襲撃の夜(1)
人間からバケモノと呼ばれる彼女たちにとって、人間は弱いものであった。
自分たちをバケモノと呼び、怯えて震えることしか出来ない存在、食われる為だけに存在するかのような弱い生き物、人間など大したものではないと、多くのバケモノが思うように、彼女もそう思っていた。
しかし、後悔は後からやって来ることを、彼女はまだ知らなかったのかもしれない。
「何故じゃ、何故こうなるのじゃ!」
水面に映る己の姿を見て、変わり果てた姿に女は嘆き叫んだ。
信じたくなくて、何度も小川に映った己の姿を確認するが、何度見ても、服とは呼べないぼろ布を纏った少女がいるだけで、見慣れた女の姿はなかった。
見た目からして、年は十を過ぎたほどか。長い金髪は伸び放題で櫛を通した印象もなく、小さな体は棒切れかと思うほどがりがりにやせ細っていた。魔力が宿った自慢の真紅の瞳も、子供の大きな目では迫力もない。首におかしな傷があったが、顔は小奇麗にすれば映えそうなことが、せめてもの救いであった
「なんともありえぬ姿になったものだ。誇り高き吸血種ともあろう者が、このようなちんまりとした姿では威厳もないではないか……」
少女の姿になってしまったバケモノは、ため息をつき、辺りを見渡した。
嵐が過ぎ去ったばかりで静けさの際立つ森の中は、いつも以上に暗くかった。
つい先ほどまで、人間達の叫び声でうるさいぐらいであったが、今は葉の擦れる音と風の音しか聞こえない。
しかし、一歩足を進めれば、森を埋め尽くさんばかりの血と死が姿を現した。
今夜は山のように命が捨てられた。
昼間は人間達も近寄らない静かな森が、たった一晩で、死の森としか呼べない場所になってしまうほどだ。
木の幹や枝、葉に至るまで、血がべっとりとついていて、足元には避けて通る方が難しいほどの死体が転がっている。常人ならば、見た瞬間に吐き気をもよおす光景だ。
その中を、少女は血と火薬の臭いが混ざった空気に少しばかりの息苦しさを感じつつも、悠々と歩いていった。
死体のほとんどが銃に撃たれて死んでいたが、その顔は皆、とんでもなく恐ろしいものを見たかのようにひきつらせていた。
恐怖に歪んだ顔を一瞥し、少女は鼻を鳴らした。
馬鹿げた話と思うかもしれないが、これらは全て、一匹の獲物を仕留める為に死んでいったのだ。