首なし騎士 自覚する
コースト王国ギャザ騎士団の内紛――筆頭騎士と王女の駆け落ちを受け、デュラハンはルフェイの預け先の全面的な見直しを迫られることになってしまった。
デュラハンは任務に対して冷静沈着を標榜しているため失敗を認めることに拒否感はない。
ただしそれは計画を台無しにされ不満を感じないこととは別だ。
「騎士の一人ぐらいさっさと始末してその王女とやらを連れ戻せばいいものを……!」
「思っていたより諦めが悪いね。騎士殿」
「ぐぬ」
ルフェイの言葉に口をつぐんでも、この島で最強最大の騎士団という評判はどうしたと憤りは消えない。
二年という時間は首なし騎士にとって刹那だが、人間にとってはそこそこの時間のはず。
まあ、計画を立てるより先に内紛が起こっているのでデュラハンにも八つ当たりに近いなという自覚はある。
「それにギャザ騎士団だからね」
「確かにギャザ騎士団でなければもっと早く決着していたでしょうな。それこそ矢が天を駆けるほどの刻もかからずにッ!」
頭を悩ませデュラハンに比べ少し離れた場所で夕食の準備をする二人――ルフェイとフェイクトピアは事態が収束していないことに仲良く理解を示していた。
ルフェイはデュラハンが今後のことについてあれこれ考え始めると、早々に今日はここで野営すると宣言し夕食の材料調達し始めた。
デュラハンが知る限りこの島の大半の人間は昼と夕の一日二食で済ます。一日三食食べようとするのはルフェイのような裕福な大領主家の者や賢者や魔女など特別な立場にある者だけだ。
更に言うなら華奢な外見に反してルフェイは中々の健啖家だったりする。
喉に大鎌を突きつけられ失神しかけていたフェイクトピアも我輩も手伝いますぞ、と川で魚を釣り始めたり案外図太く食欲旺盛だ。
まあ、二人が魚の腹を裂こうが、内臓を引き摺りだそうが、じわじわ火炙りにしようがデュラハンには関係ない。
人間って俺たち首なし騎士を化け物とか罵る割りには……と多少思う程度だ。
どちらかというとギャザ騎士団の件について二人が共有している認識のほうに興味がある。
再び同じような失敗を繰り返さないという意味でもだ。
「ギャザ騎士団だから、とはどういう意味だ」
ギャザ騎士団の状態によっては、当初の計画に従いルフェイを押し付けるのも可能かもしれない。この時、デュラハンの頭の中にはまだそんな都合のいい考えがあったりした。
しかしデュラハンはそれが甘すぎる考えだと直ぐに思い知るのことになる。
「そのままの意味さ。”ギャザ”つまり誓約のせいで騎士団が纏まらないんだよ。良くも悪くもあの騎士団は誓約を神聖視しすぎるきらいがあるかね」
「誓約が……だと?」
誓約というのはこの島の騎士や戦士が剣術の技を修める際に誓う心構えのことだ。
剣術の流派ごとに異なっていたり似たものがあったり誓う数も違う。
騎士や戦士がよく叫ぶのでデュラハンもいくつかは知っている。
最近もコンプレとかいう槍使いの騎士が言っていた。
『怒りをもって刃を振るえ、哀しみをもって刃を振るうな』『己が親しむ武器を貶すな、貶されるのを見逃すな』『心を平静に保ち、激情に乱されるな』『剣を振るい汗を流せ』などがあったはずだ。
まあ『愛こそ幸福なり』『長幼を敬い守れ』『苦しむものを助けよ』『婦女を愛し救い見返りを求めるな』と戦いと関係ない誓約もある。
これらの誓約を守る限り、技は冴え、戦の妙も増すらしい。
デュラハンが知覚する限り妖精や巨人などの加護があるわけでもない。
だがしかし”刈り取り”で誓約のある騎士や戦士のほうが強いということも経験もしていた。
そんな誓約で何故騎士団が瓦解しかけるのか、と理解に苦しむデュラハン。
首なし騎士の疑問に吟遊詩人が丁寧に解説を始める。
「それはですな。あーまず王女と駆け落ちした筆頭騎士は若くて美形で麗しい容貌をしておりまして騎士団内でも多くの騎士から秋波を送られていたそうですぞ」
「……おい」
「ですから騎士団長や国王に筆頭騎士追撃を命ぜられても真の益荒男たちは『愛こそ幸福なり、片思いでも愛しい人を害せようか!』と任務を拒否――」
「馬鹿なッ!!」
罵りではなく詩人の言葉が信じられないという意味で叫ぶ首なし騎士。
好悪の感情で主命を拒否するなんてデュラハンの価値観では考えることすらできない。
正しく”想像を絶する所業”なのだ。
「そうそう。普通そこは『女なんかに愛しの男を奪われるぐらいなら俺が殺す』だろうにね」
ルフェイはルフェイでデュラハンに理解できないところに不満があるようだ。
対して問題はそこじゃないと叫ぶ首なし騎士。
「男や女などどうでもいい! 主命拒否などありえん!!」
「ほうほう。騎士殿は男女の区別なくいけると……」
よこしまに笑う城なし姫と動揺を通り越して混乱する首なし騎士を興味深げに眺めつつ詩人の話は続く。
「それだけではございませんぞ。『長幼を敬い守れ』――年長者を敬い年少者を守ると誓った年配騎士たちは、騎士団長からの命令と若き筆頭騎士を庇護したい思いの板ばさみに憤死するものまで出る始末」
「…………」
もう言葉もないデュラハン。
「『苦しむものを助けよ』と誓約したものたちは、逃亡生活を送る王女と筆頭騎士のために騎士団を出奔したりと面白可笑しい状況なわけでして」
デュラハンは最近自覚し始めたことがある。
もしかして俺は、手堅く確実に優れた首級を刈り取ろうとし過ぎて予想外予定外への対応能力が低いんじゃないかという自覚だ。
しかし、しかしだ。流石にこんな理由――駆け落ちから始まる多数の喜劇譚で計画が、発案前から破綻していたら誰も対処できない。
いっそ小娘の命を狙う謀反人とそれに従う者を皆殺しにした方が早くないか?……などという考えが浮かんでくるほどだ。
もちろん村々に分散している領主や騎士を殲滅するのは現実的ではないのだが――
「クルアッハよ」
主を讃えるその声も今宵ばかりは殊更に弱々しかった。




