願いと呪い(6)
「あぁ、吸血種よ、貴女はどうして、あの人間に拘るのですか? 何故ですか?
あの男が貴女に、血以外の何を捧げられましょうか? 何がありましょうか?
答えは簡単、とても簡単。何もあげられない、何も差し出せない。あの男に、貴女の名はつけられない。期待するだけむ――」
女が全てを言い終えぬうちに、首が急に刎ね飛んだ。またも刹那の出来事で、女には何が起きたのかわからなかった。いつの間にか、首が胴から離れていた。
力を失った体が崩れ、首も紅い花畑の中に転がり落ちた。
薄れゆく意識の中で、女は自分の首を刎ねた者の姿を見て、微笑んだ。
「なんと美しいのでしょう……」
窪地の縁には、先ほどまで女と話していた、金髪の人間の少女の姿をしていた者はいなかった。
代わりにいたのは、妖精種が喉から手が出るほど欲しくてたまらない姿をした、一人の〈女〉だった。
漆黒の髪に、星空を纏ったような煌びやかなドレスを纏うしなやかな体、雪のように白く細い腕を伸ばし、紅玉のような双眸は、冷ややかに妖精種を見下していた。
これが、同族を食らい、強大な魔力を得た吸血種。妖精種は首だけになりながらも、再び、感嘆の息を漏らした。
「あぁ、それが、貴女の『真の姿』なのですね」