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円環魔儀師の冒険譚  作者: MGR
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1章 4.その方…

2人の前にある典儀ノ間の扉は、その重厚かつ荘厳さに前に立つ多くの者に威圧を与えていた。

典儀所を主な生活の拠点としているリータであっても、それは例外では無かった。


「いつ来ても緊張感のある扉ですね…。」



しかし、トレットに至っては無邪気に懐かしむかの様に気安く扉に触れ、色々と弄ってる内に解錠の光を放ち始めた。


解錠の方法はわかるはずも無いと、タカをくくっていたリータと控えの儀礼兵が止める間もなかった。


「あっ、開いちゃったわ。」


間の抜けたトレットの声が聞こえた。


一拍置いて、重厚な音が響き巨大な扉が音も無く開いた。



「よくぞおいでくださった、私は第3典儀所を任されているドゥーエ・カラードと申します。」


リータは突然の出来事に思考が一瞬停止し、続けてこの世で最も奇異なものを見た時の様な表情で、カラード師を見つめていた。


自分の師であり、第3典儀所の最高責任者である銀眼のロマンスグレー。普段は表情にこそ怖さなどは無いが、その言動の厳しさは典儀所全体でも1、2を争う。


そのカラード師が、手順を無視した開扉を咎めもせずに、恭しく自己紹介をしているのを、長い付き合いの中でリータ初めて目にした。


そして、勝手に解錠をした気まずさと、待ち受けていたカラード師からの丁寧な挨拶を受けたトレットは非常に困惑しながら固まっていた。


「えっと……トレット…です、ドゥーエ・カラード。」


何とか声を出したトレット。



「いえ、カラードで構いませんよ。トレット殿。」


苦み走った顔を綻ばせ、笑顔で返した。




しかし、そのカラード師の発言を看過できなかったリータは叫びにも似た声で問いただした。


「カラード師!いえ、ドゥーエ・カラード、これは一体どの様な状況なのですか!?私はまだ”何も”報告はしておりませんのに、その方…トレット殿は一体?!」



カラード師は取り乱したリータを嗜める様な事はせず、しっかりと見つめて説くように話を続けた。



「エリー・リータよ、貴女が狼狽するのも最もですが、ここが何処だか思い出し心を鎮めて下さい。そして、あちらの席に座りましょう。トレット殿もどうぞお座り下さい。」


リータは、自分が声を荒げていた場所が、世界で”最も重要な機関のひとつ”のその最奥部に居る事を思い出し、目立たぬよう深呼吸をした。




部屋の奥に並んだ椅子に腰を下ろすと、カラード師自らの手で入れられた”華茶”が振舞われた。まるで”彼等”が来る事がわかっていたかの様に茶器まで温められていた。



「すみません、こちらの華茶を淹れるのに時間が少しかかってしまい、お待たせしてしまいましたね。」



そう言いながらも、非常に手際良く茶菓を取り分けお茶を飲むのが待ちきれない様子だった。




トレットは落ち着き取り戻した様子で、茶菓を啄んでいた。




「あの…カラード師。この華茶は手に入れるのに非常に苦労をした希少な物と、何時ぞやおっしゃっていた物に非常に良く似ておりませんか?それこそ、自分が”エク・ドゥーエに命ぜられた時並みの事”がなければ飲まないとまで言っておられたアレに。」



リータは置かれた現状を努めて冷静に分析した中で、非常に気掛かりな事を見つけてしまい、おずおずと質問した。





カラード師は瞼を閉じ、鼻腔に全神経を集中させ華茶の薫りを楽しんでいた。そして無粋なリータの質問へ冷たく返した。



「エリー・リータ、よく覚えていましたね。師として非常に感激ですよ。しかしまだまだです。自分が発した意味と、現状を推察して答えまでは導けないのは残念です。自分の掌の中には全てのピースがある、なのに答えにたどり着け無いなんて、”全く解らない事”以上に残念な事ですよ?」



辛辣なカラード師の言葉を目の当たりにし、歯嚙みする程悔しいのに、心の奥ではその厳しさに安心している自分がいた。何時ものカラード師だと。



「つまりは、今はそれだけの事態が起きてるって事なんじゃ無いのかな?エクなんとかってのは良く知らないけどさ。そして、その原因が俺って所かな?。」


それまで2人のやりとりを黙って聴いていたトレットは、一息にそこまで告げてから、用意された華茶で喉を潤していた。

手元にあった茶菓は、いつの間にか全て消えていた。



「エク・ドゥーエは、今の魔儀師体制の中では、最上位を表す称号になります。正に、それを拝命するに等しい事が起きたと思って頂いてよろしいかと思います。


ただし、それが喜ばしい事だけであれば良かったのですが…。」



そうトレットへ返したカラード氏の表情が初めて曇った。




「さっきから引っかかっているんだが、カラード…さんは俺の何を知っているんだ?」


トレットが発した言葉はシンプルだが的を射ていた。この場に呼ばれた理由と、幾つかの理由が全てトレットの存在の重要性を示していた。




「そうですねぇ、そこまでご理解なされているのであればこれからお話しする事について、受け止めて貰えると信じております。


リータも本来であればエリーの職位では聞く事は禁じられているのですが、”聞かざるを得ない状況”だと納得下さい。」



しばしの間聞くに任せてたリータは我に帰ると同時に、事の重大さに気づき、無意識に右手で左上腕を掴みこれから起こる事態に対し身体を強張らせた。



「これから話す事はドゥーエ以上で在位期間が永き者にしか明かされていない事で、エリーのくらいで知っている者は皆無ですので、知らなくともリータが気にすることはありません。」


トレットとリータもこれから語られる話を聞き逃さない様、カラード師の銀色の瞳を食い入る様に見つめていた。



「まず…、こちらのトレット殿は”始祖魔技師”に間違い無いと思われます。」


「しそ…マギシ?」


予想外の師の言葉にリータは思わず呟いてしまった。


「ふっ…では、今から少し昔話をしたい思います。長くなりますので、寛ぎながら聞いてください。」


カラード氏はそう締めくくり、華茶のお代わりをトレットと自分のカップへと注いだ。

冷めてしまっているリータのお茶については、敢えてそのままにして。

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