ぬくもりと傷痕(2)
買い物に向かった二人が真っ先に向かったのは、古着も取り扱う仕立て屋だった。
狭い店内には、色とりどりの布が吊るされ、古着の入った籠が山となって積まれていた。ちょっと鼻を利かせれば、少しばかりカビと埃の匂いがする、〈男〉にも馴染のある安い店だ。
〈少女〉は女物の子供服ばかりが入っている籠を漁っては、何枚かの服を取り出していた。どれも色も形もバラバラで、〈男〉にはよくわからないものだった。
「これとこれならば、どちらの方がいいかのう?」
〈少女〉は籠から二枚の服を取り出し、〈男〉の前に広げて見せた。〈男〉には、色と形が違うだけで、どれも同じに思える。
「俺に聞いてどうする。女の服の違いなんぞ、俺にはわからんぞ」
「違いはわからずとも好みはあるじゃろう? 色、形、姿、そなたはどのような格好が好みなのじゃ?」
「……俺に幼児趣味はないぞ」
「ようじしゅみ?」
「ガキが何を着ようと俺には関係ないってことだ。お前の好きな服を選べ」
「……そなたには、まだ予が子供に見えるのか?」
「何言っているんだ。お前はどう見てもまだガキだろうが」
〈男〉の目に映るのは、小首を傾げて〈男〉を見上げる、金髪に大きな紅い瞳の少女だけだ。
子供の姿をしたバケモノだと言うのなら、それはそうかもしれないが、見た目は紅い瞳を除けば、人間の子供と変わらない。
「そうか、そなたの目には、そう映るのか……。ならば、喜べ! 今、この姿は予の仮の姿じゃ。予の『真の姿』は絶世の美女じゃぞ!」
「真の姿? 何にせよ、俺には見えないんだ。聞くだけ無駄だろう」
「それは違うぞ。予はそなたの好みを聞いておるのじゃ。人間の、そなたの好みが聞きたい」
「……聞いてどうする? 俺にはわからんと言った筈だぞ」
「良き、良き。『私』はそなたの話が聞きたいと、既に申した筈じゃが」
〈少女〉は〈男〉の顔を見上げ、楽しそうに笑った。〈男〉には、何が楽しいのか、わからない。
〈彼女〉は、以前、殺風景な部屋の中で、無駄なことは嫌いだと言っていた。
あの時も笑っているように感じたが、今の笑みとはまるで違う。今は心から笑っているのだと笑顔で、〈男〉もつい、頬が緩む。
「お前はよっぽど人間と関わるのが好きなんだな」
「いや? 予は人間のことが嫌いじゃ。関わりたくもない。そなたが特別なだけじゃ」
「それは、俺にはお前の力が効かないからか?」
「それも確かにそうではあるが……そなたは予の話を聞いてくれる」
「話を聞く……そんなことがか?」
「そんなことじゃが、大事な事であろう?」
〈少女〉は口角を吊り上げて、にっと笑って見せた。わかるだろうと、同意を求めた笑顔は、〈男〉には眩しくも感じた。
「お前の仲間は……」
「吸血種は群れるの好まぬ。それに、我らの感覚では何の参考にもならん。ほれ、これなどはどうじゃ?」
今度は黄色い洋服を取り出して、〈少女〉は自分の体に合わせて見せてきた。
似合うとでも言えば満足するかとも思ったが、紅い少女の双眸には、期待ではなく、何かを試すかのような挑発的な光が、〈男〉には見えた。