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陽だまりに月  作者: 長菊月
怪物と英雄と弱者と
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怪物と魔法使いの話(1)

 『同族喰らいの大食らい』

 〈彼女〉がそのように呼ばれるようになったのは、今よりも遠い遠い昔のことで、まだ世界には多くの人間がいて、町も今とは比べものにならないほど多く、活気づいていたらしい。自然も豊かで、月の眷属や魔法使いの存在は公にはなっておらず、人間同士の小競り合いは絶えなくても、世界を揺るがすような大きな争いはなかったそうだ。

 〈男〉には、想像もつかない時代の話だった。

 〈男〉が外の世界を知った時には、世界も、人々も、戦うことを望んでいた。魔法使いを名乗る者達は、他所では忌み嫌われ、殺されていると耳にした。魔法使い達も殺されまいと立ち上がり、両者は長いこと対立しているらしい。

 〈男〉も実際に争っている所は見たことはないが、傭兵として働けば、戦場の話はいくらでも耳にした。月の眷属の血が求められるのも、その争いが原因らしい。誰がどうして月の眷属の血などという物騒な物を求めるのか、〈男〉は知らない。組織に属することのないしがない傭兵は、金さえ払ってくれれば、依頼の先に何が起きようと知ったことではない。大金が得られるなら、尚更、余計な首は突っ込まない。

 〈男〉は未だに世間のことはよく知らない。けれど、そんな男ですら、仕事にありつけるほど、世界は荒れていることは知っている。いつからそのような状態なのか、〈男〉には見当もつかないが、〈彼女〉の話によれば、争いは長いこと続いているらしい。

 争いのない世界は、月の眷属から見ても、とても穏やかで、外に出たことがなかった〈彼女〉でさえも、思い返してみれば良き時代だと言っていた。

 彼女は、自分を月の眷属にした吸血種が根城にしていた屋敷の地下で、本を読んで過ごしていたらしい。き飽きしていたが、決して嫌いにはなれなかった。月の眷属になったことも、一度も後悔してはいないらしい。

 〈彼女〉が後悔したのはただ一度、燃え盛る屋敷の中で、微笑まれながら差し出された血を口にしてしまったこと。

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