的だったと言えばいいか。今でこそ、こうして喋れるが、この体は、元はただの鳥だ。目の前の餌が毒かなど、判断することもできなかったのだろう」
「そんなものか……」
〈少女〉も、同じことを言っていた。拒むことが出来なかったと。
『死を望む始祖の呪い』と本能からか『消えたくないと願う月の眷属』、自らの死を望む『〈彼女〉達の意志』、どれも間違いではなく、おかしなことでもない。彼らが人食いのバケモノであることを除けば。
人食いのバケモノである彼らが、生と死の狭間で揺れているなど、奇妙な話だと〈男〉は思っていた。他者の命を奪っても生きる存在が、何故、自らの死を望むのか、答えはとても単純であった。彼らは何も望んではいなかった。
彼らが生きることを望んで、バケモノになったと思いたかったのは、人間の方だった。
恐ろしい怪物は、忌むべきバケモノであると、望んで決めつけて、彼らのことを否定してきた。殺さなければならないものとして、彼らの存在を許されないものとしてきた。
彼らも望んでいなかったのなら、人食いの彼らと人殺しの自分は、どう違うというのだろうか。