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ダークエルフ忍法帖~津軽弘前女騎士始末~迫る氷河期ぶっ飛ばせ  作者: 上梓あき
第二部 八兵衛、江戸へ行く 元禄十四年(1701年)四月~五月
82/131

48、八兵衛、エルフ巫女に迫られる。(上)


ちょっとばかり話に動きがでてきたようです。




「おお、久し振りじゃの。小隼人」


この言葉に(しょう)さんは眉をひそめる。


「南天どの」


「おお、そうじゃった。そうじゃった。

 今のお主は晶……弥栄(いやさか)大吉(だいきち)であったな。

 いやぁ、済まん。済まん。年寄りは忘れっぽくていかん」


晶さんに南天と呼ばれた巫女はにやりと笑って()った。


「して、今は(・・)弥栄殿がどんな話があるのかのう?」


南天という少女にはどこか人をからかう風があって、晶さんもどこかやり難そうに見える。


「少しばかり込み入った事情があって内々で話したいのだがよろしいか」


「構わぬよ。ワシとお主の仲じゃ。ついてくるがいい」


周囲の巫女たちに指図を済ませると南天さんは山門へと歩いていく。あたし達もそれに続いた。


「むっ……」


山門をくぐる際に晶さんが小さくうめく。


「どうしました?」


晶さんは自分の懐をまさぐりながらつぶやいた。


「わからん。……どういうことだ」


「案ずるな。中で話す」


不審げに見つめるあたしに晶さんはそう答えて歩き出した。

訳が分からずにあたしも後について歩く。



「誰か居るか」


南天さんの問いかけに応えて社務所の奥から神職の方が現れた。


「ちょっと客殿を使うぞ。ここに居る者らに茶でも出しておいてくれ」


「畏まりました。皆さま、こちらへどうぞ……」


神職の方は一礼をするとあたし達を客殿へと誘導する。


「八兵衛、お主もわたしについて来い」


あたしも一緒について行こうとすると晶さんがあたしを呼んだ。

その声に反応して南天さんがあたしを見る。


「おお。お主は昨日湯屋に居た」


「はい。石田八兵衛と申します」


「……ということは三成殿の縁者かのう」


「そうなりますね」


「なんだ。すでに八兵衛と知り合っておったのか」


晶さんは何故か嫌そうな表情を作って()った。

南天さんがこれに反応する。


(しょう)、お主もそう嫌そうな顔をするな。……こちらだ」


あたし達を引き連れた南天さんが社務所の奥へとずんずん進んでいく。

通された座敷に落ち着くと、すぐに茶が出され、給仕の小坊主さんが襖を閉めて立ち去っていった。

その足音に耳をすませた南天さんが一呼吸おいてから話し出す。


「もうよかろう。ここには誰も居らぬ。安心して話すが良い」


薄い胸を反り返らせると南天さんは晶さんに話を促した。


「ああ。最近、当津軽家の周囲が色々と騒がしいので南天どのは何かご存じではないかと思い訪ねた次第」


そう()って晶さんが軽く頭を下げる。


「堅苦しいのう……。お主とワシの仲ではないか。

 もそっと軽ぅにやれんものかのう」


「ことわる。お前の調子に巻き込まれるのはいやだ」


「そのような冷たい事を申すではない。……で、本題は何じゃ」


何の脈絡もなく表情を消した南天さんが晶さんに続きを促す。


「これだからわたしはお主が苦手なのだ……」


苦い顔のまま晶さんは懐から紫の袱紗(ふくさ)に包まれた物を取り出して南天さんに渡した。

受け取った南天さんは包みを開けて「ほう」とつぶやく。


「……懐かしいな」


その言葉を見逃す晶さんではなかった。じっと目を細める。


「知って居るのか。南天」


「忘れた……」


「おい」


空っとぼける南天さんに晶さんが詰め寄る。


「そうは言ってもなぁ。

 ワシもいい年ゆえ、ひと月前に喰ろうた夕餉(ゆうげ)のお菜がなんだったか、トンと思い出せんでのう……すまんこっちゃ」


「そんなの誰だって憶えとらんわ。南天、お前、ふざけておるだろう。

 大体においてお前は以前『ワシは花も恥じらう(よわい)十三の乙女じゃ』とかぬかしていたではないか」


「……はて、そうだったかの」


南天さんは右手を右耳に宛がうと晶さんへと身体を傾ける。

その姿はアメリカンプロレスでレスラーが観客に向かって「はあ?よく聞こえないぞ」とアピールするポーズによく似ていた。


「……おまっ。このっ」


晶さんが短い息を続けざまに吐く。

あたしは晶さんが顔を真っ赤にして叫ぶのを初めて見た。

美人が怒ると怖いっていうのは本当なんだなとしみじみ思う。

晶さんが猛り狂う様を見てにやにやと笑いを浮かべていた南天さんだったが、突然表情を変えると真面目な口調で言い出した。


「ワシもかつては僧形(そうぎょう)の怪物などと陰口を叩かれた身。

 人としては死に今や東照神君となられた家康殿の臣であるとワシは今でも思うておる。

 今度は巫女として仕える身ぞ、とな。そのワシの(くち)はどうあっても動かせんのよ。

 知らぬ(・・・)ではなく忘れた(・・・)と答えるのがワシの精一杯じゃ」


「……では、どうあっても答えられぬ。と」


晶さんが南天さんににじり寄る。


「ああ。ワシが日光山東照宮の巫女でおる限りはな……」


「そうか」


「ああ」


場が静まる。

その静寂を壊したのはまたしても南天さんだった。


「……じゃが、ワシもそろそろいい年じゃ。巫女をやめて嫁に行っても良い頃合いではある。

 どうじゃそこの八兵衛とやら、ワシと(ちぎ)って夫婦(めおと)とならんか。

 ……お主の魂は実に面白いのう。一つになってドロドロに溶け合ってみたいものじゃ」


見た目十二歳の少女の舌がぺろりとその唇を舐めた。

目を細めてあたしを見ている。彼女の頬は上気して桃色に染まっていく。


「だッ、駄目だッ。八兵衛は御当家のもの、手出しは絶対に許さんぞ」


焦り気味の晶さんが声を上げてあたしと南天さんの間に腕を差し入れた。

あたしへとにじり寄る南天さんに「これ以上近づくな」という意志表示らしい。


「小隼人。そう連れないことを申すな。ワシとお主の仲ではないか」


「いいや。こればっかりは駄目の皮だ」


「そうは()うがのう。ワシも女界転生(にょかいてんしょう)してはや五十八年。

 そろそろ女子(おなご)としての倖せを見つけても良い頃合いじゃ。それに何人か子を産んで育ててみたいのでな」


「断る」


冷たい声で断る晶さんに南天さんがしな垂れかかってよよと哭いた。


「そこの八兵衛とやらはこの世にはない珍しい魂魄をしておるのに、お主だけが独り占めとはずるいと思うぞ」


顔を袂で隠しながら南天さんがにやりと笑ったのが見えてしまう。あからさまな嘘泣きだった。

彼女の言葉に晶さんが絶句してしまう。


「……なッ。わたしと八兵衛はそんな仲ではないぞ」


……えっ。

あたしはちょっとがっくりきた。


「ほう。その割にはお主、必死じゃな(・・・・・)


「違うッ」


それを見て南天さんが腹を抱えて笑い転げた。


「あーっはっはっは。お主をからかうと楽しいのう。いつも面白いことを返してくれるから実にからかい甲斐がある」


「やかましいわ十兵衛。大僧正にまで上り詰めておきながらこれ(・・)かと思うと頭が痛くなってきたわ……」


晶さんが額に手を当てて嘆息する。


「しかしワシも東照宮で巫女をしておる限りは話せんこともあるのよ。

 じゃから、ここは一つそこの八兵衛とやらと夫婦(めおと)になって寿(ことぶき)退社をすれば口も上手く滑るようになるのだがのう」


「もうええわ」


晶さんが溜息をついた。


「溜息をすれば倖せが逃げるぞ」


「お前のせいではないか。十兵衛」




実は二人は織田信長公の前で二河萬歳と称してしゃべくり漫才を披露した黒歴史があるという裏設定はどうでしょう?

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