表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陽だまりに月  作者: 長菊月
怪物と英雄と弱者と
61/84

怪物と魔法使いの話(5)

 少女の声から語られるのは、〈男〉は聞いたこともない物語であった。

 怪物と魔法使いの少年の二人旅の物語、少年がバケモノになった妹を元に戻す旅に出ているようだった。〈男〉は途中から話を聞いたからか、この話にどういった意味があるのか、一切わからなかった。

「おい、あの話に何が――」

「あれは、始祖の話ですね、吸血種様」

 どこからともなく聞き覚えのある男の声が聞こえてきたと思ったら、黒い影が〈男〉の頭上に降り立った。前と変わらず、何かがいる気配はあっても、肝心の、その『何か』の存在を感じない。そこに『いる』筈が『いない』ようにも思えてしまう。

空は、雲に覆われて、町全体が日陰のようになっている場所だが、森の木々のように陽の光を遮るものは少ない。

「……お前達、月の眷属は、太陽で焼け死ぬと聞いていたが、あれは流言か?」

「いいや、予が特別なだけで、他の吸血種なら、この程度の光でも焼け死ぬ。

 そやつら獣種は、魔力が少なく、肉の壁によってその身を守ることが出来るから、昼間でもこのように外を出歩けるのじゃ。ただし、その辺の鳥よりひ弱じゃからな、あまり虐めてやるではないぞ」

 〈少女〉がからかうように〈鳥〉を見上げれば、〈男〉には、〈鳥〉の溜め息が聞こえた気がした。〈男〉には、〈少女〉の説明ではわからなかったが、〈鳥〉は人間に、弱みを握らせたくなどなかったのだろう。

「ところで、先程言っていた『始祖』とは何だ?」

 〈男〉から助け船を出す気はなかったが、気になることもあり、話を逸らした。

 〈少女〉が『あの物語』を指し示したのも、その『始祖』とやらが関わっているからだろう。〈少女〉も紅い目を輝かせ、〈男〉に正解を引き当てたと告げている。

「あれは、我らと魔法使いの始祖の話だ」

「お前達と魔法使いの始祖? お前達、月の眷属が魔法使いとどういう関わりがあるんだ?」

 尋ねてから〈男〉は、自分が魔法使いについて詳しく知らないことに気付いた。

 〈男〉が以前いた町には、魔法使いはおらず、海の向こうには、魔法使いと名乗る呪い師のような者達がいて、迫害を受けえているという噂を聞いたことがあるぐらいの知識しかない。実際に、魔法使いと名乗る者には、会ったことも見たこともなく、自分達のことを特別な力を持つと思い込んだ、信仰的な変わり者集団という風にしか、〈男〉は考えていなかった。

「一つ、聞いてもいいか? 魔法使いと名乗る連中も、お前達と同じバケモノなのか?」

「いいや、魔法使いも、そなたらと同じ人間じゃ」

 〈男〉の問いかけに、〈少女〉は呆れるような目で〈男〉を見返した。彼女達からすれば、魔法使いが人間であることは当たり前の話なのだろう。町に入った時も、〈彼女〉は、魔法使いの施した仕掛けを何の効果もないと言っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ