1861年6月17日、ミズーリ州ブーンヴィル周辺。
1861年6月17日、ミズーリ州ブーンヴィル周辺。
翌日17日早朝に北軍のライアン准将はブーンヴィルの下流13キロの地点で部隊を揚陸した。あたし達は蒸気船に残留する砲兵部隊に紛れ込む。
午前七時を回ったあたりで、ライアン軍はロシュポートロードをブーンヴィルに向けて進発していった。
上陸した部隊の姿が見えなくなるまで見届けてからあたし達も行動を起こす。
人気の薄れた蒸気船の中であたしが抜刀すると他のみんなもそれに続いた。
刀身に朝日が当たってぎらりと輝く。
「晶と才子と蘭さんはあたしと一緒に船員たちの身柄の確保。
半蔵さんたち三人で船に残った砲兵の処理をして。
敵の死体は必ず腹を十文字に斬り裂いてから捨てること。
そうしないと腐敗ガスが腹に溜まって死体が川底から浮かんでくるから」
半蔵さんたちが了解の意志表示をする。
「――砲兵は白兵戦には精神的に弱いからすぐに崩れると思うけど油断だけはしないで」
あたしはみんなを見て――
「開始」と告げた。
「晶と才子と蘭さんとあたしで船員を押さえる。
あたしと晶が操舵室をやるから、才子と蘭さんは機関部をお願い」
そこまで言った瞬間、あたしには背後からの殺気が手に取るように見えた。
振り返りざま、見当で刀を振るうとあたしに向かってきていた銃弾が弾かれて「キンッ!」と鳴る。
次の瞬間、あたしを銃で狙った兵士の首に小柄が生えていた。
晶の一撃で敵は一言も発せずにくずおれる。
抱き寄せて頭を撫でると晶は嬉しそうに笑った。
それを見て呆れたように才子が言う。
「よくもあのじゃじゃ馬をここまで馴らしたものね」
「愛の力さね」
「あー、はい。はい」
あたしの返答に才子はつまらなさそうに手を振ってみせる。
蒸気船の制圧は10分ほどで終了した。
船員を一纏めにしてから一人づつに晶と才子と蘭さんが意識誘導を行う。
ライアン准将の部隊を南軍と誤認識させるのが一番手っ取り早いというのが晶たちの見解だった。
船員の洗脳を行う間に船内の後始末をして敵兵の死体をミズーリ川に投げ込んでいく。
半蔵さんと牛若さんには榴弾砲の準備をしてもらい、こちらも20分ほどで完了し、蒸気船はあたし達の支配下に納まった。
船員の一人を連絡役にしてあたし達は各自、砲の前に立つ。
「南軍部隊には砲兵はいないから、砲煙が見えたらそこ目掛けて好きなだけ撃っちゃて」
そう云いながらあたしは砲弾を装填する。
「ふ……、南部家縁の者が南部の支援というのも面白い」
南部家の女騎士がそう独りごちた瞬間、南西の方角から砲煙が上がった。
あたしは角度を調整して適当に一発撃ってみる。砲煙の上がったあたりで土煙が舞った。
「では、各自、撃ち方始め」
あたしの合図でみんなが好き勝手に撃ち始める。
普通の人間の兵隊だったら一人で一門を担当するなどできるわけもない。
そういう意味だけじゃなくても、エルフに成れたことは良かったと思っているし、
あたしをそこまで導いてくれた、妻の晶には感謝しきれるもんじゃない。
そしてあたし達はこちらの砲弾が尽き、パーソン率いる南軍の砲兵隊が到着してライアン准将の軍が殲滅されるまでしつこくいつまでも撃ち続けた。