表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダークエルフ忍法帖~津軽弘前女騎士始末~迫る氷河期ぶっ飛ばせ  作者: 上梓あき
第二部 八兵衛、江戸へ行く 元禄十四年(1701年)四月~五月
64/131

30、八兵衛、仇討ち姉弟に出会う。(中)


運営から赤紙を頂戴し、過ぎたエロ描写は話の主題的に合わないと目が醒めましたので修正します。

エロをギャグに差し替えました。




晶さんは野盗を治癒魔法の(ついで)に眠らせる。

賊の自供によれば盗人宿はそう遠くはないところにあるようだった。

仙台領から逃走する前に最後のひと働きをするつもりだったらしい。

あたし達を皆殺しにしてから金を奪う算段だったとも。


「どうせ最後は打ち首獄門だが、残りも生け捕りにする」


晶さんの言葉であたし達は野盗のアジトに向かう。


盗人宿は海道から離れた竹林の中にあった。

ちょうど窪地となったあたりにぽつんと建つ一軒の百姓家(ひゃくしょうや)があって、道からは見えない位置関係になっている。

見通しの良いところを避けて物陰から物陰へと移りつつ、家の中の様子を伺う。

家の中を除いてあたりに人の気配はしない。


「……それほど多くはないな。

 八兵衛、近づくぞ」


言われてあたしは晶さんの後に続いた。

碧さんを除く他のみんながばらばらに散って家の周囲を押さえる。

近づくと中からは下卑た笑い声と肉が肉を打つ乾いた音が漏れ聞こえた。

そっと近付いて、開いた木の窓の隙間から中を覗き込んだあたしはその光景に息を呑んでしまう。


「……!」


座敷にいる男達が土間の方を指さしてしきりに(はや)し立てている。

何かと思ってよく見ると、男が幼い少女にのしかかり、腰ではなく熱弁を振っているところだった。


「いいかぁ、坊主。日本国憲法ほど攻撃的な憲法は存在しないんだぞ!」


あまりの剣幕で熱弁をふるう男の様子に押しまくられた様子で幼い二人はしきりに頷いている。


「日本国憲法の前文にはこう在るのを知っているか?

『われらは、平和を維持し、專制と隷從、壓迫と偏狹を地上から永遠に除去しようと努めてゐる國際社會において、名譽ある地位を占めたいと思ふ』とある」


「はぃぃぃ……」


問い詰められた二人はすでに青息吐息だ。

賊の仲間たちがそれを見てひそひそ話を始める。


「……また始まったよ。あいつ時々ああなるんだよな。

 狐狸妖怪の類にでも取り憑かれてるようで薄気味悪いんだが」


そんな周囲の反応もお構いなしに男は更に、腰ではなく熱弁を激しく振るった。


「國際社會において名譽ある地位を占めるとは如何なることか?

 それはつまり、モンロー主義の否定に他ならない。決して、映画女優の名前じゃないぞ!

 この憲法前文において、我が日本国の他国への介入は義務付けられているのだ!!」


感極まった男はひときわ大きな雄たけびを上げてさらに激しく熱弁を振るう。


「さらに憲法九条第一項において、我が日本国は国際紛争の戦争による解決を禁止されているのだッ!

『國際紛爭を解決する手段としては、國權の發動たる戰爭と武力による威嚇又は武力の行使は永久にこれを放棄する』と憲法にはっきりと書かれているっ!」


「そして第二項にはこれを満たすためにこうあるッ!

『前項の目的を達するために戰力は、これを保持しない。國の交戰權は、これを認めない』と!」


男は少女の同意を得ようとして、彼女の両肩を掴み激しく揺すった。

揺すぶられて少女は身体を激しく震わせる。


「これほどの攻性憲法がどこの世界に在るだろうかっ!

 戦争とは外交の一手段に過ぎないのにッ、それを縛るとは如何なることかわかるか!!?

 戦争とは開戦から講和による終戦までの全過程のことだというのに、この憲法は戦争放棄条項によって講和も放棄している!

 つまりっ! 日本は戦争になった場合!! 交戦相手国と降伏や和平を結ぶことは憲法違反なのだッ!!!」


……な、なんだってーーーッ!!!


あたしは腰を抜かして驚いた。

他のみんなは誰も意味が分からずに呆けている。

そんな中、男の講義はさらに続いた。

肩を揺さぶられて少女の身体が弾むように震えている。


「国家の最高法規たる憲法によって、戦争の講和による終結を禁じられた我が日本国が戦争を終わらせるために取りうる手段は二つしか残されていない!

 交戦相手国が国家崩壊するまで追い込んで国ごと解体してしまうか、さもなくば敵国の住民丸ごと完全に殲滅して人っ子一人住まない焼け野原に変えるかだッ!!

 こんなラディカルで危険な好戦的憲法など世界のどこにもありはしないッ!!!

 平和憲法などとは笑止千万!!!

 目立ちたくない! 平和が一番! スローライフ! とのたまいながら、歯向かう敵には容赦せずに皆殺しのなろう主人公を擬人化したのが日本国憲法なのだッ!!!!」


エエエエエエエエエエエエエエッツ!!!!!!!!


あたしは腰が抜けた。

知らなかった……そんなの……


「それは解釈の仕方だと言う者も居るだろう! しかしッ、よくよく考えてみて欲しいッ!!

 どうとでも解釈できるッ! ブレの有る国家の最高法規ってどうなのよォッ!!

 それって欠陥法規だろうがっ!!!」


……い、言われてみれば!


「そもそもこの憲法は日本を占領した米軍のドシロウトがやっつっけ仕事で作ったやっつけ憲法!

 押しつけ憲法論を否定する向きもあるにはあるが、大統領選挙で現職副大統領の売電が『日本国憲法はワシ(米軍)が作った』とゲロっているッ!!

 押しつけではないと主張するのならば、なぜこの公式声明に抗議しないのだ!!!

 抗議しないのが日本国憲法が押しつけのやっつけ憲法である何よりの証拠である!!!!」


「宣戦布告をされたら敵国37564(ミナゴロシ)以外の選択肢を許容しえない憲法は無効として廃棄すべきッ!!!!」


激しく熱弁を振るいながら男は言う。

その通りだ! とあたしは思った。


「おい、姉ちゃん。分かったか? 弟にもちゃんと言い聞かせてやれよ!」


「は……はいっ」


そう。

年若く幼い少女に見えたのは女物の服を着せられた上に女装までさせられた男の子だった。

男は男の子に激しく自説をぶつけていた。


あたしもその説に激しく同意してしまう。

そしたら、頭をすぱーんと晶さんに叩かれた。

思わず晶さんを見る。

仕方なさそうな表情で晶さんはあたしを見返してきた。

そこであたしは我に返った。


「待ちなさいっ! 未成年者略取誘拐の現行犯で逮捕するっ!!」


あたしが声を上げる。

晶さんが家の中に飛び込んで胡椒玉を打つ。

額に胡椒をぶつけられた男は男の子と精神的絆で繋がったまま、どう、と仰向けに倒れた。

乾いた木の音がして男の子の肩からその両手が外れる。


「ぎゃ」


「ぐぁ」


床板を破って半蔵さんが現れると座敷にいた野盗は床下に引きずり込まれた。

天井裏から落ちてきた蘭さんが脳天に肘を打ち下ろして賊を昏倒させる。

呂久之輔(ろくのすけ)さんが障子を破って突入するとそのままの勢いで男を弾き飛ばしてしまう。

男は柱に体を打ち付けられて悶絶した。


「もう大丈夫。大丈夫だから」


碧さんは白熱講義されていた幼い姉弟(してい)に駆け寄ると、弟の方が男の唾液で全身汚れているのも構わずに両手でひし(・・)と二人を抱きしめた。

一体、男はどれだけ激しく熱弁を振るっていたんだろうとは思う。



倒した野盗を狩り集める。


「半蔵と呂久之輔(ろくのすけ)殿は、どこぞで大八車を借りてきてくれ。近場の役人に引き渡す」


「うむ。わかった」


「お蘭は湯を沸かしてくれ」


「承知しました」


「八兵衛とわたしで後始末をするから、碧どのは姉弟の介抱を、牛若は碧どのについていてやってくれ」


「承りました」


夫々が散っていく。


あたしと晶さんは家の中の後始末をした。

熱弁を振るった、弁士たる男の唾液が土間に散らばっている。

顔をしかめつつもあたしはすべての戸を開け放った。

後始末を終えた頃に半蔵さんと呂久之輔(ろくのすけ)さんがそれぞれ大八車を引いて戻ってきた。

半蔵さんの方に捕まえた賊を簀巻(すま)きにして積み上げる。

晶さんが碧さん達に声をかけた。


「これより我らは賊どもを役人に引き渡してくる。碧どのらには戻ってくるまでのことを任せる」


「はい。行ってらっしゃいませ」


蘭さんと牛若さんが姉弟の身体を拭いている横で碧さんが答えた。


「八兵衛、お主もついてこい」


促されて家の外に出る。

途中でさっき倒した賊のところに寄って、呂久之輔(ろくのすけ)さんの方にも賊を積み込んだ。

身動きできないように括り付けたのを確認してから大八車を動かす。


「手伝ってもらってすまんな」


呂久之輔(ろくのすけ)さんと一緒に大八車を引いていると、彼女はそんなことを言ってきた。


「いえいえ。これだけの大荷物……一人じゃ無理でしょう、っと」


「多賀城の役所に持っていこう。ここからだとその方が近い」


見張り役の晶さんがあたし達の後ろについて歩き出す。




これで大丈夫です?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ