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円環魔儀師の冒険譚  作者: MGR
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1章 1.はじまり…

私は旅をしている。


先日までただの魔儀師マギシだったはずが、どうしてこんなに鬱蒼とした森の中を彷徨いながら、襲いくる敵を迎え撃っているのだろうか。


何の変哲もない魔儀師の家庭に生まれ育ち、”たまたま”師の目にとまり、過酷な修行を与えられた結果この歳にしては優秀な魔儀師として順風満帆だった。



「私じゃ無理ですって…。」


彼女はスラリと伸びた体躯を縮め、前を行く男の背に隠れる様に、幾度目ともしれない弱音をはいた。


「またかよ、何度目だ?その話。」


繰り返された会話に飽きてきた男が突っ掛かる様に、彼女へと尋ねた?


「町を出てから通算15回目くらいですかねぇ?」


「……よく数えてんな。もしかして、魔儀師って奴はみんなそんなに記憶力が良いのか?なら、これまでに倒した魍獣モウジュウの数も数えてんのか?」


答えの無い意地悪な質問に、サラリと答えられ男はムキになって質問を重ねた。


「207体です。」


「即答かよ!やっぱ数えてたのか、すげーな…。」


またも当てが外れ、敗戦濃厚なやり取りに男は賞賛の言葉を漏らした。


「いえ、その全てをお一人で倒されている、貴方の方が凄いとおもいますが?私は数えてただけですもん…。」


しかし、舌戦に勝ったはずの彼女は蒼眼の瞳を伏せ、少し傷ついた顔をして、ふいっと横を向いてしまった。


「あーそっか、そっか…。すまん、ちょっと一人でやり過ぎだったな。……俺は強い…はずだから、本当はもっと早く強くならなきゃって思っててさ…なんか焦ってたな。」


男はバツが悪そうに前を向き、独りごちた。


「いえ、…私も…少し大人気なかったかなと…、貴方の立場や使命を存じている筈なのに。…自分の小さいプライドを守る為の自己嫌悪と、状況を覆せない自分に苛立っていました……本当にごめんなさい。」


彼女は伏せ眼で男を見ながら、恥ずかしそうに心情を吐露した。

そして、こんな状況になった原因とその後の波乱について反芻した。




【遡ること10日前】


魔儀師の仕事の一環として、彼女は近くの集落に発生した魍獣を退治するために、近場の礫地(れきち)を散策していた際に”ソレ”を発見した。


酷く汚れ所々衣服が綻んではいるが、血の跡などは見受けられない為、もしかして生きているのでは?と思い身体を揺すってみた。


微かにある反応と、肌の柔らかに生きてる事を確信を持ち身体をひっくり返した。


茶色い髪の毛と濃褐色の瞳の青年であった。

衰弱はしているものの、呼吸は安定している。


外傷や刺突痕は無さそうなので、礫地の中でも一際丸みを帯びた石に手持ちの布を敷き頭を乗せた。


「よしっ、とりあえず起こしてみようかな。」


彼女は腰に下げた巾着から気付けの薬草を出し、手近な岩ですり潰してから彼の鼻の下に乗せた。


「………起きないですね?うなされてますが…。」


などと、のんきに観察をしていたら、いきなり手足が硬直し出した。


「…う、うう、ウグッァっ!!!」


クワッと目を見開きながら、唸りだした。


おかしな苦しみ方をした男を見て、まさかコレは人の形をした魍獣なのでは無いかと、彼女が訝しんでいたところ男が聞き慣れた言葉を発した為、やや危険な想像は小さな胸の片隅に放り込む事にした。




「ゔぁー!!ぐッッざい!…なんだよコレぇ」



震える手で顔をさすろうとするも、上手く動かない様で濃褐色の瞳一杯に涙を貯め、その顔を彼女に傾けた。


「お、おはようございます…?」


涙目を浮かべた顔を向けられ、一瞬ギョッとはしたものの、とりあえずお目覚めという事で、朝の挨拶をしてみた。


「くさ!くさい!何これ臭いよ!」


先程から薬草を鼻の下に載せて、涙目で騒いでいる男がなんだか不憫に見えたので、彼女はそっと薬草を取り除いてあげた。


「大丈夫ですか?どこか痛みますか?」


「…あーまだ臭い気がする…。え?痛み?…うーん、ちょっと痺れはあるけど、多分へいき。」


彼は痺れていた手足を少しづつ動かし、稼働を確認したのちに、身体を捻り、四つん這いの状態から座り込み居住まいを正した。

そして、間の抜けた質問を投げかけた。


「ここは…何処だ?んーっと、ゴメン……君の名前思い出せないわ…誰だっけ?」


それはそうだろう、私と貴方は初対面なのですから。と口に出そうになったが、彼女は既の所で飲み込んだ。


「ここは、”ガレ”の礫地の中心ですかね?あー、もしかすると少し南に外れてるかも知れませんが…。


私はエリー・リータと申します、貴方が倒れていましたので優しく介抱をして気付け薬を少々使わせていただきました。」


「倒れて……あの臭さは気付け薬か…。あっと、エリーさんですか?初対面ですよね?」


「えっ?あー…はいエリーでは有りますが、その…。」


リータはモノトーンで仕立てられた、自らの闘衣を見直し略章か曲がっている事以外におかしな点は無い事を確認し、再度男の発言を思い返した。


そして、改めて”役職名”のみで呼ばれた事を確認し、男に対して訝しげな眼を送ると共に、警戒心を最大まで引き上げた。



「えーっと、何か変な事言いましたか?リータさんと呼ぶのは馴れ馴れしいかと思いエリーさんと呼ばせていただきましたが…。」


なにやら、空気が変わった事を察知した男が言い訳を始めた為、リータは確認の意味で質問を投げかけた。


「わたしの格好をみて何故改めて(・・・)エリーと呼ばれたのですか?」



「え?エリーさんじゃないんですか?その格好が何かありましたか?よくお似合いですが……?」



「ええ、魔儀師 第3典儀所 エリーを拝命しております。」



「へぇっ、エリーって言うのは役職なんですね?てっきり名前かと思いましたよ。はっはっは、これは失礼。」



リータの質問に対して、男が墓穴をお代わりをしながら答えているのとは裏腹に、リータの顔は強張り身体に緊張感が漂いだした。



「………この世界では、魔儀師であるエリーを知らない者はおりません!それこそ赤子でも存じております……それを知らないとは…貴方は一体何者ですか!!」



リータはそう叫ぶと、膝を折っていた状態からすくっと立ち上がり彼に対峙しながら”印”を切り始めた。

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