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第五節「明かされた真実」

 新年あけましておめでとうございます。現実が本当に多忙すぎてかなり時間がかかってしまいましたが、頑張って完結させようとは思ってます!

後、1、2話で完結です。

 日和から新しい義手を貰って、早2、3ヶ月ほど経っただろうか。日和は何か不吉なことを言っていたが、何も起こっていない。

「先生」

 そして帰ろうとしていたところ、後ろから明日香に呼び止められた。あの神社の裏から帰って以降、彼女とは何度か帰り道を一緒にする事が増えた。

「今から帰りですか?」

「ああ。一緒に帰るかい?」

「はい!」

 こうして明日香と帰るのが当たり前の光景になって、私の生活は変わった。彼女から聞く話は面白いし、彼女が笑っているのを見るのは悪い気はしない。

 だが同時に戸惑いも無いわけではない。私がココにいて良いのか、本当の名前を隠して、こんな日常を享受してい良いのか。私は本当は追われ続けなければならないのかとも。

「先生?」

 私の不安そうな顔を見たのか、明日香が話しかけてきた。どうも不安が表に出てしまっていたようだ。

「いや、なんでもない。ちょっと昔のことを思い出してな」

 適当なことを言って誤魔化す。彼女が姉さんたちの関係者とは言え、私のことを伝える訳にはいかないだろう。

「先生の昔って、何があったんですか?あんまり話してくれませんし……」

「私の過去、か。いや、特に話すようなことはないさ。普通にロシアで暮らしていて、姉さんのツテでこうしているだけさ」

 適当なことを言ってお茶を濁す。あながち嘘はついていない。ロシアでは姉さんの持っていた情報を狙った奴らに追い掛け回されていた事を隠しているぐらいか。

「普通にって、ロシアではなんの仕事をしてたんですか?」

「ええっと、そうだな……。軍関係の仕事をしていたな。姉さんのツテでな」

 ロシアで最初に私を引き取ったのは、姉さんが信頼していた日系のロシア軍人だった。私にロシア語を教えてくれたり、色々守ってくれたりした人である。最後は、17歳の時に私を逃がすための囮になって処刑されてしまったのだが。

「軍関係ですか……。ちょっと、怖いですね。戦争はもう起こってほしくはないですし」

「まあ仕方ない。誰かがやらなくてはならないことだからな」

 日本だって、今や立派な軍隊を持っている。『戦争』の時に世論などが足を引っ張って、一方的に蹂躙された経験から、防衛戦に限り交戦権を認めて作ったものだ。

「それに、軍関係と言っても簡単な給仕の仕事だ。銃を持ったりはしない」

 一応護身術の心得等はひとしきり学んでいるのだが、自衛の範疇を越えないレベルであることに間違いはない。

「給仕、ですか。その、一つ聞いてもいいですか?」

「どうした?」

「先生の、夢について聞いてもいいですか?今でも、昔でもいいですから」

 ここに着て一番困る質問が飛んできた。夢についてはあまり考える暇がなかった。ずっと、追われてるばかりで生きることしか考えられなかった。里親に拾われた直後に少しだけ考える余裕があったかもしれないが、あの時は不安がいっぱいでそんな余裕すら見落としていたかもしれない。

「夢、かあ。あまり考えたことがないな、そうだな……」

 私が言い淀んでいると、突然、一人の影が私達の前に立ちふさがった。

「や~っと見つけたぁ……」

 そう言って現れた人物は、タキシードにシルクハットという、時代錯誤もいい所な紳士然とした服装の人物だった。

「サンプル001、江口伊織、この2人に会うなんてラッキ~。いやあ、いい街だよ。ここは。こ~んなにサンプルがいるんだからねぇ~」

 不気味な笑みを浮かべたその男は、不気味すぎるほどの笑みを浮かべていた。

「お~っと失礼。私はアガーシャ、ある研究機関から、サンプルを回収しに来た者だ。最も、それ以上の収穫が見込めそうだが」

 アガーシャと名乗ったその男は、不自然なレベルで流暢な日本語を話していた。偽名だろうか?

「いやまさかこんな僻地で教師をやってるとは思わなかったよ、イオリ」

 私のことを偽名ではなく、本名の江口伊織と呼ぶからには、アガーシャの正体についてはある程度の検討がついていた。私はすかさずカバンから拳銃を引き抜いて、即座に引き金を引いた。

「先生……!」

 いきなりの銃声に明日香は驚いていたようだが、私は気にかけずにアガーシャの方を見た。アガーシャは眉間を撃ちぬかれ、大げさなほどのけぞっていた。だが、倒れずにそのまま立っている。

「いやあ、随分と失礼なアイサツじゃあないか。イオリ」

 それどころかアガーシャは平然としていて、全く効いていないようだった。おかしい、多少のブレはあったにせよ、ほぼ眉間を撃ったはずだ。あくまで護身用として携帯しているので、無駄弾など撃てない。

「驚くのは最もだよ、私は特殊な体をしていてね。他の人間より死ににくいだけさ」

 アガーシャはゆっくりと起き上がると、こちらを向いて、不気味に笑った。

「君たちは考えたことないかね?老若男女問わずに全員を平等に戦わせられる兵器がアレばいいと」

 アガーシャは妙なことを言い始めた。そんなもの、存在するわけ無いだろう。私が生き残るためにどれだけ訓練を積んでも、大人の男一人に勝てなかったのだ。逃げる以外の選択肢を諦めざるを得ない程である。

「最近は技術が進んでてなあ、できたんだよ、そのための兵器が!」

 アガーシャはそう言って、一本の小さな注射器を取り出した。その中にはすべての光を飲み込もうとする程黒い泥のようなものが入っている。

「嘘でしょ、まさか、それって……!」

 明日香がアガーシャを見て顔色を変えた。どうして彼女は何かを知っているのだろうか。

「『マザーウイルス』。男だろうが、子供だろうが、それがある程度成長した『人間』ならば、誰でも『マザー』にその存在を上書きされ、るッ!」

 アガーシャが持っていた注射器を胸に突き刺すと、その姿は一変した。黒い泥のようなものが全身を覆い、アガーシャの姿を変える。

「先生逃げてください!アレは人間が戦って勝てる相手じゃない!」

 明日香が真っ先に私の前に躍り出る。一瞬だけ見えたその左目は、金色に変色していた。

「そうだとも、今私が自分の体に投与した『トリガー』は不活性状態にあるマザーウイルスを活性化させるものだ」

 変異が終わったアガーシャは、黒いイカのような姿になった。その大きく発達したエンペラは、悪魔の羽のようにさえ思える。

「これが『マザー』。しかも、変異後も自我を失わない改良型さ。素晴らしいだろう?」

 アガーシャは変異をして満足そうだった。明日香は相当に警戒しているようで、身構えたままである。

「それじゃあ、ネタばらしといこうか。まずは、白井明日香、君からだ」

 その言葉を聞いた途端、明日香はいきなりアガーシャに飛びかかっていた。人間とは思えない素早さだった。

「その昔、かつての戦争で一人の捕虜になった男が、マザー化実験の第1号被験者になった。彼は名前を剥奪され、『マザー』という名前しか残っていない」

 明日香は獣のように唸りながら、アガーシャに襲いかかっていた。だが、アガーシャは全く意に介していないようで、簡単に攻撃をかわし続けている。

「そう!では今こそ告げるとしよう。彼女の正式な名前を」

 アガーシャは明日香を小石のように蹴り飛ばした。なのに、明日香の方は2,3メートルほど吹っ飛び、私の足元に転がった。

「そいつは最初のマザーのデータから作られたクローン、『ベビー』の1号機さ。サンプル001という名前だったのに、随分と洒落た名前じゃないか」

 明日香はゆっくりと立ち上がり、肩で息をしながらアガーシャと戦おうとしている。

「元々寿命の短いクローンに加えて、マザーウイルスは劣化が早いからねえ。生きられて後数年って所か」

「先生、逃げてください……」

 あれだけやられたのに、明日香はまだ諦めていないようだった。

「聞いたでしょう?私だって生まれた時から人間じゃないんです。この短い命を、少しでも役立てたいって思って頑張ってきたんですから」

「そうだとも、そいつの研究のお陰で幼児年齢程度のベビーなら、マザーウイルスの劣化を遅らせて寿命を25年前後から、40~50年にまで伸ばせたんだから」

 気がつくと、アガーシャは既に明日香に肉薄していた。明日香は反撃しようとしたが、アガーシャの触手がそれより早く弾き飛ばす。

「まあ、俺からすりゃどうでもいいけどな。ベビーなんてボタン一つでいくらでも作れる」

 先程までの紳士的な態度は鳴りを潜め、粗暴な口調でアガーシャは告げた。明日香がいなくなり、アガーシャは無防備な私を無言で指した。

「俺の狙いはお前の頭だ。別に生きてようが死んでようが関係ない」

 ……何を言われているのか分からない。私の身柄を狙っているのは分かる。そう教えられたから。

「ああ、そうか。聞かされてないんだったな。知ってるか?お前の家の焼跡から、お前の姉の日記データが出てきてな。面白いことが書かれていたんだ」

 アガーシャはこちらの戸惑いを察したようで、私に言った。

「お前の姉はな、万が一自分が殺されたときの為に、寝てるお前の頭のなかに小さいチップを埋めた---」

 アガーシャは軽く頭を突きながら、軽々しく言った。私の頭に何が埋まっているのかを。

「前の戦争で使われた兵器のデータ一式が入った、超重要な奴をな。つまりお前は、江口朱里の予備のハードディスク程度にしか思われてなかったってことだ」

 嘘だ、そんな記憶はない。第一、姉さんがそんなことをするはずがない。私は否定をするように引き金を引いたが、アガーシャはそれを軽々しく弾いてみせた。

「お前は疑問に思わなかったのか?姉の朱里あかり本人ならともかく、どうして何も知らないお前を人質にできる?日本政府は何も知らないんだぜ?」

 そんなわけない。姉さんが私をそんな風に扱うわけがない。あの時逃してくれた姉さんには、嘘なんて一つもないはずだ。

「ま、いきなりそんなこと言われてはいそうですかってなる人間なんていないよな。じゃあ、こうしよう」

 アガーシャは触手を伸ばし、明日香を縛ると、手元に引き寄せた。明日香はもう反抗する体力すら残っていないのか、ぐったりとしていて動かない。

「コイツを一旦預かる。この街のハズレに使われなくなった古い小屋があってな。2日後まで待つ。お前が俺についてくるか、コイツを見捨てるか。好きな方を選べ」

 そう言い残してアガーシャは去っていった。私は何が起こったのか、未だに理解しきれなくて、その場でただ叫ぶことしかできなかった。

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