殺した男と死を求むバケモノ(15)
「信じられないといった顔だな」
にやりと意地の悪い笑みを浮かべ、〈少女〉は腰に手をやった。紅い瞳を除けば、見た目は人間と変わらない。
「……お前は正真正銘の不老不死なのか?」
「不老ではあるが、不死ではない。『私』も、他の者より丈夫というだけで、太陽の光を克服したわけじゃないからな。平気に見えても、痛みは感じている。当然、日に当たり続ければ死ぬだろう」
「試したことがあるのか?」
「試してみるか?」
そう言って〈少女〉は外套の内側に手を入れて、腰の辺りから布に包まれた何かを取り出した。
〈少女〉が布を解くと、中から大ぶりのナイフが現れた。
襲撃の晩に〈男〉が〈少女〉に向けて投げたナイフだろう。あのまま捨てられたと思っていたから、彼女が持っているとは思わなかった。子供が持つには不釣り合いな大きさと、刃の向けられた方向に〈男〉は眉を寄せた。
「何のつもりだ?」
「『私』のことが信じられないなら、このナイフで殺せばいい。不死でないことを証明するには、傷つけるのが手っ取り早いじゃろう」
〈少女〉は笑うように答えたが、話しながらもずっと、ナイフの刃を自分の体へと向け、柄は〈男〉へと差し出していた。
このまま刃を押し込めば、間違いなく、刃は彼女のか細い体に刺さるだろう。彼女との体格差を考えれば、失敗するとは思えないが、小屋で目を覚まし、〈少女〉の首を絞めた時のことが浮かび、罠である可能性が拭えなかった。
相手は死人のように脈がなく、冷たい身体は、間違いなく人間ではないバケモノのものだ。ナイフ一本で敵う相手とは思えない。
「どうした? そなたは、予を殺すつもりでこの森に来たのではないのか? 予を殺したいなら、今以上の好機はないぞ」
「さっきから、いったい何のつもりだ? だいたい、俺がお前を傷つけたところで、お前に何の徳があるんだ?」
「不死ではないかと問われたから、答えておるのだ。傷を負い、痛みを感じる所を見せれば、そなたも納得するじゃろう」
自ら、痛めつけよと言わんばかりの挑発を〈少女〉は何でもないことのように言い放った。それは、恐怖など感じない、人ならざる者、故に出た言葉なのか、〈男〉は非常に腹が立った。
〈男〉は〈少女〉からナイフを取り上げ、腰につけたままにしていた鞘へと戻した。慣れた重みが、ざわめいた心を落ち着かせ、迷っていた手も留まった。
「吸血種様!」
不意を突くように真上から声が上がり、〈男〉はハッとした。いつの間にかその存在を頭の隅へと追いやっていた。忘れていたわけではなかったが、警戒を怠っていた。
一瞬だけ意識が、声の主へと向かった。大した時間ではなかったが、その一瞬の隙を突かれ、視界が歪んだ。
気が付いた時には、地面に背中を打ち付け、転がされていた。押し倒されたようだが、痛みも衝撃も感じなかった。何をされたのか、どこに力を込められたのか、全く見当がつかない。