転がる10円
おっさん。
転がるおっさん。
もとい、転がる10円。追いかけるおっさん。
転がるように10円を追いかけるおっさん、何をそこまで執着するおっさん。
たかが10円されど10円、おっさんにとってその10円はされどの10円なのか。
10円に追いつくおっさん、転がるように追いついくおっさん、おっさんようやく追いついて
拾った直後に飛んでった。車に轢かれて飛んでった。
消えるように吹き飛んでそのままあの世へ飛んでった。
おっさん、おっさん、なぜ死んだ。
10円の為になぜ死んだ。
おっさん、おっさん、おっさん、とうさん。
おっさん、おっさん、なぜ死んだ。
毎日通るこの道で、時々目が合うおっさんと、
すかさず逸らして他人のふりして、雑踏の中に紛れて逃げる
一日一本、発泡酒。
毎月小遣い数千円。
風呂からあがるとすぐさま転がりテレビつけっぱで眠りだす。
何も言わずに家を出て、何も言わずに帰宅する。
そんな毎日繰り返す。
毎日毎日繰り返し、ある日突然飛んでった、10円拾って飛んでった。
おっさん、おっさん、なぜ死んだ。
おっさん、とうさん、なぜ死んだ。
あんたみたいにはなりたくない
次の日、おっさん飛んでった。
言わなきゃよかったあんな事、後悔してももういない。
再び通るこの道で、逸らして避けたこの道で、今度はおっさん思い出す。
毎日毎日思い出す。
転がる10円、転がるおっさん、拾うおっさん、飛ぶおっさん。
笑うおっさん、怒るおっさん、喜ぶおっさん、泣くおっさん。
転がる10円、転がるおっさん、拾うおっさん、飛ぶおっさん。
おっさん、おっさん言ってごめん。
おっさん、おっさん言ってごめん。
あんたみたいにはなりたくない。
あんたみたいにはなりたくない。
毎日毎日ごめんなさい。
おっさん、とうさん、なぜ死んだ。
とうさん、とうさん、なぜ死んだ。
とうさん、とうさん、なぜ死んだ。
とうさん、とうさん、なぜ死んだ。