願いと呪い(4)
「まったく、話の通じぬ奴じゃな。予は貴様に、何をしているのかと聞いた筈じゃ。わかったなら、さっさと答えぬか」
「あらあら、答えて宜しいのですか? 宜しいのですか? 私は、貴女方が食べ残した死体に手を付けつけているだけですよ。貴女の縄張りを荒らしたつもりなどありません。ありません」
「貴様が死体に手を付けていることはわかっておる。妖精に死体は不要であろう。それを、わざわざ掘り返して何に使うつもりだ?」
妖精種は吸血種のように、死体に乗り移ることはできない。食らうのも、生き物の魔力だけだ。死体などに手を出す必要はないはずだ。
それでも必要とするならば、何か理由がある筈だ。
「貴女には関係のないことです」
女がにっこりと微笑んで答えると、土で汚れた両手が、紅い花畑の中に沈んだ。
切れたのは一瞬のことだった。風も音もなく、切られた気配すら感じさせず、女は自分の両手が地に落ちたのを目にして初めて、両手が切断されたことに気が付いた。
切られた手首からは、生き物のように血は噴出さなかったが、綺麗に切断された断面には、白い煙が上がっている。
何が起きたのかわからないのか、女は呆然と落とされた両手を見つめていた。貼り付いた笑顔も、手首と同時に崩れ落ちたようだった。血の気のない顔が益々白くなり、開けっ放しの口が震えながら、ぼそぼそと何かを呟き出した。
「……これ以上この体に傷をつけないでくれますか。この体は特別なの。そう、特別なの。私たち妖精種が、貴女方のように傷を簡単に直せないことは、賢い吸血種ならご存知のはずですよ。はずですよ」
「傷つけられたくなければ、質問に答えよ。貴様は、そこでいったい何をしている?」
〈少女〉の問いかけに、女はゆっくりと顔を上げた。
その顔には、口角を吊り上げた、気味の悪い笑みが戻っていた。
「私、貴女のことを知っています。知っています。『同族殺しの大食らい』『嫌われ者の大食らい』
だから、貴女は町にはいられない。同胞を食らい、町から追い出され、こんな森の中にいるのでしょ? そうなのでしょ?」
「……」
得意げに語る女に、〈少女〉は眉一つ動かさなかった。紅い瞳はただただ冷たく、女のことを見下していた。