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円環魔儀師の冒険譚  作者: MGR
9/14

1章 9.その意味4…

「…くっ……くっくっ…くはははは!」


「え?し、師匠?」


トレットに完敗し、悔しさに言葉も出ないと思い込んでいた、師が突然目の前で爆笑を始め、リータは戸惑いのあまり全力で後退した。


さながら蝦蛄シャコの様に。


「カラー…いや、おっさん、何笑ってんだよ?殺されかけたってのに…。」


そう殺しかけた張本人が問いかけ、再びリータに睨まれた。


リータも全力で逃げているので明らかに同罪なのだが。



「おっさんとは手酷いですね。


いえ…始祖魔技師の力を侮り、弟子に守ってもらう私には師たる資格は無いのかもしれませんね…。」


カラード師は、そう自答し諦観の表情で遠くを眺めた。



「何を言ってるんですか!カラード師は師匠に決まってるじゃ無いですか!トレットさんのあんなに凄い術をことごとく破っていたじゃ無いですか、そんな事出来る魔儀師がいるわけ無いでしょうが!」


先程までへたり込んでた筈のリータが、落ち込んでいる師に向けて檄を飛ばし始める。


負けたとはいえ、普通の魔儀師であれば初手の霆で戦闘不能になっていた筈だ。


それをニ手、三手先を読み常に優勢に持ち込んでいた。

これを流石と言わずして何というか。


その短い髪を振り乱しながらリータは熱弁を続けている。





「ところで…、先程の”アレ”はどの様に行うのでしょうか?何と無く原理はわかったのですが…魔儀師の私としては全くわからないんですが…。」


背後で騒いでいるリータをよそに、先程の闘いを決定付けた最後の術についてカラード師から質問をされた。


「ん?…あ〜、あれね。…ちょいまとめるから待って。」


おっさんの背中でヒョコヒョコと現れては熱く語っているリータを見ながら、イタチっぽいアレに似てるなーなどと考えていたら、そのおっさん当人に話しかけられてすぐ様意識を戻す。




「スピードじゃ勝てないって分かってたから、そこそこの大きさの火球を作って放り投げた。”あえて”高くな。


おっさんの闘い方を見る限り、返しに自信があるんじゃ無いかって当たりをつけて。」


トレットは天井を差した指をゆっくりとおっさんに向かって降ろした。


「次に、火傷した右手を半身で隠しながら同時に結んでいた風の力に一手間かけて、渦を巻く様にして火球の後ろに放った。そうしたら特大の火球が出来たってわけ。」


何でも無い様にトレットは話したが、それを聞いたカラード師は銀眼を大きく見開き、驚きを露わにした。



「でも、それでは火は消えてしまうのでは?実際にトレットさんの炎の拳は風の術でいなされてましたし。」



先程までヒョコヒョコしていた筈のリータが、相手にされていない事に気づき、素知らぬ顔で会話に加わった。




「そうそうそう、普通にやったら相殺されて消滅だろうな?


でもさ、火だ風だ水だと言っても、所詮は力な訳よ。

上手くコントロールしてやれば、力と特性が相乗効果を生んで、あれだけの力が出るってわけだ。


まぁ、実際にやってみないと効果はわからないから、ウッカリおっさんを殺しかけたけどよ?


というか、そうなるかも知れないからリータに目で合図したんだぜ?来るのが遅いんだよ。」


トレットが何でも無い事の様に語った時には、カラード師を心配して見届役の魔儀師達も集まってきた。


「ちょっ!私のせいにしないで下さいよぅ!『俺は大丈夫だ、問題ないぜ!キラッ☆』みたいな表情で分かるわけ無いじゃないですか!」


師をウッカリ殺しかけた共謀から、遂には単独犯に仕立て上げられたリータは、トレットの物真似をしながら断固抗議した。




「リータ、少し黙ってもらえないかな?」


質問をした当事者のはずが、蚊帳の外におかれ、眼の前でいちゃついてるのを見せつけられたら、流石のカラード師も平静ではいられなかった。


しかし、大人の男の自覚がある為、こめかみに青筋を立てながらも眼だけで無理やり笑っていた。


師のドス黒いオーラを察知したリータは、気配を消し極力目立たない様に背景に紛れた。



「先程の話は、よく分かりました。あの術…いえあの力は今代ではトレット殿のみが扱えるという事も。


やはり、始祖魔技師の力は強大であると感じ入りました。


我々ではいかに魔儀を修めようと、力自体を感じる事は出来ませんので、あんな繊細な操作は出来ないのです。」


カラード師は真剣な表情でトレットに向かい合い、少し見下ろす形でその力を認めた。


トレットは照れくさそうに鼻をかきながらそっぽを向いてしまった。


「この闘いで、トレット殿に足りていないものを教えたかったのですが、反対に格の違いを見せつけられてしまいましたね、全くもって言い訳のしようがない。」


素直に非を認めたカラード師の言葉に、トレットとリータは反応した。




「その件については、おっさんが身を以て教えてくれただろ?

その砕け散った連珠の玉が、死獣の持つ”真髄珪翠(ピス・ジェダイト)”と同じ役割って事だろ?


奴らは周りの力の残滓を集め、自分のものとするからな。俺が使う力が大きければ大きい程奴らは強くなる。」



「その為に、還元術が使える魔技師の結盟者(パートナー)が必要という事ですね!」


トレットがカラード師の伝えたかった真意について言い当てると、リータもそれに乗っかり、師が伝えたかった事の意味についてを続けた。


2人のどうだと言わんばかりの視線を受け、カラード師は吹き出し、大声で笑いだした。



「いやー、重ねて敵いませんね。あれだけの闘いの最中にこちらの真意まで探られているとは……しかも、まだ未熟だと思っていた弟子にまで。」


口では敵わないと言いつつも、先程までとは違い非常に穏やかな表情で2人を見つめたカラード師は、どこか誇らしげだった。


「では、改めてエリー・リータよ。始祖魔技師 トレット・サーティーン殿と結盟者(パートナー)となり、世界の厄災に立ち向かってもらえますか?」


師は衣服を整え、やおら厳かにリータへと問うた。

師の引き締まった表情に自然と弟子の顔も引き締まる。


「はい、ドゥーエ・カラード。その申し出につきまして、謹んで拝命させて頂きたいと思います。この身が尽きるまで、トレット殿と世界の為仕える所存です!」

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