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陽だまりに月  作者: 長菊月
怪物と英雄と弱者と
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怪物と魔法使いの話(6)

「我らの始祖を生み出したのが、この世界が生み出した最初の魔法使いだというだけの話じゃよ」

「それは……魔法使いがお前達のような存在を作り出したということか?」

「否。正確には違う。我らは始祖の願いから生まれたが、始祖は魔法使いを名乗る男の呪いによって生み出された。あるべき死を否定した呪いだ」

 『死を否定した呪い』

 〈鳥〉の言葉に、〈男〉の脳裏には、認めがたい事実が浮かんでしまった。月の眷属は、日の光でしか死ぬことができない、不老不死とも言われている。それが、『呪い』であると言うならば、彼らは己の意志で不死を望んだわけではないということなのか。人を喰らう不死のバケモノの正体が『呪い』であったなど、〈男〉は考えたことがなかった――否、考えたくもなかったことだった。

 彼らが、恐れるべきバケモノであることを〈男〉も、心のどこかで望んでいた。彼らが憎むべきバケモノであったなら、恨まれ、殺されることも仕方がないと思いたかった。

「始祖と魔法使いの話が聞きたいのか? ならば、〈鳥〉よ、そなたは始まりより生まれた古き者なのじゃろう。予に代わって、そなたから説明をしてもらえるか?」

 〈少女〉は〈鳥〉の方を見上げ、〈男〉に向かって腕を伸ばした。〈鳥〉は、伸ばされた〈少女〉の腕に跳び移ると、億劫そうに口を開いた。

「始まりは、一人の人間の男であった。『世界』が男に力を与えた。男はその力を使って仲間を増やしていったが、最愛の娘を失って、その娘から死を否定したのだ」

「……その、死を否定された娘というのが、お前達の始祖なのか?」

「そうだ。我らの始祖は人間であった。人間であったが、人間に殺され、嘆き悲しんだ魔法使いによって死を否定された。

 そうして生まれたものが、我らの始祖となった。

 彼の方は、我らとは違う存在であった。陽の光で焼け死ぬこともなく、他者から血を奪う必要もない、我らからすれば、完璧とも思える存在であったが……娘は死を否定された己を受け入れることが出来ず、死を望んだ」

「……」

「しかし、死を否定されたことで、いくら肉体を危険に晒そうと命が尽きることもなく、始祖となった娘は、己の存在を消し去る為に、その身を他の生き物に与えることにしたのだ。何千、何万と、己という存在が消えるまで、細かく細かく、生きたまま食われた。その時、始祖の血肉を食らった者達が、貴様ら人間が月の眷属と呼ぶ者だ。

 我らは始祖の血肉を食らった時から、生き物ではなくなった。始祖の力と意志を受け継ぎ、始祖と同化した新たな存在として生まれ変わった。魔力と始祖の意志により再構築され、生き物ではなくなった」

「……」

 〈鳥〉の声は淡々としていた。事実だけを語っているからだろう。

 それに、〈男〉は何と答えればいいのか、言葉を失った。

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