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陽だまりに月  作者: 長菊月
生き残ったバケモノと生き延びた男
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襲撃の夜(4)

 男の見た目は普通の人間だったが、その身に纏う空気は、何故か、人間よりも獣を彷彿させた。

 前髪だけを目が隠れるほど伸ばした、妙なざんばら髪の奥からは、月の眷属を前にしても、鋭い眼光を感じさせる。相手は動くこともできないと、頭ではわかっていても、目を合わせているだけで背中には痺れるほどの痛みが走る。

 この男は危険だと、少女は即座に判断した。

 だが、次の命令を告げるよりも速く、銀の刃が少女の目の前を横切った。

「なっ……」

 それが自分に向けられた刃なのだと気づいた時には、もう一撃が少女を襲った。

 とっさに後ろに身を引いて避けたが、反応が遅れて鼻の先が切れ、血が流れた。

 この男、相手が子供の姿をしていようと、殺すのに全く躊躇いがない。少し気を緩めただけで、的確に次の一撃を仕掛けてくる。姿を現すなり、急に間合いを詰めてきたことといい、男の反応の速さに、少女は感心した。

 実際に、右から左からと襲ってくる刃を、どうにか避けていくものの、反撃する隙がない。

 手を出せば即座に切り捨てられる。この小さな身体では、一撃でも食らえば致命傷だ。今の状況では、傷を治す前に追い詰められる。

 一方で男も、的が小さく当てにくいのか、舌打ちするのが聞こえたような気がした。

 月の眷属相手に、怯む様子も見せない男に、これまでは考えることもなかった疑問が、不意に湧きあがった。

 刃の触れる距離まで来ているのに、どうして、この男には月の眷属の力が効かないのだ。

 この場所に来るまでは、距離があったから抗えたのかもしれないが、直接、「動くな」と命じられて、動けるはずがない。

 それだけはなく、少女の腕から飛び散る血にも、男は怯まなかった。月の眷属の血は、人間には触れるだけでも毒となるはずだ。現に、血は男の手や、服の切れた場所から、皮膚を焼いているが、男は気にするそぶりも見せなかった。

 男の不可解な様子から、少女の頭の中には徐々に戸惑いが占めだし、判断力を鈍らせた。

「あっ……」

 と、思った時には、死体に足が取られ、上から振り下ろされた刃に、背中から地面に叩きつけられた。

 すぐに上体だけでも起こしたが、その時には既に切っ先が目前に迫っていた。

 刃を携えた男の顔は、前髪が邪魔で表情までは読めなかったが、先ほどから変わらず向けられる鋭い視線は、やはり子供に向けるものではなかった。

「貴様はいったい何者じゃ?」

 怯えてなどいない。そう見せる為にも、少女は男を睨んだ。

 否、睨まなければならなかった。

 少しでも動揺を見せれば、答えの代りに、向けられた刃がこの首を落としかねない、そんな空気を男は静かに纏っている。

「ここに来る前に仲間同士で殺り合っているのを見たが、あれはお前の仕業か?」

「そうじゃ。わざわざ問う必要もなかろう」

 少女が口角を釣り上げ、嘲笑うように見せれば、男の目に鋭さを増した。

「何故、あんなことをした?」

「あんなこと? 予は血を撒いただけじゃ。それで殺し合ったと言うなら、それはそなたら人間の問題じゃ」

 少女は正直に答えたが、男は何も言わなかった。

 だが、口は開かずとも、眉間に寄った眉が、男の感情を物語っていた。

「信じられぬか? じゃが、真のことじゃ。予は幻を見せているだけじゃ。何の幻を見るかはそなたら人間次第、大方、月の眷属の幻でも見て、怯え、浮かれておるのじゃろう」

「その幻はどうすれば消せる?」

「予を脅しても無駄じゃ。この森から血がなくなるまで幻は消えん」

「……そうまでして生きたいか」

 初めて聞く低い声に、少女もまた子供のものとは思えない低い声で笑いだした。

「貴様らこそなんじゃ。この世の理を冒してまで、不変の命が欲しいのか」

「上の考えていることなんぞ、俺は知らん。お前の首を狩れば金が入る。それだけのことだ」

「つまらん奴じゃのう。それでは家畜と変わらんではないか」

「何とでも言え。どうせお前はこのまま死ぬんだ」

 男が吐き捨てるように言えば、少女は本当につまらなさそうな顔で男を見返した。

「……予を殺してどうする? 肉を削いで食らうのか?」

「俺はお前の肉になど興味ない。お前を始末出来ればそれでいい」

「予を……何故だ?」

 想定外の答えに、少女は男を見返した。

 不死に興味がないのなら、何故、自分を殺さなければならない。

 金の為か、憎しみか、その答えが知りたくて、少女は強い思いを込めて男を見た。

 すると、薄い色の瞳が揺れ、唇が僅かに動いた気がした。

 少女も目を開き、耳を澄ましたが、その口が声を発する前に、男が倒れた。

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