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円環魔儀師の冒険譚  作者: MGR
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1章 3.その男…

男は思いの外素直に連行された。


いや、むしろ楽しそうに辺りを見回しながらリータのすぐ前を歩いている。


時折、驚く様な懐かしむ様な表情をし、リータへと質問を重ねていた。


その様子は、さながらデートと思われても仕方の無い様な振る舞いであった為、不要な諍いの種なども蒔いていた。


ーー「オイ、アイツダレダ?」

ーー「ミタコトネェガ、デモ、ナレナレシイナ。」

ーー「オレラノ、リータサマナニシテクレテンノ?」


「あの〜、リータ…さん。少し周りからの視線がおかしく無いかな?」


男は辺りを見回し、荒くれ共から発せられる厳しい視線にドギマギしていた。


「それはそうですよ、貴方は極めて怪しいから連行してるんですよ?訝しむくらいは当たり前じゃないですか!

それはそうと、私の事はリータで良いですから。」


そう冷ややかな口調で男に告げ、サラッと呼び名を変えさせた。



「いや、なんというか、敵意しか感じないというか…うーん。ん?リータ…?なんで急に親しげな呼び名に?」


どうにも腑に落ちないと頭を悩ませてる男に、更なる困惑が降りかかった。


「少しは頭を使って欲しいものです、貴方はあれだけの力を持っている。故に私の同僚かそれ以上になる事は分かりきっています…。そんな人に敬称で呼ばれたいわけないじゃないですか。」



とりあえず良く分からない自己主張をされたが、口答えすると厄介そうだと思い、男は素直に受け入れた。


「……そうか。わかった、改めてよろしくなっリータ!」


そう爽やかな笑顔でリータの名を呼ぶと、辺りがざわついた。



ーー「オイ、キコエタカ。」

ーー「アイツ、リータサマノコト、リータッテ…!」

ーー「コンヤアタリ、ヤルカ?」



「やっぱ、ヤバイ視線感じるぞ!どうなってんだよ!」


そう叫ぶ男を見遣り、リータは渋々視線を巡らせるが、そこにはリータを優しく見守る住民たちの視線しかなかった。


「なんなんですか?皆さん優しそうな感じじゃ無いですか!良くないですよ?疑心暗鬼は。それより、典儀所へ急ぎますので、ついてきて下さい。」


「マジかよ、これはいよいよ夜道歩けないぜ。」


男の残念な呟きはリータに聞こえる事は無く、雑踏に消えた。石造りの街並みに映える石畳を2人は足早に去っていった。


荒くれ達は、憧れの女性と仲良さそうに連れ立っていた男の顔をしっかと記憶にとどめた。





街の中心部に位置する第3典儀所の中は、歯車や光り輝く回路のような物が張り巡らされ、名前から醸し出される荘厳な雰囲気とは趣が異なった。


「ここが典儀所ってやつか?こんな作りしてるんだな?」


「まぁ、ここは典儀所の中でも中央典儀所の一つ、第3典儀所ですからね、他の典儀所とは規模が違いますからね。」




揃って典儀所内を進むと、浅黄色の儀礼服に身を包んだ儀礼兵達がこちらに気付き近寄ってきた。


「これは、リータ師!お務めより無事お帰りになられて何よりです。……こちらの怪しい身なりの男は咎人ですか?」


いきなりの咎人認定に、流石のリータも苦笑した。

咎人扱いされた男の方は聞こえていなかったのか、どこ吹く風で典儀所内を見廻していた。



「んーーと、咎人では無さそうかな?怪しさは抜群なんですけどね!とりあえず、ドゥーエ・カラードに御目通りして頂こうかと思っております。」



リータは少し弾んだ声でそう伝えると、1人の儀礼兵が足早に奥へ消えていった。


「では、私達はそこの応接ノ間にいますので、そうお伝えください。」


「承りました。」


儀礼兵は恭しく一礼すると、扉を静かに開き2人を部屋の中に通した。


中は、いつも通りの落ち着いた調度品と、適度な飾り付けされた瀟洒なソファーが置かれていた。

リータはこの適度にクッションの効いたソファーがお気に入りだった。


儀礼兵達がいなくなり、応接ノ間にて2人で一息をついている時にリータはハッとして、男に顔を向けた。



「ずっと忘れていましたし、今更言うのも何なんですが…。」


尻すぼみ気味に口籠り始めたリータに、男は目線で先を促した。


「その、これからドゥーエ・カラードにお会いするのに、私は貴方の名前も知らないなと…思いまして。」


ーー

ーーー




深い沈黙と気まずい空気が流れた。



「あーっと、そうだな。半日も一緒にいたのに君の名前しか知らないとかお笑い種だな。


改めて、俺の名前はトレットだ。よろしくな!」



「トレット…ですか?」


リータは確認をする様に名を呼び問いかけた。


そしてトレットはそれに対しあっけらかんと答えた。



「わからない!正直に言うがトレットが俺の事だって認識はあるが、それ以外は何もわからないんだ。

でも、この街に来たら何処か懐かしい感じもするし、初めて見る様なワクワク感もあるんだ。」


トレットは、あっけらかんとそう言い放ち、少年の様な笑顔でリータを見つめた。

その屈託の無い笑顔に、リータも警戒心を解した。


ああ、この方は嘘は言っていないんだろうと。



「そうですか…、では何かご自分の事についてわかる様な持ち物などはなかったのですか?」


「ボロボロの服一式と、手首に巻かれた紐と骨片位しか無かったなぁ。」


トレットは、今では見る事の無くなった、民族衣装に良く似た服をつまみながら、手首をリータに差し出した。



「手首の物はアクセサリーですか?それとも術具か何かでしょうか?…見せてもらってもかまいませんか?」


そう言うと、リータはトレットの手を取り手首に巻かれた骨片を様々な角度から見回した。


「特に、何の変哲もないアクセサリーの様ですね?身分証かとも思いましたが、文字の様なものも刻まれておりませんし…。」


うーん、と考えていると応接ノ間の扉にノックの音が響いた、リータはすっと意識を戻し居住まい正した。




「リータ師、ドゥーエ・カラードの準備が出来たので、典儀ノ間までおいで下さいとの事です。」


「えっと?ここでは無く典儀ノ間ですか?」


「はい、その様に仰せつかっております。」


予想外な儀礼兵の言葉に少々戸惑いながら確認をしたが、典儀ノ間に間違いがない事で、リータの表情は強張った。


そして、トレットを誘い典儀ノ間に向かった。



「かしこまりました、では参りましょう。」

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