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ダークエルフ忍法帖~津軽弘前女騎士始末~迫る氷河期ぶっ飛ばせ  作者: 上梓あき
第二部 八兵衛、江戸へ行く 元禄十四年(1701年)四月~五月
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54、八兵衛、いきさつを知る。



木陰から現れ出でた男達は(しょう)さんを囲むように布陣する。その動きに乱れはない。


「……狙いはわたしか」


残りのあたし達には目もくれず、覆面姿の男達は包囲のわを縮めていった。


「察するに加藤家の方々と御見受けするが……」


晶さんがカマをかけるも男達は無言。


「何も()わぬのであれば是と見做(みな)すがそれでもよろしいか」


男達は何も答えない。

晶さんが振り向きもせずに背後に立つあたし達に声を掛けた。


「今よりちょっとした座興を披露しよう。特に采弥(うねね)どのはその目に焼き付けておくように」


「……わかりました」


あたしの横に立つ采弥(うねね)さんの目が据わっていく。

何一つとして見落とすことが無いようにと注意を込めていくのが雰囲気でわかった。



「さて」


晶さんが腰の帯から一対の扇子を抜いて両手に構えた。竹と紙で出来た何の変哲もないただの扇子が二本。

右手を振って扇をばさりと広げる。


「お前達にはこれで充分だ」


一瞬の間。


「イャーッ」


気声を上げ一斉に男達が殺到した。

白刃が振り下ろされる。

一歩踏み込んだ晶さんが刀を握った男の拳に突きを放った。

竹の切っ先が神経を穿(うが)つ。


「つっ……」


動きの止まった男に飛び込む。


シャッ!!


すれ違いざま、男の首筋に右手の扇子を一閃。薄く紙で切られた肌に血が流れた。


「くっ……」


首を切られた男は苛立ちを口にする。

包囲を抜け出した晶さんが右手の扇を煽いだ。

それを見て残りの男達が次々と斬りかかっていく。

晶さんは不敵な笑みを浮かべた。


「……ふ」


左からくる刃を左手(ゆんで)でいなすと正面からの打ち込みを(かわ)し、右手(めて)の扇子でその首筋を薙ぐ。

次々と男達の首の皮が切られていった。

怪我とはいえない怪我を負って首筋を押さえている。


「どうだ。紙も案外と切れるものであろう。

 ……次はもう少し深く切るかな。

 わたしの妙技はこんなものではないぞ」


にっこりと晶さんが微笑んだ。

男達の様子が変わる。


「どうする。今ならお代はタダだが、これ以上見せるとなるとそうはいかんな」


晶さんが扇子で構えを取る。


「……くっ」


逃げ出す男達を見送ると晶さんはあたし達に振り向いた。


采弥(うねね)どの。どうであったかな」


「すごいです、弥栄(いやさか)様。しっかりと見させていただきました。

 紙であんなことが出来るだなんて今まで思い付きもしませんでした」


采弥(うねね)さんが目を輝かせて興奮する。

剣術に目がない人という感じがよくにじみ出ていた。


采弥(うねね)どの。覚えておくがいい。

 たとえどのような物でも、持つ者の心持ちと使い方次第で充分に得物となりうるのだ」



――飯塚宿。

宿の一室であたし達は采弥(うねね)さんの話を聞いていた。


「……私の父が加藤家に仕官したのは六年前、加藤家が近江の水口(みなくち)から壬生(みぶ)に移ってきた時のことです。

 加藤家では新しく剣術指南役を求めていると家中の方が近郷近在の道場に声を掛けて回っていたのを私の父が耳にしてのことでした」


采弥(うねね)さんがぽつぽつと当時のことを語りだす。


「その頃の私は六歳、弟の浪江は四歳になります。

 父は母や私共(わたくしども)を連れて壬生(みぶ)に行き、剣術指南役として勤めていたのですが、

 四年後に母が流行り病で亡くなり、父は男寡(おとこやもめ)となってしまいました」


そう()って采弥(うねね)さんは悲しみに目を伏せる。


「そんな折です。筆頭家老の岸様を通じて殿から(わたくし)を殿の養女にとのお話があったのは」


「それはまた……」


なんという話なのだろう。あたしは思わず呆れた。


「父は(わたくし)を意向を聞いてから決めるとのことでしたので、きっぱりとお断りしたのです。

 男寡(おとこやもめ)となった父と十歳(とお)にも満たない弟を残して家を出るなど到底出来ることではありませんから」


呂久之輔(ろくのすけ)さんが唸る。


「なんとも見上げた心掛けよ。女子(おなご)の身の上ながら見事な孝子(こうし)ぶりではないか」


ちなみに「子」という字は唐土(支那)では男の貴族に付ける美称なので、「~子」と呼べばそれは男のことを意味することになる。


「その後も何度か同じ話を岸様からいただいて、私共(わたくしども)父娘(おやこ)が困惑していた折りのことでした。

 父の靱負(ゆきえ)三之丞(さんのじょう)様の縁者である十八女(さかり)彌重郎(やじゅうろう)の闇討ちに遭ったのは……」


そこまで()い終えると采弥(うねね)さんは沈黙した。



「なんと……十八女(さかり)彌重郎(やじゅうろう)は筆頭家老の縁者であったのか……」


「……はい。遠縁ではありますが縁者だとか」


呂久之輔(ろくのすけ)さんのつぶやきに采弥(うねね)さんが答える。

何も言わずに(しょう)さんが采弥(うねね)さんを抱き寄せて、包み込むように抱きかかえた。

無言で背中を撫で上げていく衣擦れの音。

掌でさすりながら晶さんが()う。


采弥(うねね)どの。湯屋へ行って心の垢を流してくるがよい。弟御(おとうとご)のことも頼めるかな」


「じゃあ、お嬢。わたシたちもご馳走になろうかなっ……と。采弥(うねね)ちゃんも浪江ちゃんも行こっ」


蘭さんが采弥(うねね)さんの手を取って立ち上がると、牛若さんがあたしから浪江さんを引き継いだ。

鴨居をくぐる際に牛若さんが振り返ってあたし達を見る。


今のうちにどうぞ――と。



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