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ダークエルフ忍法帖~津軽弘前女騎士始末~迫る氷河期ぶっ飛ばせ  作者: 上梓あき
第二部 八兵衛、江戸へ行く 元禄十四年(1701年)四月~五月
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32、八兵衛、男の娘に迫られる。


仏の嘘は方便といいますが、主人公は今回、方便を使います。

そして、作中において言及された稚児の意味は

https://ja.wikipedia.org/wiki/稚児

のページにある「大規模寺院における稚児」の項目のことを指しています。

ありていに言うと陰間かげまのことです。


明日月曜更新。



その日、あたし達は多賀城の城下に宿を取った。

というのも浪江さんがあたしに引っ付いて離れず籠に乗せることもできなかったから。

あたしの着物の端っこにしがみついて離れない浪江さんを肩車して歩く。

そんなあたしに采弥(うねね)さんが「すみません」と言った。


「あんな目に遭っていたんですから仕方ないですよね」


「お気遣いありがとうございます」


そんな風に謝る采弥(うねね)さんを見ていると平成年間の同世代との違いを否が応でも思い知らされる。

あたし達への挨拶で采弥(うねね)さんは数え十二、弟の浪江さんは数えで十と()った。

采弥(うねね)さんの父は浪々の身からの仕官のうえにすでに妻子が居たから結婚もありえず、家中に親類縁者はいない。

一去年に母親が亡くなり、昨年末に父である靱負(ゆきえ)さんがああなったため、

頼る伝手のない采弥(うねね)さんは仇討ちを幼い自分の腕一本で行わなければならなくなった。

平成日本であればまだ小学生でしかない采弥(うねね)さんが女一人で仇討ちに旅立たなければならなかったことの困難さは、到底あたしに想像できるものじゃないと思う。

しかも本来であれば仇討ち名義人となるべき弟の浪江さんは、仇である十八女(さかり)彌重郎(やじゅうろう)(さら)われてしまっている。

そういうわけでこの仇討ちについては家中においても異論があったという。

主家が別式女(べっしきめ)の存在を認めていない大名家だったこともあって、

采弥(うねね)さんが元服して仇討ちを行うことに反対する声が多かったものの、

殿様の鶴の一声で辛うじて仇討ち免許状が下りた。

つまり采弥(うねね)さんは仇と戦う前に家中の反対者と戦わなければならなかったということになる。

そうして家財の一切合切(がっさい)まで売り払って旅立ち、仙台まできて求める仇を見つけ出したのは執念というほかはない。

仇を討つことは叶わなかったものの、そこまでたどり着ける十二歳をあたしは今まで見たことがなかった。


「どうしました。八兵衛さん」


「……いえ、何でもないです」


あくまであたしの目から見ての感想だけど、采弥(うねね)さんの表情には歳不相応な落ち着きがある。

そうでなかったら自分の手で仇討ちをしようなどとは思わないだろうけど。


多賀城の城下町に入るまでの間中ずっと采弥(うねね)さんは(しょう)さんと話し込んでいた。

采弥(うねね)さんは父の靱負(ゆきえ)さんからずっと剣術を叩き込まれていることもあって、すぐに(しょう)さんの強さをすぐに見抜いた。

それからはずっと剣術の噺だ。

晶さんは采弥(うねね)さんの話にずっと付き合っている。

采弥(うねね)さんが話し疲れた頃に多賀城の城下町に着いた。

宿に着くと晶さんは采弥(うねね)さんと浪江さんの二人に剣術の稽古をつけると()ったけど、

浪江さんがあたしのそばを離れることを嫌がってたので采弥(うねね)さん一人を連れて庭に出る。


そして異変は夜に起きた。


「……んっ?」


床に就いていたあたしは妙な違和感で目覚めた。

なにか柔らかくて暖かいものがあたしの太ももに当たっている。

あたしの上から甘い吐息が降って来て耳に触れると溶けて消えた。


「……んっ、ぁあっ」


何が起きたのかと思って音のする方を見るけど目を開けるのが辛い。

ぼうっとした頭のまま目の焦点が合うまでじっと見つめた。

徐々に目が慣れてくる。


「ちょっと!?」


大きな声が出そうになるのはあたしは必死で抑える。

浪江さんがあたしの太ももに自らの股間を押し付けて腰を前後に動かしていた。


「何をしてるんですか!」


浪江さんはうっとりとした表情であたしを見ていた。

どこか意識の焦点が合ってないような気もする。

あたしの声が聞こえていないのか、浪江さんは股間を押し付けるのを止めてくれない。


「ダメっ!」


「嫌ぁっ」


あたしが無理に突き放そうとすると、浪江さんが尋常ではない力で離れまいとしがみついてきた。


「嫌っ、嫌あっ」


あたしを見つめる浪江さんの瞳と口から言葉が漏れる。


「父上ぇ、私を父上のおよめさんにしてぇ……」


……言っている言葉の意味がわからない。

じっと浪江さんを見る。

浪江さんの瞳の中にはあたしが映り、映ったあたしの瞳の中で浪江さんはうっすらと微笑んでいた。


「私は父上のお嫁さんになるのぉ……」


小さな身体があたしの上に覆い被さってきて、あたしの頭をそっと枕に押し付ける。


「ねぇ、いいでしょう?」


これは一体どういうことなのかとあたしは自問した。

采弥(うねね)さんによれば、十八女(さかり)彌重郎(やじゅうろう)は浪江さんを拉致してからずっと稚児(ちご)として仕込んできたらしい。

浪江さんは自らの心を守るために自分からわざと壊れたのか?

……これ以上壊されないために。

それでも浪江さんの願いとは裏腹に、彌重郎(やじゅうろう)の手によって

ホモという、目覚めたところでどうにも仕方がない世界に目覚めさせられてしまった。


……胸が痛い。


この子は……


胸の中で渦巻き出した様々な思考を放下(ほうげ、ほか)して、あたしは突き放すのを止めると浪江さんを抱きしめた。


「父上……」


浪江さんの呼吸が少し落ち着いたのを感じる。


「いいですよ。浪江さんがあたしのお嫁さんになっても」


「では……」


浪江さんが起き上がって自分の帯を解こうとする。

あたしも起き上がって浪江さんを抱きしめた。


「まだ。駄目です。

 こういうことは祝言(しゅうげん)を挙げてからからすることです。

 そしてあたし達はまだ祝言を挙げることはできません。

 ……わかりますね?」


あたしは浪江さんの目を見て言った。

浪江さんの瞳の中に理性と情熱の火花が激しく飛び交っている。

一度、瞼をしばたたかせてあたしを見返した浪江さんは幾分か落ち着いて見えた。


「……そう、ですね。

 父上にお嫁入する前に私には果たさねばならないことがありました」


「浪江さん。分かっていただけましたか」


あたしは幾分かほっとした気持ちになる。


「はい。

 ……ですが、父上には私を抱いて寝てはいただけませんか。

 おかしな……ことは……しません、から……」


俯きがちの顔から途切れ途切れに漏れ聞こえてくる言葉にあたしは仕方ないなと思いながら答えた。


「……仕方ないですね。ほら……」


()ってあたしは掛け布団をまくり上げた。

そこへ喜色満面の浪江さんが滑り込んであたしに引っ付く。


あたしの中には、

責任も取れないくせに手を出して浪江さんを(もてあそ)んだ十八女(さかり)彌重郎(やじゅうろう)に対する言いようのない怒りが渦巻いていた。




重ねて言いますが、主人公はホモではなくて異性愛者です。

登場人物というかストーリーが勝手に動いたために子育ての要素が出てきてしまっただけで、この先もホモになることはありませんのでそこら辺はご安心ください。

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